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幕間(3)

夕方屋敷に帰宅し、自室で室内着に着替え、ひと休みしていると、部屋の扉がノックされた。


返事をすると、大きな桃色の瞳を輝かせてリリアが部屋に入ってきた。


「お兄さま、おかえりなさい」


「ふふ、さっそく教えてくれるのかな?」


「えへへ。でもやっぱり体力的に2人しか見れなかったんですけどね」


言いながらリリアは僕の向かいのソファに座った。


「じゃあ事前に決めていた通りヴィエルジュ家の2人だけってことかな?」


「銀月の君の子どもがどんなスキルを持っているのか気になりますからね」


「それで、どうだった?」


僕は興味深い目を向けてリリアを促すと、リリアは誇らしげな顔をした。


「ノア様は物理攻撃耐性と身体強化のスキルでした。物理攻撃耐性なんて、さすがヴィエルジュ家次期当主なだけあって珍しいスキルですわ」


僕は心にさざ波がたったような気がした。


「……ですがディアナは身体強化だけでした」


続けて言ったリリアの納得のいかないような声音と内容に、僕は目を見開いた。


「え、それだけ? 辺境伯様みたいな見た目なのに……なんかがっかりだな」


僕は期待を裏切られた気分になった。この国の軍事を任せられている家には必要なスキルではあるけど、騎士を目指さない令嬢にはあまり必要がない。辺境伯様の子なら、5歳で既に魔力遮断ができている素質があるならスキルもきっと特殊なものを持っていると思ったのに。でも心のどこかで安心している自分がいた。


リリアは見ようと思えば見ただけで相手がどんなスキルを持っているかがわかる「見破り」のスキル持ちだ。相手が魔力を遮断していようとわかってしまう。2人目の「女神の化身」と同じ桃色の瞳に加え、特殊スキルも持っている。ただ体力値によって見られる人数が決まっているから、今のリリアでは2人が限界なようだ。


こう見るとリリアが次期ベリエ家当主にふさわしく思える。ルナヴィア王国は実力主義の国なため、特に領主貴族家は実力がないと第一子でも当主を継げない。


ヴェルソー公爵家が良い例だ。ヴェルソー小公爵は様々な便利な魔道具を作り出す才覚があり、魔法に関しても言わずもがな、飛び抜けた実力者なためにヴェルソー家の現当主はわざわざ同じヴェルソー領のロイスナー伯爵家から彼を養子にもらい、ヴェルソー家の次期当主に据えようとしている。


僕はこれはとても良い風潮だと思っている。無能な者が当主にならずに済むから。でも、特殊な能力持ちでも当主としての力量がなければ家を傾けるだけ。僕にはリリアみたいな特別なスキルはないけど、リリアにはできない魔力感知ができるし、当主としての器は単純なリリアよりも僕に分があると思っている。父上も、リリアがベリエ家の「女神の化身」と同じ瞳と特殊スキルを持っているとわかっても、次期当主になれとか特にそんなことは言っていない。屋敷の中もそんな空気感でもない。それにリリアはユアン殿下の最も有力な婚約者候補だから家を継ぐことはない。だから僕がベリエ家の次期当主なのは揺るぎない。


でも何故か不安は消えてくれなかった。そのせいかいつしか他人の能力や実力を計りたい、知っておきたいと思うようになった。知っておけばその人の器や力量を計った時、大したことないとわかれば特に何も思わないし、僕よりも上とわかればその人を越すくらい僕が努力すれば良い。


だからリリアのスキルを使って他人のスキルを暴く真似をし始めた。その最初の標的がヴィエルジュ家だった。あの並外れた美貌とこの国の誰もが憧れるヴィエルジュ辺境伯の子どもは一体どんな能力を持っているんだろうと、興味があった。辺境伯のスキルも知りたいところだけど、知ったところで数々の功績を持つ辺境伯を越す努力など無駄なことはしたくない。


「がっかりすることはないですわ、お兄さま。銀月姫と言われるディアナに特殊なスキルがなくても全然問題ありませんわ。他の令嬢みたいにお兄さまにひとめぼれしなかったですし、お兄さまが結婚するならディアナがいいと思います!」


一瞬胸の辺りがくすぐったくなったような感覚がした。


去年、リリアの誕生日パーティーで殿下や他の領主貴族家とうちの配下の貴族たちを招いた時、付いて来た令嬢たちが殿下や僕にばかり群がってきて、下心のある令息以外ほとんど誰も主役のリリアのことを相手にしなかったことがあった。見かねた殿下がリリアと一緒にいるようにしたけど、リリアは今でもそのことが少しトラウマとして残っている。だからディアナ嬢が僕や殿下に他の令嬢たちのようにならない――むしろ興味なさそうな雰囲気だったから、自分を見てくれる子だから僕と結婚しても大丈夫だと、単純に思ったのだろう。


「……まぁ確かにディアナ嬢と結婚すればあの辺境伯と繋がりを持てる。どの貴族家も彼女を狙っていることだしね」


「お兄さまはどうなのですか?」


「……さあ、どうだろうね」


はぐらかすように何でもない顔をした。


茶会では「惚れそう」などと思わせぶりなことを言ったけど、実際そうなのか問われるとよくわからない。でも、噂の銀月姫に会って噂よりも美しい容姿に最初思わず見惚れてしまった。その上ディアナ嬢に僕と同じ身体強化スキルしかないことを聞いて、親近感を持ったのは確かだ。


「ならディアナがこの家に何度も遊びに来るようになれば、お父さまもディアナをお兄さまの婚約者にって考えるかもしれないですわ」


「……ディアナ嬢が領地に帰らなければね」


リリアは失念していたのか、残念そうな顔をした。


けど2週間後、宣言通りノア殿とディアナ嬢を公爵家に招いたとき、ディアナ嬢が王都の屋敷に移ったことを聞かされたときは、期待のような、むず痒いような気持ちになった。

来週からまた週に1,2話ずつの投稿になります。


引き続き読んで頂けると嬉しいです。ブックマーク、評価なども受け付けておりますので、ぜひよろしくお願いします!

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