27.問題解決
迷路のような王宮の中を10分程歩くと、「こちらです」とベッセマーさんが扉をノックする。
「総長、お嬢様をお連れしました」
『入れ』
お父様からの応えがありベッセマーさんが扉を開けて私を中へ促す。
「ディアナ様、私は扉の外におりますので」
「わかった、お願いね」
レイを外に残し、私はベッセマーさんと執務室へ入った。
お父様は執務机で仕事をしていた。
執務室は領地の屋敷のよりやや広く、調度品もさすが王宮、どれもひと目で一級品とわかるものばかりだ。豪華というわけではないけど、お父様らしく華美すぎない落ち着いた空間である。
「座っててくれ。お茶を用意させる」
見ていた書類に何か書き込みながら言う。
はぁ、相変わらず神々しいまでの美貌……! やっぱりお父様が一番かっこいい! お茶会の疲れが遥か彼方へ吹っ飛びました!
「お時間をとって頂きありがとうございます、お父様」
「いや、構わない」
「そうですよ、ほっといたらずぅっと仕事しているんですから。お嬢様には毎日来て頂きたいくらいです
」
「いつも休憩しているが」
「ほんの5分程度は休憩とは言いませんよ。部下たちも可哀想です。私含め」
お父様は何とも言えない顔を浮かべた。
お父様に小言を言えるベッセマーさん、只者じゃないわ。
私は内心驚愕しながら、ソファに座ってお茶を飲む。お菓子もあるけど、正直もうお腹いっぱいだ。
「ジェフリー、悪いが外で休憩してきてくれ」
「お嬢様のお見送りは?」
「私がする」
「ではお言葉に甘えて。お嬢様、どうそゆっくりなさってくださいね」
「ありがとうございます」
ベッセマーさんが退出した後、お父様は執務机に置いてある白い四角いものに手を触れた。
「防音の魔道具を作動させた。これで会話は外には聞こえない」
そう言ってお父様は私の向かいのソファに長い脚を組んで座った。
「それで、魔法を使いながら剣を扱えないか、だったか?」
「はい。ハインに聞いたら、お父様の戦闘スタイルがそれだと」
「ディアナもそうしたいと?」
私はお父様の夜明けのような青い瞳を見て頷いた。仕事のし過ぎか疲れが滲んでいるように見える。
「ほとんど魔法をメインに戦うつもりですが、不意打ちとか防御のために剣を使いたいのです。それぞれの属性に防御魔法はありますが、咄嗟に出せるかわかりませんし、スキルで防御魔法を創っても周りに誰もいないときにしか使えないので……」
不意打ちに対応できるよう防御に特化した魔法を瞬時に出せるように練習はしているけど、もう一つ対応策があっても良いと思ったのだ。
「なるほど」
お父様が綺麗に整った顎に手を添えてしばし沈黙した後、顔を上げた。
「ディアナは片手で剣を使えるのか?」
痛いところを突かれた。今までずっと両手で木剣を持って稽古をしているから。
「……身体強化スキルを使えば……」
「スキルを使いっぱなしだと体力がもたないぞ」
「う……」
「まずは片手で剣を扱えるようになってからだ。それができれば私のように魔法と剣術両方を組み合わせて戦えるようになる。比重は逆だが」
お父様のように……!
私は自分が魔獣相手に魔法と剣で戦う姿を想像して顔を輝かせた。
「必ず片手で剣を扱えるようになります!」
腕の力がもっと必要だよね。筋力トレーニングの回数を増やさないと。
「ディアナ用に軽めの真剣をつくっておく。だがまずは木剣を片手で振れるようにしなさい」
「わかりました」
私は力強く頷いた。新たな目標ができ、今から鍛錬をしたくてうずうずする。こんな令嬢、騎士を目指す令嬢以外絶対いない。
「ところで、魔力は順調に増えているのか」
私は魔力についても聞きたかったので、ちょうど良くお父様から振ってくれた。
「増えてはいるのですが、鍛錬だけだと効率が悪い気がして……何か良い方法はありますか?」
お父様が少し考える素振りをした後、
「ディアナは魔力を圧縮しているか?」
と尋ねた。
私は首を傾げる。
「圧縮?」
「叔父上から教わっていないのか?」
「はい。フェリクス大叔父様からは最近は魔法理論とか魔法陣の書き方を習っていますけど、圧縮については何も……」
お父様はこめかみを押さえた。
「なるほど。ディアナの事情を知らないから魔力を増やす裏技は必要ないと教えていないのだな。逆にディアナの年齢ではまだ教えないことを教えているとは、叔父上も困った人だ」
私は苦笑いを浮かべた。
なんか難しいと思ったらまだ教わる年齢じゃないんかい。理論はちんぷんかんぷんなんだけど、魔法陣を書くのは楽しかったりする。
「魔力の遮断ができているなら圧縮は簡単だ。全ての魔力を器に入れた状態から、その器を小さくしていき、また元に戻す。これを繰り返すと徐々に器に空きができ魔力が増えやすくなる。やってみなさい」
私は目を閉じてお父様に言われた通りに、魔力の器を小さくしていく。ずっと遮断したままだったから魔力はすでに全部器の中だ。イメージは旅行などで使う圧縮袋。小さくした後、袋を元に戻すを繰り返す。
あっ、器に空きが出てきた! なるほど、こうやって増やせば良いのか。いちいちしんどい思いをして枯渇まで魔力を使わなくてもこれなら効率よく魔力を増やせるわ! お父様に聞いてよかった!
「お父様、できました! これでどんどん魔力を増やせます! 教えてくれてありがとうございます!」
喜色満面になると、お父様も、ふ、と表情を和らげた。
ああ、写真に収めたい。写真が撮れる魔道具ってないのかな。
今週は、平日は毎日投稿できそうなので、投稿していきます。
ぜひ読み進めて頂けると嬉しいです。




