25.アイドル誕生?
その後も私達はお菓子を食べながら、普段何をしているとか、何が好きとか、お互いのことを話した。ほとんどリリアが喋っていたけど。リリアの珍しい桃色の瞳は先祖返りらしい。2人目の『女神の化身』がベリエ家の人で、その人が桃色の瞳だったんだそう。『女神の化身』と同じ色だからといって特にリリアがベリエ家を継ぐわけではないとのこと。
「ディアナ嬢は『銀月の君』にほんとそっくりだね。もしかして属性も3つ?」
「銀月の君?」
「父上のことだよ」
「なるほど」
すごく合ってるわ。
「ちなみにディアナ嬢のことは『銀月の妖精姫』って王都では広まっているよ。いや、南にあるうちの領でも聞くからほぼ全土かな」
「え」
なにそれ! なんか恥ずかしい!
「洗礼式で神殿に入る時に集まっていた人の中に詩人がいたらしくて、ディアナをひと目見て『銀月に舞うアルバローザの妖精姫』って言い出したのがきっかけみたいだよ。それがうちの領の貴族にも広まってそこから各地にってところかな。噂が広まるのは早いから」
もしかしてユーリお兄様が言っていた噂ってこれ?
私が唖然としていると、「大丈夫だよ」とお兄様が頭をポンとしてくる。
「遅かれ早かれディアナのことが広まるのは父上も僕も予想していたことだから」
私はそれならと、コクリと頷いた。お父様とお兄様が問題なさそうにしているなら、気にするのをやめようと思った。
青い瞳に変えてお父様のようにただ呼び名ができただけなのは、もし金色の瞳のままにしていたらどうなっていたかを考えると全然マシに思えた。
「信頼されているね。羨ましいな」
アンリがお兄様に言う。上辺だけのような言い方に、さっき私に惚れそうと言ったのも本気ではないように思えた。この子の真意が見えない。お兄様も笑むだけに留めている。
「それで、属性も一緒?」
アンリがまた尋ねてきた。せっかく話を逸らしたのに。逸らしついでに自分の呼び名が判明してしまったけど。
警戒心が顔を出す。
「何故聞きたがるのですか?」
「ただの興味だよ。それに二人は魔力の気配がないけど遮断しているのかな? 前にパーティーで見た辺境伯様も魔力を消していたし、それはヴィエルジュ家では当たり前なの?」
「……父上からそのようにと」
「そうなんだ。面白いね」
アンリがにこりと笑った。
魔力感知ができるようね。他にも特殊なスキルを持っているかもしれない。遮断しておいて良かった。お父様もお兄様も外では魔力を遮断しているなら、もうこれはうちのルールってことになるわね。
それにしても、アンリが何を考えているのかわからない。極力接触を避けた方が良さそうだ。
「失礼、同席しても?」
ぱっと声をした方を向くと、アメジストのような瞳と目が合った。
「殿下、もちろんです」
アンリが促し、ユアン殿下は一人掛けのソファに座った。侍従がすかさずお茶を用意する。
「王妃様は?」
「少し席を外すそうだ。この会が終わる頃にまた来られる」
「そうですか。ここが最後ですか?」
「ああ。アンリたちとエルンストは今更ここで交流を深める必要はないが、ヴィエルジュ家とは初めてだからな」
「僕とリリアとエルンストは、殿下と幼馴染なんだ」
アンリが私達に教えてくれる。アンリは殿下に敬語だけど、二人の間には気安い雰囲気が感じられた。
公爵家は王族の家系に連なるものね。幼い頃から一緒に遊んだりしているのだろう。
「ノア殿は剣術が得意だと聞いた。辺境伯から直に指導してもらっているのか?」
「領地に帰って来たときは指導してもらうこともありますが、ほとんどうちの騎士団長に教えてもらっています」
「そうなのか。羨ましいな。私も近衛騎士団長に教わっているが、良かったら今度手合わせしないか?」
お兄様は少し面食らった顔をした後、「僕で良ければぜひ」と微笑んだ。
お兄様と殿下が手合わせ! 何それ見たい!
こうしてお兄様と殿下とアンリが並ぶと美が渋滞して背景に神々しい光が見える。
同い年なのよね、この3人。あと宰相の息子であるルカ・エスコルピオ侯爵子息もお兄様たちと同い年だ。なんだこの世代は。超絶美形世代じゃん。学院に入学したら学院のアイドルになる未来が見えるわ。某少女漫画のF4? いやルナヴィアだからL4とか? てかこの顔ぶれだと何だか乙女ゲームの攻略対象者みたいじゃない? 王子に小公爵に国軍の総長の息子に宰相の息子。あと年は少し上だけど近衛騎士団長の息子もいたわね。前世の友人に乙女ゲームを薦められてて一度やったことがあるけど、確かこんなハイスペックな攻略対象者ばかりだったわ。……はっ! まさかヒロインとかいたりしないよね?
私は思わず周りを見ると、離れたところにいるフィリア・へミニス辺境伯令嬢が頬を染めてお兄様たちを見ているのに気付いた。
見た目結構可愛いからヒロインになり得る気がする……いやでも確か乙女ゲームのヒロインってだいたい下級貴族じゃなかった? となるとヘミニス家は領主貴族だから違うわね。まぁ、ここは乙女ゲームの世界ではないから妄想はこの辺で終わりにしよう。
乙女ゲームを頭の中から消し去っていると、リリアの呟きが耳に入った。
「なにこの3人……聖域?」
どうやらリリアにも美少年たちの神々しいオーラが見えているようだ。
わかるわ。美形が集まるとそこはもう聖域よね。
私がリリアの呟きにうんうんと納得していると、
「ディアナは殿下のことどう思う?」
と、リリアが少し声を落として唐突に、そして興味深そうに聞いてきた。
「どうって?」
質問の意図がわからない。
「あれ、聞いてない? 今日のお茶会に招待された令嬢は殿下の婚約者候補なのよ」
ここまで読み進めて頂きありがとう御座います!
お盆期間中全然投稿できていなかったので、今週は2話ずつ投稿致しました。
これからも読んで頂けると嬉しいです。
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