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24.ベリエ兄妹

私はお茶を噴き出さなかった自分を褒めたい。すっかり気を抜いていたわ。


「ノア殿、久しぶり。良かったら話さない?」


「お久しぶりです。良いですよ」


「じゃあ、あっちのソファで話そうか」


ベリエ小公爵が壁際にあるテーブルと3人掛けの豪華なソファいくつかが置いてあるところを指した。


「ユーリ兄上はどうします?」


「あ、僕はリュシアンと話すことがあるから遠慮するよ。小公爵、失礼します」


ユーリお兄様、近衛騎士団長の息子と知り合いなんだ。同い年だし、領地も隣だから交流があるのかな。私みたいにずっと引きこもっているわけじゃないもんね。


私はお兄様の後についてベリエ兄妹の向かい側のソファに並んで座った。警戒すべき相手が目の前にいて心臓が外に聞こえるんじゃないかってくらいバクバク鳴っている。


私が警戒していることを悟らせないようにしないと怪しまれるわ。一旦落ち着こう。


プレートの柄の数はさっき数え終えてしまったので、私は侍女がケーキスタンドに用意してくれたお菓子の数を数える。できるだけ無になりながら。


「すごい熱心にお菓子を見てるけど、お腹空いてるの?」


「……え?」


話しかけられたような気がして目線をお菓子から外すと、ベリエ小公爵が面白そうに私を見ていた。


「あ、いえ、そういうわけでは……」


さっきも見られていたからか、あの青藤の瞳が私を向いてるとなんだか落ち着かない。


「ふふ、そう。……ディアナ嬢とお呼びしても?」


「……ええ」


「僕のことはアンリと呼んで」


「ですが小公爵様を気軽に名前で呼ぶことは……」


「僕が良いって言ってるんだから、呼んで」


言いながらくすっと、妖しさのある笑みを浮かべた。


「わかりました。……アンリ様」


結構強引なところがあるな、この子。そして隣からピリついた気配を感じる。


するとアンリの隣にいる妹が前のめりになって感心するような声を上げた。


「お兄さまのこのお顔を見ても顔色を変えない子がいるなんて……! わたくし、あなたとお友達になりたいわ!」


瞳がピンクトルマリンのようにキラキラと輝いている。何がこの子の琴線に触れたのか、警戒している相手に友達になりたいと言われてしまった。友達って言われてなるものだっけ。


「ねえ、ディアナって呼んでもいい? わたくしのことはリリアって呼んで! あ、様はいらないからね!」


裏表がなさそうな屈託のない笑顔がとても可愛いらしい子だ。


「公爵家の方を呼び捨てなんて……」


やんわり引いていると、同い年だから気にしなくていい、敬語もいらないと言われてしまった。ぐいぐい来るな……


「リリアがごめんね。実は君を初めて目にした時からずっとソワソワしてたんだ。仲良くしてくれると嬉しいよ」


「だってディアナ、月の妖精みたいですっごくキレイなんだもの。わたくしと同じ5歳とは思えないくらい大人っぽいし、お兄さまにみとれないし、わたくしとキャラがかぶらないわ!」


確かに私にはこんなキャピキャピ要素はないけど、ブラコンなところは私と似てるわね。なんだかあまり警戒しなくても大丈夫な気がしてきた。それに、身内しか関わりがない私にとって、初めてのお友達ができることに嬉しさがこみ上げてくる。


「よろしく、リリア」


私は心のままに微笑んだ。


すると、リリアの顔がみるみる赤らんだ。


「どうしましょう、お兄さま。ディアナにほれてしまいそうですわ……」


「ふふ、それはちょっと困るな」


「どう困るんです?」


今まで黙っていたお兄様がアンリに底光りする翡翠の瞳を向ける。


「ん? ああ、僕もディアナ嬢に惚れそうだからね」


私はぎょっとした。


何を言い出すんだ、この子は! 今からそんなチャラいと将来どうなっちゃうのよ。


「お(たわむ)れを」


「美しい妹をもつと大変だね」


「その言葉、そのままお返ししますよ」


「それはリリアが美しいと言っているのかな?」


「そうですね、元気が良くてとても可愛らしいと思いますよ」


「……だって。良かったね、リリア」


「はい!」


私はお兄様とアンリの笑顔での言葉の応酬(おうしゅう)にハラハラしていた。

そしてお兄様のリリアに対する褒め言葉が、副音声で「御しやすそう」と聞こえたのは気のせいかしら。お兄様、相手は公爵家ですよー。まあ、アンリも意味わかってそうなのに会話を合わせているところからお兄様と同類な気がした。

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