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23.お茶会の始まり

公爵家が揃ったからか、空気がピンと張り詰めている。


ねぇ、これって子ども同士のお茶会じゃなかった? 全然そんな雰囲気じゃないんだけど。なにこの社長を交えた重役会議みたいな空気は。もう帰りたい。


私は斜め向かいに座るお兄様に視線を投げた。


『帰りたい』


気付いたお兄様が、良いわけないでしょ的な笑顔を向けてきた。ですよねー。


それにしても誰も一言も喋らない。公爵家が話さない限りそれより下の身分の者は無闇に雑談なんてしようとしない。


私はこの空気感の中でできるだけ無でいようと、テーブルに並んだケーキスタンドのプレートに描かれた小花の数を数え始めた。


そしてちょうど自分のティーカップに描かれた小花と葉の数を数え終えたところで、扉が開き、白い騎士服を着た若い男性が王族の到着の先触れをしてきた。


やっとか、と心のなかでため息をつき、私達は一斉に立ち上がり王族を待った。


しばらくして扉が開かれたとき、皆一斉に頭を垂れて二人の王族を迎えた。


空気が変わった気がした。オーラみたいな、王族特有の空気感がこの場を支配し、心臓がきゅってなるような圧を感じる。


二人が上座に座ると、「どうぞお座りになって」と王妃様が高く柔らかい声音で私達に促した。


緊張感がすごい。私は王族の二人と向かい合う席についているけど、顔が見れない。

緊張をどうにかしようと王妃様の襟元のレースのフリルの数を数えてみる。


「ふふ、そんなに緊張しないで。突然の催しにもかかわらず集まってくれてありがとう。私はこの国の王妃、アリア・デュ・ラ・ルナヴィア。今日は子ども同士の交流を兼ねたお茶会だから、皆肩の力を抜いて楽しんでくれると嬉しいわ」


深い森のような濃緑の瞳をした王妃様は、タレ目がちな目元を和らげ微笑んだ。


見た目からお母様と同じくらいの年だろうか。亜麻色の髪を綺麗に結い上げ、王家の色である紫色の宝石がついた髪飾りがとても似合う美女だ。優しそうな印象だけど、私としては余計なお世話なお茶会を提案した張本人でもあるから油断は禁物だ。


「王子のユアン・ドュ・ルナヴィアだ。これを機に皆と交流が深まれば嬉しく思う」


子供特有の高めの声に高潔さが(にじ)んだ声音だ。ユアン殿下の瞳は透き通るように輝く珍しい紫色で、これはルナヴィア王家の血筋の証だと授業で習った。初代国王が紫の瞳だからだ。髪色は淡い金色をしており、少し癖のある前髪が凛々しい顔立ちを少し和らげている。見た目と言動から聡明な印象を受けるけど、お兄様と同い年らしい。


「では始めましょう」


王妃様の合図で控えていた数人の侍女と侍従が動き出し、お菓子とお茶が用意されていく。ハーブティーの良い香りが漂ってきた。


喉が渇いていたからやっと始まって助かった。お茶菓子もクッキーやひと口サイズのケーキなどよりどりみどりで、どれから手を付けようか迷う。


「パーティーなどで既に顔見知りの子もいると思うけど、初めての子もいるでしょうから自己紹介をしましょうか。まずはベリエ公爵家の二人から。座ったままで良いわ」


王妃様が醸し出す雰囲気が柔らかいからか、張り詰めたような緊張感が霧散していっている気がした。


ベリエ公爵家、シュタインボック公爵家、エスコルピオ侯爵家、レーヴェ侯爵家、ヴァーゲ侯爵家の順にそれぞれ自己紹介をし、お兄様の番になった。


「ノア・ヴィエルジュです。このような場に招待して頂き光栄に存じます。よろしくお願い致します」


隙のない笑みを浮かべるお兄様はそつなく挨拶をする。ふとフィリア・へミニスを見るとやっぱりまた頬を染めていた。


あの子、お兄様狙いなのかしら。もしそうならお兄様にふさわしいかどうか妹として見極めないと。


私の番になった。周りの視線が突き刺さる。今にも口から心臓が飛び出そうだけど、震えそうな声をなんとか抑えた。


「ディアナ・ヴィエルジュです。お招き頂き光栄に思います。どうぞよろしくお願い致します」


お母様直伝の笑みをたたえながら、全神経を集中させる。第一印象は大事だからね。


すると王妃様が目を丸くし、そしてふわりと微笑んだ。


「ディアナ嬢は辺境伯様にそっくりね。微笑んだ顔を見るとなんだか見てはいけないものを見てしまったような気になるわ。ふふふ」


私はどう反応して良いかわからず、唇を引き結んで顔色を変えないよう頑張った。


お父様、滅多に笑わないもんね。心なしか他の子もぎょっとした顔をしているような……特にシュタインボック小公爵が。


最後にへミニス辺境伯家が自己紹介を終え、王妃様が「交流会だから私に構わず子ども同士好きにお喋りしてね。席も移動して大丈夫よ」と言ったため、皆おずおずとだけどまずは同じテーブル内で会話がスタートした。


「ここは身内同士だし、お菓子を食べながら話そうか」


ユーリお兄様がクッキーをつまみながらそう言ったので、私とお兄様も遠慮なくそれぞれ好きなお菓子を口に運びながら、互いに近況などを話し合った。


さすが王宮で出されるお菓子はどれもとても美味しい。このチョコケーキも濃厚で甘さ控えめで私の好きな味だ。ここに来るまで憂鬱だったけど、美味しいお菓子を食べに来たと思えば、ちょっとは来た甲斐があったかも。


お兄様たちとお喋りしながらお茶を飲んでいると、誰かがこちらに近づく気配がしたので目線をあげると、ベリエ公爵家の兄妹だった。

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