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22.公爵家

招待された貴族は全員領主貴族家の子息令嬢だ。年齢は5歳から10歳まで。

子供同士のお茶会といえど、ただのお喋りにはならない。高位貴族の、それも領主貴族家で、優秀な子供ばかり集まっているのだ。会話も慎重にしないと足を掬われるかもしれない。お兄様の言っていた通り、子供だからといって油断できないわ。


私がそう考えているからなのか、空気が重く感じる。


早くも帰りたい気持ちを抑えながらこっそりと周りを観察していると、扉の外からノック音が聞こえた。


「アンリ・ベリエ様、リリア・ベリエ様がご到着なさいました」


執事の声で、扉の側に控えていた侍女が恭しく扉を開けた。


来た、ベリエ公爵家!


貴族の中で公爵家は一番格上だ。私達は一斉に立ち上がり、貴族の礼をした。


コツコツと2人分の靴音が大理石の床に響く。


「楽にしていいよ」


ベリエ小公爵がそう言って妹とともにルカ・エスコルピオ侯爵子息と同じテーブル席についたので、私達も座った。


ベリエ小公爵はお兄様と同い年だけど雰囲気が既に大人の男みたいな子だ。露草色の髪はとても(あで)やかで、青みがかった藤の瞳は見つめられると引き込まれそうな程綺麗だ。しかも左の目元に泣きぼくろがあるからか、艶っぽく見える。なんか年上のお姉さんにモテそうだわ。


妹のリリアは腰まで長い濃紺のストレートヘアに、珍しい桃色の瞳をした愛され系美少女みたいな容貌だ。

私は転生者だからこんな状況で緊張していても平然を装っていられるけど、リリアも同じ5歳なのにあまり緊張している様子がなく、むしろ堂々としている。さすが公爵家だ。


女の子が3人になったことで、衣装の色味もあってこの場が一層華やかになった。


あとはシュタインボック小公爵だけだ。まだ始まるまで少し時間があるけど、結構ギリギリまで来ないのね。


はぁ、早く始まらないかなぁ。そしてとっとと帰りたい。魔法の練習をして少しでも魔力を上げていきたいのに。


焦燥を感じていると、ふと左側から視線を感じた。


なんだと思ってそちらに瞳を動かすと、ベリエ小公爵が青藤の瞳に興味深そうな色をたたえて私を見ていた。


心臓が一瞬跳ねる。


「……」


「……」


何事もなかったように、交差した視線を私は不自然に思われない程度にそらした。


くっ、顔がいいな……! 美形に耐性がなかったら、顔を赤くしていたかもしれない。

ていうか、何でこっちを見てるの? 私は今魔力を遮断しているし、安心安全なステータスにもなっているから特殊なスキルを持っているとしても何も不審なところはないはずよ。


はっ! 特殊なスキルがなくても、もし魔力感知ができるなら何で魔力の気配がしないのか疑問に思うかも! 


……あ、待って。お兄様も魔力を遮断しているわ。この中で他に遮断をしている子は……あれ、いない? 私とお兄様だけ? うん、これはヴィエルジュ家のルール的なことで誤魔化せるわね。


そのあとも何で見られているのかわからず頭の中をぐるぐるしながら、顔に出さないようにお父様ばりの無表情で過ごしていると、やっとシュタインボック小公爵が到着した。


ベリエ公爵家の兄妹以外が立ち上がり、貴族の礼をして迎えた。

エルンスト・シュタインボック小公爵は特に何か言うこともなく、右側のテーブルの空いている席へと向かった。


でもいつまでも座る動作をしないので不思議に思って目線をそちらに向けると、なんと私に顔を向けて固まっていた。


「……」


「……」


瑠璃色の瞳を見開き驚きに満ちたその顔は、私が洗礼式で神殿に向かったときに馬車の窓から領民たちに手を振った際に見た領民たちの顔とそっくりだった。


ベリエ小公爵とは違ってわかりやすい。

はいはい、私はお父様の女の子バージョンですよ。それより早く座ってくれないと皆が座れませんよ。


「……エルンスト殿」


ベリエ小公爵の涼やかな声でシュタインボック小公爵ははっと我に返り、何事もなかったかのように優雅な動作で席についた。

他の子も特に表情が変わることなく着席した。


領主貴族家だからか皆教育が行き届いている。お兄様に見惚れていたフィリアって子も浮ついた雰囲気はいつの間にか消えていた。


シュタインボック小公爵は着席してからは目を閉じ置物のようになっている。銀色の長い睫毛が陶器のような肌にかかり、私とお父様よりも濃い目の銀髪は肩で切り揃えられ、絹糸のようにさらさらしている。目を閉じたその横顔からは少し神経質そうな印象を受けた。


瑠璃色の瞳に銀髪……少し色合いは違うけど、私とお父様と同じような色を持っているからか、少し親近感を覚えた。私は元は金瞳だけど。

でもシュタインボック家って黒竜侵略派なのよね。黒竜は女神様の弟だから悪い竜って思えないし、うちは中立派だけど私個人としては擁護派だ。


あとは王族を待つだけ。しんとした空気の中、あとどれくらい待たないといけないのかと、私は内心ため息をついた。

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