21.サロンにて
王宮の正面玄関に着いた。
初めて来た王宮は、まだ玄関だというのにどこもかしこも華やかで、目に入るのは最高級の調度品ばかりだ。あまりキョロキョロするのは淑女としてはしたないので目線だけ少し動かした。
「ヴィエルジュ辺境伯家のノア様とディアナ様ですね。ようこそ、お待ちしておりました。これよりサロンへとご案内させていただきます」
老齢の執事が恭しく礼をし、奥へ歩き出す。
私はお兄様にエスコートされながら執事に付いていく。緊張がMAXだけど、隣にお兄様がいるのが救いだ。これが一人だったらと思うと……
お兄様も王宮は初めてなのに堂々としていて、7歳の年齢にそぐわないような隙のない笑みを浮かべている。私もここに来てしまったからには腹をくくり、お兄様のように堂々とするよう努めた。
歩いていると、そこかしこに人がいることに気づいた。
紺色の絨毯がしかれている廊下には使用人や衛兵だけでなく、文官みたいな王宮で働く人たちが私達を見ていた。皆時が止まったかのように固まっている。
隣を歩くお兄様が前を向きながら囁くような声で、「父上の子を見に来たようだね」と言った。
なるほど。あのお父様の子供ってだけで興味をそそられるよね。お父様、存在感すごいし。結婚してもあわよくばを狙う女性がまだ結構いるってハインが言ってたな。
「ノア・ヴィエルジュ様、ディアナ・ヴィエルジュ様がご到着なさいました」
執事が豪華な白い扉をノックした後こう告げると、扉が内側から開けられた。
執事に促されサロンの中に入ると、そこはとても広い空間だった。暖房が効いているのか暖かい。
よく手入れが行き届いたとひと目でわかる程の見事な庭園と、それが見渡せる大きなガラス窓、宝石の山みたいなキラキラ輝くシャンデリア、ピカピカに磨かれた大理石の床、白いクロスがかかった4つの丸テーブルが目に入った。
上座の丸テーブルには椅子が2脚、向かい合うようにして配置された3つの丸テーブルには椅子が3脚ずつ置かれている。
扉から入って左側の丸テーブルには1人、右側の丸テーブルには2人、真ん中の丸テーブルには見知った顔の子供が1人座っていた。
4人の視線が私達に集まる。
一様に目を見開いて固まっている中、親しい友人に出会ったときのように片手を挙げて笑顔を向けている子がいた。
「やあ、ノア、ディアナ。久しぶり」
「お久しぶりです、ユーリ兄上」
「お久しぶりです」
声をかけてきたのは、真ん中の丸テーブルに座る男の子。長い前髪を真ん中で分けた鮮やかな金茶の髪に、お兄様と同じ翡翠の瞳は大きく、甘やかな顔立ちをしている。
彼は私達の従兄だ。名前はユーリ・ヴァーゲ。お母様の実家のヴァーゲ侯爵家の子息であるユーリお兄様はお母様の兄の子供だ。ノアお兄様の3つ年上で10歳。ユーリお兄様は私が3歳のときに領地に遊びに来たことがある。今日会うのはその時以来だ。
私達はユーリお兄様と同じテーブルについた。
「元気そうでよかった。それにしてもディアナは本当に5歳? 銀月の妖精姫の噂は確かなようだね」
「末恐ろしいですよ」
お兄様が肩を竦める。ところで噂って?
「ふふ、末恐ろしいのはノアだってそうでしょ」
ユーリお兄様が翡翠の瞳を背後を示すように動かした。私の右にあるテーブルにいる、肩まで伸びた栗色の髪をハーフアップにした、水色のガラス玉みたいな瞳の可愛らしい令嬢がお兄様に見惚れていた。
お兄様絶対モテるから、こうなるよね。学院に通いだしたら大変なことになりそう。
私以外の女子はまだこの子しかいない。お兄様と同じくらいの年齢から、へミニス辺境伯家のフィリアだろう。彼女には私と同い年の弟がいるけど、今日のお茶会には招待されていない。
フィリアと同じテーブルにいるのが、ユーリお兄様と同い年のレーヴェ侯爵子息のリュシアン。レーヴェ侯爵は近衛騎士団長だ。彼はその息子ということで、体格も優れている。茶褐色の髪色に意思の強そうな橙の瞳をもち、顔立ちは端正だ。
この日のために出席者に関することは派閥も含め頭に入れてきた。
へミニス辺境伯家は黒竜侵略派で、レーヴェ侯爵家は中立派だ。
まだ空いている席は上座の2脚を除いて3脚ある。ベリエ公爵家の兄妹とシュタインボック小公爵の席だ。
シュタインボック公爵家は侵略派だからへミニス家と同じテーブルにつくはず。うちと同じ中立派のベリエ公爵家は私の左側のテーブルの残り2脚に座ると思う。今そこに1人座っているのは黒竜擁護派のエスコルピオ侯爵子息のルカ。エスコルピオ侯爵はこの国の宰相だ。その息子の彼の年齢はお兄様と同じ7歳。新緑色の長い髪を一つに束ね、ヘーゼルの瞳には知性が宿っている。
あれ、シュツェ侯爵令嬢も出席するのよね? 椅子が1つ足りないわ。欠席かしら?
椅子の数に誤りがありましたので、訂正をしました。




