175.転移の魔道具作り(3)
次は転移の魔法陣に取り掛かる。
「転移魔法の魔力消費量はどれくらいなんだ」
「雷魔法くらいで、35000かな」
「げっ、まじか。Aランクの魔石だけだとすぐ交換になるかもな。ドラゴンの魔石を最低一つは組み込んだ方が良さそうだ」
ミヅキが使っているピアスと指輪はブルーホーンディアの魔石だ。あれも魔石をドラゴンのに変えた方が良いわね。肝心な時に転移できないってなったら大変だもの。
ハルトさんはソファから立ち上がって色とりどりの一際大きな魔石が入った木箱を運んできた。
「よいしょ、と。ここに入っているのがドラゴンの魔石だ。角型と額に埋め込まれていた卵型がある」
私は木箱から赤や橙が混ざったダチョウの卵くらいある大きさの火竜の魔石を両手で持ち上げた。
「ここにあるのは今までドラゴンの討伐で手に入れてきたやつの一部だ。全部で8個ある。設計図上必要な魔石は5個だから1つはドラゴン、あとの4つはAランクの魔石にすれば5,6年は保つだろう。転移の頻度によって変わるだろうが」
「じゃあドラゴンのは6個必要ってことね」
「ああ。念の為仕入れておいて良かったぜ。だが問題はドラゴンがいなくなったことでもう魔石が手に入らないってことだ。ヘレストリアにこれだけの大きさの魔石はほとんど採れない。国が保管している残りのドラゴンの魔石がなくなれば転移の魔道具が何年か後には使えなくなってしまう」
そういえばハルトさんにはまだ言ってなかったわね。
「大丈夫よ。全ての森の浄化が終わったらダンジョンが出現するから」
「え、なんて?」
「ダンジョン」
「……は?」
「あれ、ダンジョン知らない?」
「聞いたことはあるけど、え……あのダンジョンで合ってる? 迷宮みたいなやつで魔獣と戦って宝をゲットしたり階層クリアしてボス倒したりするアレだよな?」
「うん、そう」
私は持っていた火竜の魔石を箱に戻した。
「えー……ダンジョン……うわ、まじかよ……」
頭を抱えながらも興味と好奇心が黒い瞳に現れていた。
「目的は冒険者の救済措置なんだけどね」
「ああ、魔獣が浄化されて稼げなくなるもんな。それ総長知ってる?」
「もちろん」
「だよな……ダンジョンてディアナが創るってことだよな。そんなことして大丈夫なのか?」
「あ、私じゃなくて神様がやってくれるの」
「は? 誰って?」
「創造神オルベリアン」
「オル、ベ、リ、アン……」
ハルトさんの目が細くなった。
「……それはどういう顔?」
「スケールの大きさに慄いて思考が停止しそうなのを阻止している顔」
わかりづらいわね。
「まぁ、最初は自分のスキルでダンジョンを創ったんだけど、中を確認したら魔獣が全くいなかったのよ。界渡りの魔法が創れないのと同じで制限がかかって魔獣を生み出すことができなくて……それで、神殿に行ってどうしたら良いのか祈ったらルナ様と創造神オルベリアン様がダンジョンを創ってくれるってことになって」
「ちょ、色々飛躍してないか? 魔獣が創れないからって何でそこで神殿に行くってなるんだ」
「え……? ああ、聞いてみれば何とかなるかなって思って。ほら、私の魔力って女神ルナ様の神力だし」
本当はノヴァ様に言われたからだけど。
「だからって相手は神だぞ。そんなホイホイ頼まれてくれるもんなのか?」
「浄化をしてくれたお礼だって」
「……まじか」
冒険者の救済のために出現するけど、ルナ様と星の眷属神たちとオルベリアン様が考案したダンジョンだから絶対面白いし楽しいに違いない。「ミヅキ」として絶対踏破したいわ。
「で、そのダンジョンでドラゴンの魔石が出るってことか?」
「ええ。ドラゴンが階層のボスとして出現するダンジョンもちゃんとあるからね。ラヴァナの森に出現する予定よ」
「ダンジョンもって……ダンジョンは1つじゃないのか?」
「全部で15よ」
「まじか……なんでそんなに?」
「私とオルベリアン様、ルナ様、12の星の眷属神それぞれが考案したから」
ハルトさんはまた目を細くした。というか目を閉じた。そして両手をパチンと叩く。
「よし、もうこの話はやめよう。ディアナは魔道具を作りに来たんだ、有効に時間を使おう」
とうとう思考を停止させたみたいだ。
次回は12/2(火)に投稿致します。




