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162.ノヴァ様の相談

「いえ……先延ばしにしてもらってます。というか、ご存知だったんですね」


「ジュードと仕事をしていれば耳に入る」


「そうですよね……」


カップをテーブルに置いた。


この話題、あまりノヴァ様としたくないな。


「……会ったりしているのか?」


「最近は全然会っていません。ほら、浄化とか色々やることがありますし」


「……そうか」


心なしか安堵して聞こえるのは私の願望による幻聴ね。


黒竜の浄化で倒れて以来候補たちには会っていない。約束を持ちかけられても断らせている。浄化とかやることがあるって言ったけど、婿養子候補と会っている私をノヴァ様に知られたくないのが本音だった。


3人の候補者の中で今のところマクファーレン家のユージンが有力だ。そして、アルバローザを使った事業を最も大きなものとして展開しているうちとしてはあまり無下にはできない相手でもある。


青薔薇の品種の中でもアルバローザは特殊な薔薇だ。どの品種よりも花弁が大きく存在感があり、夜明けの空のような深みのある青は気品に満ちている。何より元王族である曾祖母が作ったプレミアものだ。市場価値がとても高い。


その薔薇をマクファーレン家の治めるヘゼの地のみで育成と研究が行われているため()わば独占状態だ。ヘゼはスピカの隣街で距離が近く、その上広大な土壌が備わっていて、化粧品事業を担うお母様もよく育成状況の把握や研究、管理のために出向いたりしている。


うちの一大事業を支えているのはマクファーレン家だと自負があるのか、その環境で育ったユージンも結構面倒な性格をしている。2号を通して見た彼は色白で美形は美形なんだけど会話の節々で「自分大好き」や「驕り」が垣間見えて、毎回2号は早くお茶会を終わらせたがっていた。


政略結婚は好みの良し悪しで決められることはほとんどない。この世界の結婚は家と家だから。なのに私に決定権があるのはありがたい。だからそれぞれ(2号が)会って吟味をしてきた。けれど、どうしてもブレーキがかかってしまう。


私の力が国に露見される前に婚約者を決めないといけないからどこかで妥協をしないといけないことはわかっている。その覚悟が迫られる日が来ることも。でも、ノヴァ様に出会ってしまった。


ノヴァ様は形の良い顎に手を添えて何やら考え事をしている。綺麗に通った鼻筋、伏せた黒い睫毛、長い指……


今思えば一目惚れだったのかもしれない。


でもそれは超絶美形だからじゃない。人並み外れた美形はもうお父様で見慣れている。たぶん、どこか翳りのある瞳が気になったからだ。前世の私と重なるあの目……同情でも自己満でも良いから何かしたい気持ちから、自分から関わりを持った。


気になる存在から気づけばそれが恋に変わって、どうしようもない不毛さを感じながらも期待と不安で一喜一憂して、でもそれが楽しくもあって……


「ディアナ」


「っ、はい」


やばい、ずっと見ちゃってた。


「エルガファルは小麦を主に生産しているが、それは他でも生産されている。もう一つ何か目立つようなものがエルガファルにあればと思っているんだが、何かないだろうか」


思わずきょとんとしてしまった。


何かと思えば急に真面目な話になった。でもノヴァ様が何か助けが必要な時は絶対協力したいから真剣に考えたい。


「うーん……そうですね……」


「人間のことをある程度学んではいるが、発想力というものは一朝一夕では養えるものではない。何か思いつくものがあれば教えてほしい」


扉付近にいる侍従を気にしながらノヴァ様は声を落として言った。未婚の男女を部屋に二人きりにできないのでこの場に侍従がいるのは仕方がない。


ノヴァ様の真剣な様子に私は頷いて応えた。


中継ぎといえどリュトヴィッツ家の当主として栄えさせたい思いがあるのは嬉しいことだ。何より好きな人に頼られるというのは胸の中がムズムズする程喜ばしかった。


ヴィエルジュ領はラヴァナの森を有しているため550年前に起きたスタンピードによって家畜がほぼ全滅してしまった関係で主に生産・加工をしているのは小麦や米、鉱物に限られていた。その中でエルガファルでは小麦を主に生産している地だ。小麦も食卓に欠かせない大事な生産物ではあるけど、他領でも生産されている。ノヴァ様はエルガファルのブランドとなるものが欲しいということよね。


その時私ははっとした。


エルガファルブランドの何かがあれば、それによってノヴァ様が大成したら、マクファーレン家よりも有力になる……?


婿養子候補のマクファーレン家、リンフォード家、メレディス家よりもリュトヴィッツ家が台頭すればもしかしたら……


邪な考えが浮かぶ。


そう考えてしまうのは、恋愛結婚が主流な前世の影響があるからだ。貴族なのにまだ憧れを捨てられないなんて、令嬢失格ね。


でもノヴァ様は「結婚しない」を条件にリュトヴィッツ家の養子に入ったから、それが叶うのは難しいかもしれない。


けれど、ルナ様のためでもこの国のためでもなくて、今度は自分のためになることを行動したいと思った。望みは叶わなくても、結果的にエルガファルが栄えれば領地のためにもなるから損になることはない。


何があるかしら。アルバローザにも、アウロラにも負けないもの……


すぐにピーンと来るものがあった。


「……大豆を作るのはどうですか?」

次回は10/10(金)に投稿致します。

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