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156.ノヴァ様の事情

ノヴァ様も私たちと一緒に王都に行くのかと思っていたら、ノヴァ様はここでやることがあるとかで残るようだった。


実際、新年の祝賀と立太子の儀は領主貴族家のみの出席のためノヴァ様は出席できないんだけど、お兄様の婚約パーティーには出るものと思っていた。


一気に落胆する。表には出さないように令嬢根性でどうにか耐えたけど……ここに残ってやることって一体なんだろう。


けれど、お父様のひと言で私の気持ちが浮上する。


「やることがあるのは構わないが、アリエスの月には王都に来てもらいたい。私の息子の婚約パーティーがある」


ノヴァ様の瑠璃紺の瞳が揺れ動いた。動揺をしているみたいだった。


机に付いた両肘を下ろし、お父様は続ける。


「ノヴァ殿は既にリュトヴィッツ家の当主だ。婚約パーティーには王族も高位貴族も出席するため人脈を作る絶好の場となる。それに息子もディアナの事情を知る1人だ。顔を繋いでおきたい」


「……」


ノヴァ様は眉根を寄せ唇を噛んだ。葛藤が窺える。


お父様が青い視線を鋭くして何か言いたげにノヴァ様を見つめると、ノヴァ様にしては珍しく弱々しい口調で応えた。


「……わかっている。ただ……」


口を噤む。


ノヴァ様とお父様にしかわからないような会話の空気に、私は戸惑った。


以前も私がパーティーの話をした時、ノヴァ様はこんな顔をしていた。私もパーティー好きってわけじゃない。むしろ動物園のパンダ状態になるから億劫とさえ思っている。でもノヴァ様の理由は私みたいな簡単なものではない気がした。


「わかっているのなら、何を躊躇う?」


お父様が探るようにじっとノヴァ様を見つめる。


「……」


私もノヴァ様の瞼の隙間から覗く瞳を見ていたら、不意にノヴァ様と目が合った。


内心驚いて、そしてちょっと照れくさくなって逸らそうとしたけど、ノヴァ様の何かを確かめるような目を見て私は逸らしてはいけないような気がした。邪な気持ちがある私にとっては見つめられることは何の試練かと思ったけど、なんとか耐えている自分を褒めたい。


そしてノヴァ様はゆっくりと静かに息をつき、(かげ)りのない目をお父様に向けて口を開いた。


「……ジュードの言いたいことはわかっている。自分のためにも出るべきだということも。ただ、宴と聞くと当時の状況を思い出して萎縮してしまうのだ。800年の時が経っていても、ディアナのくれた言葉があっても」


私の言葉? 私、何か言ったかしら……


「そうなってしまうのは、俺が人間界に追放されたきっかけが、天界での月の宴だったのだ」


追放されたきっかけ……罪を犯したっていうあれかしら。


「俺は宴というものに縁が無い。俺が出るとまた悪いことが起きるのではないかと考えてしまう。そうではないとディアナが教えてくれて前に踏み出したつもりだったが……トラウマというのは中々消えてくれないらしい」


「……なるほど」


お父様が組んでいた両手を解き、顎に手を添えた。思考を巡らせる時の仕草だ。


俺が出ると悪いことが起きる……それってつまり、ノヴァ様が罪を犯したっていうのは自発的ではなかったということに聞こえる。ノヴァ様が出席した月の宴の最中に何か悪いことが起きて、それの対処をするために結果として何らかの罪を犯して追放された……とか? 


「心配しなくて良い。()()()()行われるパーティーだ、杞憂に終わる」


顎に添えていた手を解き、淡々と放たれたお父様の言葉に、ノヴァ様は一瞬鳩が豆鉄砲をくらったような顔をした。私もきょとんとする。


警備が万全、ということかしら? まぁ、うちの騎士たちは優秀だからね、安全面に関して不安に思うことは全くないわ。


ノヴァ様は肩の力を抜くように、ふ、と息を漏らした。


「ここに住み始めてジュードと関わりを持つようになってからその意味することは俺にもわかる。ならば、いつまでもこれでは格好がつかないな」


「じゃあ……」


「ああ。宴に出よう」


ふふ、良かった。お兄様にノヴァ様を紹介できる。ノヴァ様の正体を知ったお兄様の反応が楽しみだわ。


「婚約パーティーはアリエスの月の10日だ。1週間前までには向かうように」


「わかった。何か手土産が必要だったりするのか?」


ノヴァ様のその一言で私はサーッと青ざめた。


「大変、私まだ何も用意していませんでした……! え、いつ出発でしたっけ?」


「5日後の朝だ」


セーフ! まだ余裕があったわ。けどオーダーメイドとかは間に合わなそうだから既存のものを買う必要があるわね。


「では明日外に買いに行ってきますね」


「俺も同行しよう」


「えっ」


「確か俺は明日は休みのはずだ」


ノヴァ様がお父様に確認すると、お父様は首肯した。


え、でも良いのかしら。一緒に出かけるってことはいわゆる……


お父様を窺い見るも、私とノヴァ様が一緒に出かけることに何も懸念がないのか、特に表情を変えずに告げられる。


「行ってきなさい。ただし侍女と護衛は必ず付けるように」


「……はい!」


胸が踊り始める。家テントに2人きりとか仮のダンジョンに入ったとかそういうことはあったけど、ノヴァ様と一緒に街でお買い物は初めてだ。


これって……デートってこと、よね?


私はどうやって執務室を辞したか覚えていないくらい浮かれ、その日の夜はなかなか寝付けなかった。

次回は9/26(金)に投稿致します。

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