1.どうやら死んだようです
「……うっ、……ん?」
あれ、私……生きてる……?
轢かれて死んだと思ったんだけど……
なんか床がフサフサしてる。葉っぱの青臭い匂いがするから外かしら。病院じゃなさそうね。
じゃあ私は一体どこで寝てるのかしら……?
ゆっくりと目を開ける。
けど眩しさに目を細めた。
ぼやけた視界から見えるあれは……月?
体が動かせる。私は目を擦った。
そしてもう一度目を開けると……
「………!」
伸ばせば手が届きそうなくらい間近に黄金に輝く巨大な満月があった。
そして空から降ってきそうな程の満天の星が視界いっぱいに広がっていた。
「うわぁ……」
自然と涙が溢れ落ちた。
こんな幻想的な絶景を遮るビルや建物がないから、仰向けになっている私は夜空に浮かんでいるような感覚になる。
そっか。私やっぱり死んだのね。あんなのに轢かれたら生きているわけないか。
伯母さん伯父さんごめんなさい。悲しんでるかな。悲しんでくれるといいな。
もし生まれ変わったら、また両親と一緒に暮らしたいな。あ、兄弟、姉妹もいいわね。叶えてくれるかな。叶えてくれるといいな。だって、この絶景を見させてくれたんだもの。きっと私の願いを神様が叶えてくれたんだわ。
「あら、目が覚めた?」
突然声が聞こえた。優しそうな、美しい声。
私は起き上がって、声のした方を向く。
「……っ」
息を呑む程の絶世の美女が私の前に立っていた。
銀月のように輝く足元まで長い艷やかな髪、夜空の満月と同じ金色の瞳、白いドレスにきらびやかな金細工の装飾を身につけ、その姿はとても気品に満ちていた。
……こんな超絶美人、絶対神様でしょ。だってここは天国だもの。
呆然と目の前の美女を見つめていると、美女の背後に古代ヨーロッパの神殿みたいな建物があることに気づいた。
改めて周りを見てみると、どこまで広がっているのかわからないくらいの森とか、夜空の満月を鏡のように映し出して黄金に輝く大きな泉もある。そして今気づいたけど、辺り一面に金色に輝く百合よりも小ぶりな見たこともない花が咲き誇っていた。そしてその上を金色の小さな光がいくつも蛍のように空中を漂っていて、どう言葉で言い表せば良いかわからないくらいなんとも幻想的な光景だった。
私はしばらくその光景に見惚れていたけど、ふと我に返り、目の前の人に思い切って話しかけた。
「あの、神様、ですよね……?」
絶世の美女が微笑む。
「ええ。私は満月の女神ルナ。ここは天界にある月の神殿で、私の家なの。人間の言う天国とは違って、天界は神々が住む世界よ」
「天、界……」
目の前に神様が現れるだけでも驚きなのに、まさかここが天国じゃないとは。
「良かったらこちらに座って」
女神様がそう言うと、手振りで白い丸テーブルと椅子を二脚出現させ、テーブルの上には二人分のティーセットが並んだ。
私は何もないところから突然物が現れたことに目を丸くした。
でもすぐに、天界+神様=なんでもアリという図式によって素直に受け入れられた。
女神様の対面に座る。ティーカップから紅茶の良い香りが鼻腔をくすぐる。
「あなたは事故で命を落としたのだけど、わかるかしら?」
「……はい、覚えてます」
近づいてくるトラックの白いヘッドライトがフラッシュバックする。少し体が震えた。
「辛いことを思い出させてしまってごめんなさいね。でも実は、本当はあなたは死ぬ予定ではなかったの」
「……え?」
死ぬ予定ではなかった?どういうこと?
「あなたの世界の神が、手違いであなたの魂を回収してしまったみたいで……あちらの神があなたをすぐ転生できるようにしたかったのだけど、空きがなかったみたいなの。でもこちらの世界ならあなたをすぐ転生させることができるから、どうかしら。こちらの世界に転生してみない?」