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155.ラヴァナの森の状況報告

ラヴァナの森の魔獣を浄化して数日。


その間、屋敷に戻っていた私は森の状況が気になり、ブレスレットの通信魔法でノヴァ様とこっそり連絡を取り合っていた。ノヴァ様はあれからお父様たちと合流したらしく一緒に状況確認を行っていたそうだ。


ノヴァ様によれば、森の魔獣は全ていなくなっているらしい。そしてこれからランデル山脈に行ってドラゴンも浄化されたかどうかお父様とノヴァ様の部隊で手分けして確認していくようだった。そのため、お父様と通信魔法で連絡を取り合う必要も出てくることから私との通信はできなくなるとのことだ。魔石から聞こえるノヴァ様の美声が聞けなくなることや、離れても繋がりを感じていたことがなくなるため、少し残念に思った。


ラヴァナの森全体が金色の炎に包まれたことで、その光を目撃した人がここ北部では大勢いるみたいで、屋敷の中でもその話題で持ち切りだった。


森に様子を見に行った冒険者や一般人の野次馬たちが、野営していた騎士から盗み聞いた「魔獣が消えた」という言葉を皮切りにどんどん人々へ伝搬した。


そして金色の光が現れた後に魔獣が消えたという噂により、「金色の光が魔獣を消した」と人々によって紐づけられるのにそう時間はかからなかった。


屋敷で飛び交う噂の中で、誰がこんなことをしたのかとか人為的なものを疑うものとかはないようなのでひとまず安心した。月の女神信仰があるので「ひょっとして女神様が?」とそっちに転換されているのでこのまま女神様の所業にしてもらおうと思った。でも本当は私なので、使用人たちから話を振られれば知らないフリをしたり驚いてみせたりしなくちゃならなかった。


ラヴァナの森の浄化から12日後の夜、お父様とノヴァ様がヴィエルジュ騎士団と共に帰宅すると、その翌日、私はさっそくお父様に執務室に呼ばれた。


執務室にはノヴァ様もいて、約2週間ぶりに会うことに心臓がだいぶ落ち着かなかった。


ソワソワする心をなんとかしながら、お父様から改めて森の魔獣が全て消えていたことを知らされた。


「ドラゴンもですか?」


「ああ。私とノヴァ殿で手分けして山脈中を探し回ったが、1体もいなかった」


そう言うお父様の顔は全ての魔獣がいなくなって喜ぶ——そんな表情は滅多に見ないけど——でもなく、何か懸念があるような難しい顔をしていた。


執務中のお父様と机を挟んで向かい合う。お父様の側にノヴァ様が立っているので私はチラとノヴァ様を見上げると、ノヴァ様は静かに首肯した。


ヴィエルジュ領側の山をお父様、ヴァーゲ領側の山をノヴァ様がそれぞれ何人かの騎士を引き連れて探索したらしい。ノヴァ様が作った黒い壁はなくなっているので頂上付近まで探す必要があったため、日数がかかったということだ。


ラヴァナの森の探索はレイヴン団長と王国第3騎士団団長に指揮を任せたところ、やはり魔獣は1体もいなかったということだった。木々も植物もあの不気味な黒い姿ではなく色も形も原型に戻っていて全体的に雰囲気が明るく、爽やかで清浄な空気が漂っていたそうだ。騎士たちが言うには「空気が美味しい」らしい。


ランデル山脈も全てじゃないけど所々緑が回復しているところがあったようだ。それでドラゴンもいないとなると浄化は成功したと言って良いわよね。一番強い魔獣がひしめく森を浄化できたから、あとの2つは少しは楽にできるかも。


「それと、黒竜もいなくなっている状況も帯同した騎士たちが確認した。侵略派や擁護派に属する王国騎士団の何人かは魂が抜けたような顔をしていたな。その報告も王宮に届けば……」


侵略派は黒竜を「魔獣の王」と認識していたもの。忽然と「悪」が消えたなんて、憎しみの対象がいなくなってどうしたら良いかわからなくなるわよね。擁護派も自分たちの信仰対象が消えたとなれば今後の拠り所に困る、といったところかしら。ま、どうでも良いけど、シュタインボック公爵がどんな顔をするのかは見てみたいわ。


「演習中に森で起きた状況のままを城に報告してある。ただ、金色の炎で魔獣が消えたことで月の女神による救済だと既に各神殿が騒ぎ始めているようだ」


「ふむ、あながち間違いではないな」


ノヴァ様が言葉を挟むと、お父様の綺麗に整った眉がピクリと動いた。そして机に両肘をついて顔の前で手を組む。


「女神の所業に思わせられているのだ、次の森でも気を抜かず慎重に行うようにしなさい」


余裕を感じていた私に釘を刺してくるお父様。


内心でギクっとしていたのを誤魔化すように「わかってます」と応えた。お父様が呆れたように息を漏らしたので話題を変えた。


「冒険者の様子はどうですか?」


魔獣が浄化されていなくなったからね。稼ぎがなくなったも同然だから気になっていた。


「案の定苦情がギルドに殺到している。ダンジョンの出現は全ての魔獣が浄化された時なのだろう?」


「そうです」


「魔獣を討伐したい冒険者のためにローレンとヘレネでの依頼を北部に回してもらうよう手配している。北部の冒険者が王都に流れるが、それもダンジョンが現れるまでだ」


「では早く残りの森を浄化しないとですね」


「ああ。5日後に王都に向かう。次のヘレネの森の浄化は新年の祝賀と立太子の儀が終わり次第だ」


「わかりました」


まぁ、それが終わってからよね。また騎士団を森に派遣しないとだから意外と大掛かりだし。


社交デビューしているので私もそれに出席しなければならない。それを思うとだんだんと憂鬱になってきた。


お兄様には久しぶりに会いたいけど、王宮に行くって思うと色々不安だ。ユアン殿下は本当に私のことを諦めたのか、アンリのパートナーの誘いを断って気まずいとか……とりあえず、今度のパーティーはダンスがなくて良かったわ。

次回は9/24(水)に投稿致します。

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