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153.魔獣の浄化(2)

冒険者たちに連れて行かれた酒場で私はお酒を大盤振る舞いするハメになった。


この閑静な街の一角が久しぶりの盛り上がりを見せているので、「何だ何だ」と野次馬のように人が次から次へと酒場に集まってきたからだ。


お店にあるお酒を来る人来る人に振る舞ったので、昼間だというのに飲めや歌えやの大騒ぎに発展した。


連れて来られた時は戸惑いしかなかったけど、喜ぶ皆の顔を見たらこういうのもたまには良いかと思い直した。そしてジュース片手にミネラウヴァの冒険者たちとある程度交流した後、用事のため早々に酒場を後にした。


用事とは、装備店に行って約束していた土竜の鱗を売ることだ。


行ってみれば、お店の看板横に「Sランク魔法使い御用達」の張り紙があって、それを見つけた私はここでもしばらく固まってしまった。店主にどういうことか聞くと色々面倒なことになりそうな気がしたので見なかったことにした。


ちなみに店内には目玉商品として緋色、蒼色、翠色の防護マントが入口から見えるところにドーンと飾られていた。ここに新たに黄金色が加わることになると思うと、店主の高笑いが聞こえてくるような気がした。


その後自室に戻ってからは転移が付与された魔石を3つ作っておいた。


あとは本番までしっかり睡眠をとって休むだけにとどめた。



そして5日後。


いよいよ浄化の日がやってきた。アクアリウスの月の初週、王都に出発する3週間前だ。


お父様とヴィエルジュ騎士団の第1騎士団から選抜された50名が朝日が昇る前にラヴァナの森に向けて出発した。


そしてヴィエルジュ領とヴァーゲ領に駐屯している王国第3騎士団から選抜された250名と現地で合流し演習を開始する。


ヴァーゲ領の森では王国第3騎士団団長が、ヴィエルジュ領の森ではレイヴン団長が、森の最奥をお父様が指揮する。


ノヴァ様はというと、浄化行うタイミングでランデル山脈の中腹にある黒い壁を消すことになっている。黒竜も浄化されたことにしたいためだ。


ちなみにノヴァ様はこの時既にリュトヴィッツ伯爵から当主を引き継いでいる。伯爵はもう歳で早く引き継いで隠居したかったそうだ。それにしたって養子になってわずかひと月しか経っていない。けどノヴァ様の有能ぶりを見た伯爵家の人たちやお父様や部下たちからの誰も異論の声は出なかった。


私とノヴァ様は、お父様から通信魔法のブレスレットで合図があった時に一緒に山脈の中腹に行く手筈になっている。まず最初に黒い壁を消さないとだからね。私も同行するのは転移のためとノヴァ様に張った結界を解いてまた張り直すためだ。


朝日が完全に登り、白い陽光が部屋の隅々まで照らし出す。そろそろお父様から連絡が入る頃だ。


朝食も既に摂ってお腹いっぱい。体力・魔力・気力・やる気も満タン。


分身魔法で2号を部屋に置き——護衛でレイが残っているため——、収納魔法でミヅキが使っている転移のピアスと指輪、スキル無効のイヤーカフを身につけ、ウエストポーチ型収納袋に事前に作っておいた転移が付与された水竜の魔石を3つ入れた。


ブレスレットの魔石が点滅する。通信があるという合図だ。耳に近づけるとお父様から始めるよう言われたので、自身に隠蔽魔法をかけて、2階にある自室で待機しているノヴァ様の元へ向かった。


ノックをすると、扉が開く。やむを得ないとはいえノヴァ様の私室を訪ねるのは初めてで、浄化をする時の緊張感とはまた違う緊張がして落ち着かない。


出迎えてくれたノヴァ様は腰に帯剣していた。


「合図が来たか?」


「はい。行きましょう」


ノヴァ様は私の魔力が見えるので隠蔽魔法をかけてもわかる。


私はノヴァ様の腕を取り、ピアスを使って山脈の中腹にある黒い壁に転移をした。


目を開けると、蒼穹の空を突き刺す程そびえ立つ黒い壁が目の前にあった。


「では、結界を解きますね」


私はノヴァ様に手をかざして結界を解いた。途端、漆黒の神力が洪水のように流れ出す。


ノヴァ様はすぐに黒い壁に手を付くと、あれだけ大きな壁が一瞬にして消えた。


その凄さに息を呑む。でもすぐにはっとして「ありがとうございます」と言ってノヴァ様に再度結界を張り直した。


「では私は森の結界を壊しに行ってきますね。あ、良かったらこれ使って屋敷に戻っていてください」


私はウエストポーチから転移の魔石を1つノヴァ様に渡した。


「ブローチがある」


「もう1つあっても良いじゃないですか」


「俺も森に行く。ここまで来たんだ。せっかくだから演習に参加する」


討伐に参加してくれるんだ。ていうか最初からそのつもりだったのね。結界で能力が使えないから魔獣を強化させることもないし、剣でも戦えるノヴァ様がいれば百人力、いえ千人力だわ。


「そうですか、わかりました。なら森の外まで一緒に行きましょう」


私はMPポーションを飲んで魔力を回復した後、ノヴァ様を連れて森の外側に魔石を使って転移をした。


森の入口近くには騎士団の拠点があった。そこに何人か待機の騎士たちがいる。


「合流してくる」


「はい。では、お気を付けて」


「ディアナも」


ノヴァ様が騎士たちのところへ向かう背中を見送る。


私の顔の緩みがノヴァ様に見えなくて良かった。


そう安堵しながら私は森に向かった。


私は今透明人間状態で魔力も遮断しているため誰も気づかない。ただ足音や気配でバレるので騎士たちから十分に離れて森の結界に近づいた。


以前黒竜の結界を壊すのに『蒼焔(アスール)』くらいの魔力を使った。この広大なラヴァナの森の結界を壊すとなると……2万くらい使うかもしれない。浄化魔法分は残るけど、また気絶しないことを祈る。


私は「女神の化身」が張った金色の結界に触れた。


そして一気に魔力を流す。


バチバチバチッ!!


私の魔力と結界が反発し合って金色のプラズマが起きる。触れた箇所からひびが割れていき、2万弱魔力を流したところでガラスが割れたようにパリンっと音を立てた。


ドーム型の結界がまるで隕石でも衝突したかのように粉々に全て崩れた。でもこの光景は私とノヴァ様にしか見えていないため、私は通信魔法のブレスレットでお父様に結界を壊したことを伝えた。


その途端、魔獣の咆哮が森の中のあちこちから轟いた。空気が揺れ、森が不気味にざわめく。


突然のことに森の周辺に待機していた騎士たちが慌て始めた。


「なんだ、何が起きた!?」


「なんでこんないきなり……!?」


「慌てるな! 森に異変が起きたら即行動に移せとの命令だ! 全員持ち場に着け! 防御の魔道具を起動しろ!」


その時、遠目に森の上空を滑空するグリフォンが見えた。


っ、急がないと……!!


私は急いでまたMPポーションを飲み、指輪を使って森の中心に転移した。転移の瞬間、騎士たちといるノヴァ様を見ると、ノヴァ様も私の方に顔を向けていた。

次回は9/12(金)に投稿致します。

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