152.魔獣の浄化(1)
魔塔から領地に戻ると私はお父様に会い、ハルトさんに私の秘密を打ち明けたことを伝えた。
相談もなく勝手に話したから怒られるかなと思ったけど、お父様は真意を探るような目でしばらく無言で私をじっと見つめた——色々悟られないようにポーカーフェイスを頑張った——後、ただ「わかった」とだけ言った。
その場にいたノヴァ様は驚いていたけど、眉根を寄せて不満があるような顔をしていた。これ以上誰かに話したら危険と思っているのかもしれない。
金色の魔石がきっかけであることや、はぐらかしてもハルトさんの探究心から変に探りを入れられる可能性があったことから事情を話さざるを得なかった、ということにした。そうしないと私が転生者であることやハルトさんが転移者であることも話さないといけなくなるし、まだ転生のことをお父様に話す勇気は私にはなかったから。
ノヴァ様は私が転生者であることを知っているから、私が何か隠していることに気づいたのかもしれない。じゃないと「その魔塔主とやらに会ってみたい」って何度も言わないもの。
ハルトさんが信用に足る人物であることはお父様もわかってはいるけど、「念の為釘を差しておく」とのことだ。そのことを後で部屋に戻った時にブレスレットの通信魔法でハルトさんに伝えたら、「総長に釘を刺されるなんて、何のご褒美だ?」とわけのわからないことを言っていた。だんだんとハルトさんが変態に見えてきた。その際に転移魔道具作りの相談のため祝賀パーティーと立太子の儀が終わったら魔塔に来るよう言われた。
また、お父様とノヴァ様にも通信魔法のブレスレットを渡した(お兄様ごめん)。ハルトさんと一緒に作ったことや今後ハルトさんが通信の魔道具を量産してくれることをお父様に伝えたら、ため息をつかれはしたけど期待が滲んだ声で「楽しみにしている」と言ってくれた。ノヴァ様はさっそく左手首につけてくれた。その時に気づいたんだけど、私が養子縁組の際の魔力登録のために用意した黒のブレスレットは既に外されてあった。
あと私のやるべきことは婿養子決めと魔獣の浄化だけだ。
ただ婿養子を決めるのは先延ばしにしてもらった。秘密裏に浄化を行える方法があるので、もしそれがうまくいったらまだ決めるのを待って欲しいとお父様に持ちかけたのだ。ハルトさんに言われたことも後押しになっていた。
浄化をどのようにするかも相談済みだ。
浄化の順番は最初にラヴァナの森、そしてヘレネの森、最後にローレンの森となる。アクアリウスの月の末に新年の祝賀のパーティーと立太子の儀が王宮で開催されるため、領地にいる今の内にラヴァナの森の浄化を先にしようということになった。
手順としてはこうだ。
①結界を壊す
②森と山脈の中腹含めた全体の中央の位置に転移する
③『月の焔』の詠唱で浄化
浄化を行う日取りだけど、近々お父様がヴィエルジュ騎士団と王国騎士団を率いてラヴァナの森の魔獣討伐訓練を行うという形をとる。私はそれに便乗して浄化を行うのだ。
何故かというと、広大な森を浄化するには長い詠唱が必要になるため、結界を壊したことでその間に魔獣が森から出ていく可能性が高くなる。そのためなるべく森の周辺区域に騎士団を多く配置し、魔獣が人里に向かわないようにしなければならない。
実際もし魔獣が森から出てきた場合、ここで必要になるのが先日ハルトさんから大量に借りた防御の魔道具だ。これが防壁になって魔獣が人里に向かわないようにする。この魔道具は既に収納袋ごとお父様に預けてあるので、お父様が良い感じに使ってくれるだろう。
浄化をするのに私は自分自身に隠蔽魔法をかけるから、浄化をしている姿は誰にも見られない。これで秘密裏に浄化ができるという作戦だ。騎士団にしてみれば、演習中に突然魔獣が消えてしまったという摩訶不思議な現象を目の当たりにすることになるんだけどね。
そしてラヴァナの森の浄化の日取りが5日後に決まったので、それまでに色々準備を進めておく必要がある。
結界を壊したらすぐに全体の中心に転移できるように探知魔法で中心に行き座標を把握しておいた。
また私はドラゴンのコンプリートを狙うためと装備店に土竜の鱗を売らないといけないがために土竜の討伐にランデル山脈に行った。
黄金色をした土竜はヴァーゲ領の端っこの山脈の中腹にいた。トリケラトプスに翼が生えた見た目をしていて、他の3竜よりも体重が重く鋼鉄の皮膚で覆われた体を切るのに一苦労だった。ディーノさんが苦戦するのも頷ける程物理攻撃にはとても強いけど魔法耐性が他の3竜より少し低かったため、それが幸いしてそう時間もかけずに倒すことができた。
土竜討伐後、ミネラウヴァギルドへ依頼完了報告に行った時のことだ。
「おめでとうございまーす!!」
受付のお姉さんが立ち上がって拍手をする。
私は急にそんなことをされて困惑した。
何がおめでとうなのかしら……あ、コンプリートしたから?
「単独で4種全てのドラゴンを討伐したため、ミヅキさんには『竜を屠る者』の称号が与えられます!」
声高にお姉さんが発表するのでギルド内にいた何人かの冒険者から驚嘆と歓声が湧き起こった。
「竜を屠る者……?」
仰々しい名前に唖然とする。
あ、ハルトさんが言ってたのってこれ? ドラゴンをコンプリートしたら新たな異名がもらえるってやつ。
「ちなみに史上2人目です」
お姉さんが笑顔で指をピースの形にする。
「……」
1人目は聞かなくてもわかる。お父様だ。
その時肩にドンと重みを感じた。
「すげぇじゃねぇかミヅキ!」
私よりも10cmくらい背の高い屈強な剣士に肩を組まれる。いつもここのギルドで顔を合わせる冒険者だ。
その人を皮切りに「俺ら冒険者から『竜を屠る者』が出たぞ!」とか「ディーノより先になるなんてな!」などと顔見知りの人とそうでない人から次々と賛辞が送られる。
「よぉし! ここは記念に、ミヅキにぱあっと酒を奢ってもらおうぜ!」
「よっしゃー!」
そんな声が聞こえて「は?」と、どうしてそうなったと、むしろ私が奢られる側じゃないかと未だ慣れない冒険者ノリに流される形で私は肩を組まれてギルドの外に連れ出され、近くの酒場に連れて行かれた。
次回は9/11(木)に投稿致します。




