表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
192/227

151.勧誘

「よし、そろそろアシュレイが来る頃合いだな」


どうしてわかるんだろうと訝しんでいると、「さっきあの魔道具で呼んだんだ」と言って指を差した。その方向に目を向けると、ちょっと前にハルトさんが触れていた机の上にある魔道具がどうやらリード副団長を呼び出すものみたいだ。


副団長も忙しいだろうに。魔塔には侍従とかいないのかしら。来た時から全然見かけていないからいないんだろうけど、清掃の下働きがいないのと同じように機密が多いからって理由かしら。


ハルトさんが机にもたれて尋ねた。


「そうだ、アシュレイが来る前にあとこれだけ聞いておきたい。総長は、ディアナ嬢が転生者であることはご存知なのか?」


「いえ、転生のことは誰にも話していません。ですがお父様とお兄様だけ転生以外のことは全て知っています。あ、ハルトさんにも秘密を明かしたことを話しても良いですか?」


「ああ。協力できることがあるかもしれないからな。そして総長に頼られる俺が誕生する」


キラーンと効果音が付きそうな顔だ。


「……よろしくお願いします」


私は一瞬心強い仲間ができたような心地になったけど、すぐにスンとなった。


「あと今更だけど、2人で話すときは畏まらなくて良い。同郷者だろ? 会話も同じくらいの歳の人と話している感じがするし、2人の間に身分なんていらないだろ。公式の場ではそうもいかないが」


私は少し逡巡し、そして軽く頷いて「わかった」と言った。


「それでいい」


ハルトさんが微笑んだ。そして、


「で、魔塔に所属しないか?」


「う……は?」


今からお茶しない? みたいな軽い口調で思わず「うん」と応えそうになった。


「王立学院卒業後にはなるが、俺の推薦があれば試験なしで魔塔に入れる。ディアナ嬢が転移の魔道具を作れば推薦状なんてもう手に入ったも同然だしな」


「いや、でも……」


ポーカーフェイスが板についていても興味と躊躇いが顔に出た。


まだ先のことだし、どうなるかわからない。でも、魔法のことを仕事にできるのは魔法が好きな私にはとても魅力的な職場だ。将来領地経営を手伝って異世界スローライフを送るつもりだったけど、転移の魔道具を作っても能力までバレる可能性は低いって言われてから私の魔塔への警戒心が薄れてきている。また、全てのことを話したハルトさんに対して仲間意識が芽生えていた。


——ピンポーン


急な電子音にはっとする。


「時間切れだ。まぁ、考えておいてくれ」


ハルトさんが私の肩を手でポンポンと叩いた。私が魔塔に入ると言うだろうと確信しているような笑みで。


ハルトさんが扉を開けると、そこにはリード副団長がいた。


「お帰りですか? 随分と長く話し込んでいたみたいで。ミヅキさんが団長と気が合う方で良かったです」


人の良い笑みで呑気に言うリード副団長に苦笑いを飲み込んで、私はハルトさんにお暇を告げた。


「ではハルトさん、メンテナンスをありがとうございました」


ハルトさんが一瞬何だっけみたいな顔をした後、合点がいって笑った。


「ああ、気を付けてな」


そしてハルトさんは手首をトントンともう片方の手で触れた。


浄化の日取りね。わかってますよ。


私は小さく頷いた。


エスカレーターで階下に降り、リード副団長に見送られて魔塔を出た。


馬車に乗った途端、どっと疲れが押し寄せた。




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


ディアナ嬢が帰っていった。


馬車に乗って貴族門方面へと向かっていく様子を小窓から眺める。


転移で帰れるのにいちいち大変だな。一度下町に出てから家に転移して帰るのか。冒険者に変身しているから庶民を装わないとだもんな。バレないようにいろんなことに配慮して行動するのは結構疲れるだろう。今日の会話からどこか抜けてるところがあるような気がしてならないが。


窓から離れ、ソファにどすっと腰を下ろしてもたれかかる。


エリクサー作っている時より疲れたな……


ディアナ嬢から打ち明けられた色々なことを反芻する。


月属性、四大属性の保有、魔法創造スキル、イケメンSランク魔法使い……


ディアナ嬢強すぎだろう! 総長の娘どんだけだよ!


もう一度その事実に打ちのめされ、頭を抱える。でもそれもすぐに終わった。


驚きと羨望と嫉妬が入り混じった複雑な気持ちを紛らわすために色々話を変えていったけど、最終的には興味や好奇、楽しみといったポジティブな心持ちになって終えられたのは良かった。


界渡りの魔法が創れないのは残念だったが、それでも良いかと思っている。同じ仲間がいるって結構安心するんだな。


それにしても今後転移の魔道具が作れるようになるとは。


大会の時、金色のピアスが気になって出どころを確かめるためにメンテナンスと称して「ミヅキ」を魔塔に来させる口実を作った……こういうのを棚ぼたっていうのか? 魔道具のメンテナンスなんて故障した時くらいしかしないことは総長もわかっているはずなのに、ディアナ嬢の魔塔行きを許可したのは何故なのか疑問に残るが……


まぁでもとにかく、ディアナ嬢のスキルがあれば作りたいものが簡単に作れる。楽しみでニヤニヤが止まらないぜ。次はいつ呼ぼう。転移の魔道具について色々相談しないと。あ、魔石も大量に仕入れないとだな。


完成すれば、まずは王族の避難や軍事に使われるだろうな。人々の移動手段になるのはまだ先のことだろうが、功績を称えられて叙爵は必ずされるだろう。実は俺も5年前に叙爵されて伯爵の位を持っている。王族の居住区の防御を高めたことが功績と認められたらしい。収納袋や冷蔵庫じゃまだ弱かったみたいだ。


転移魔道具を作った後もディアナ嬢と一緒に今後も何か作っていきたいと思ってディアナ嬢を魔塔に勧誘した。驚いていたけど、まんざらでもなさそうだったな。


転移の魔道具を作ってほしいと説得した時から「バレたくない」で固められた気持ちが溶け出しているのがわかった。


最初から男に転生していたらまた違っただろう。あんな前代未聞な能力を女性が持っていたら、それが為政者に知られたらどうなるかなんて俺にだってわかる。


浄化をするという女神の使令のために魔力を増やし、魔法技術を身に着ける努力は並大抵じゃない。真面目で努力家なディアナ嬢だ。世の女性たちの憧れである「王族に嫁ぐ」という魅力的な縁なんてそれどころじゃないしどうでも良いんだろうな。殿下との噂も嫌がっているように見えたし。


王家に一番バレたくない。だから能力を隠したいんだろう。


ディアナ嬢は能力バレしないようにいろんな対策を講じている。「ミヅキ」でわかる通り金色の装飾品がまさにそれだとしたら、今後ディアナ嬢が身につけているものに目が行きそうだな。


でも引っかかっていることがある。ディアナ嬢との会話中に一瞬頭をよぎったことだ。


陛下の手首にあった金色の宝石がついた腕輪。それに気付いた時、魔力が感じられなかったことからただの宝石と判断したが……


『その魔石に付与された魔力は私の魔力なので、別で魔力隠蔽がかかった魔石もハルトさんには身に着けてもらわないと』


ブレスレットを作っているときに確かにディアナ嬢はああ言った。


まさか陛下がつけているあれも……? あの腕輪には石が4つもついていた。もしそうならなんで陛下がディアナ嬢の魔石を身に着けているんだ? 


間に絡む人物の顔が浮かぶ。俺の心のオアシスだ。


どんな魔法が付与されているのか気になるな。ディアナ嬢に聞いたら教えてくれるだろうか。新年の祝賀パーティーが近くあるからその時に聞いてみるか。通信のブレスレットで聞いても良いけど、面と向かって話したいしな。

長くなりました^^;


次回は9/5(金)に投稿致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ