148.スキル披露
話が逸れちゃったわ。浄化に立ち会えるのかと殿下が私の能力を知らないのかって話ね。
「私の本当の力は殿下はご存知ないはずです。怪しんでいるとは思いますが」
王族の誰かは知っているみたいだからね。でも私の周りで何も起きていないってことは殿下による詮索がなくなったか、王族の誰かに対してお父様が何かしているってことだ。
「そうか。誰にも知られないようにしているのはわかった」
でも、が続きそうな雰囲気だ。「見たい」が漆黒の瞳に強く現れていて諦めてくれそうもない。
私は渋々譲歩した。
「ローレンの森を浄化する時に偶然居合わせた形でしたら」
「! そうだな、そうしよう!」
ハルトさんの顔が文字通りぱあっと輝いた。
あ、でもどうやっていつ浄化を決行するかをハルトさんに知らせよう。お父様経由? うーん、それでもできそうだけど、どこからか漏れるのも困る。お父様ならそんなヘマしないけど、誰かを介さないで伝えた方が安心する。でもわざわざ転移してまた魔塔に行くのも面倒くさい。
誰かを介さないで直接伝えるには……
私は前世で生活の一部だったあの文明の利器を思い浮かべた。
電話の機能だけならすぐにできそうね。
私は収納魔法で水竜の魔石と剣を取り出し、「ちょっと失礼します」と言って剣で魔石を砕き、4つの欠片にした。
「おい、今空間魔法か何かを使わなかったか?」
「ハルト様、これでブレスレットを4つに加工できますか?」
「無視か」
全属性も月属性も話したからついでに魔法創造スキルのことも話しても良いか。
「魔法創造スキルというのが私にはあるので、それで色々と魔法を創ることができるのです」
「なんだその反則的なスキルは」
「自分がイメージできるものを魔法として創れるのです。ちょっと今やってみますね。で、ハルト様」
私はブレスレットに加工できるか再度尋ねた。
ハルトさんは驚き疲れた様子で「はぁ」と盛大なため息をついた。そして、
「生産スキルでできる。素材は適当で良いか」
「はい、大丈夫です」
私は胸を踊らせながらハルトさんに魔石を渡した。
ハルトさんは立ち上がって棚の引き出しから金の欠片をいくつか持ってくると、再びソファに座った。
そして手のひらに魔石と金を乗せ、スキルを発動させる。
金と魔石がみるみると組み合わされ、それは次第にブレスレットの形になった。魔石も丸みを帯びて研磨されている。
私は「おお」と初めて目にする生産スキルというものに思わず感心の声が出た。
ハルトさんは続けて3回同じ事をして、出来上がったブレスレットを4つテーブルの上に並べた。青くれ丸い魔石がついた金細工のブレスレットが窓から差し込む陽光に照らされキラッと光っている。
「ありがとうございます」
「それをどうするんだ」
「『通信魔法』を創ります」
「……まじか」
私はスキルで「通信魔法」を創った。金色の魔法陣が出てきてハルトさんがそれに息を呑む。
「……今創ったのか?」
「はい、できました」
「試作に試作を重ねても完成しなかったのにこんなに易々と……俺もそのスキルが良かった」
「通信魔法の魔道具、作ってたのですか?」
「あれだ」
ハルトさんが魔道具の試作品が並ぶ棚を指差す。
「箱型の、蓋の上に魔石がついたあれだ。中に手紙を入れて魔力を流すと、同じ魔道具を持っている者に届く仕組みだ。通信というより、郵送だな」
私がさっき気になった魔道具だった。まさか郵送の魔道具だとは思わなかった。
「売らないのですか?」
「実験したら、届いた時に手紙が粉々になった。他にも色々やらなきゃいけないことが重なっていたせいか、やる気が失せてそのままだ」
「……」
ハルトさんがムスッとするのを横目に、私は「通信魔法」をブレスレットの魔石それぞれに魔法付与をした。ハルトさんが「付与魔法もできるんか……」と、ぼそりと呟いた。
青い魔石がみるみる内に金色に変わる。
ハルトさんが目を瞠った。
「どうして金に変わる?」
普通は魔力を魔石に注いでも色は魔石の色のままだからハルトさんの疑問はもっともだ。
私はハルトさんに、私の魔力の色が金色であることと、しかも私の魔力は女神ルナ様の神力そのものであるため、私が魔石に魔力を込めると金色に変わってしまうことを話した。
「じゃあ、あのピアスもそういうことなのか」
私は静かに頷いた。
「で、いきなり通信魔法の魔道具を作ったのは俺とコンタクトを取りやすくするためか」
「はい。これを使えばハルト様にローレンの森の浄化の日取りをお伝えできます」
私は片方のブレスレットをハルトさんに手渡した。
「もう1つがディアナ嬢のだったら、あと2つは?」
「これはお父様に。これは……お兄様です」
「まじかよ……はっ、そしたら俺、総長とこのブレスレットを通して秘密の会話ができるってことか……?」
漆黒の目に喜色が浮かぶ。それはもうご自由にどうぞ。
あ、渡したのは良いけど魔力が私だわ。
「すみません、その魔石に付与された魔力は私の魔力なので、別で魔力隠蔽がかかった魔石もハルトさんには身に着けてもらわないとなんですが」
「ん? ああ、『ディアナ嬢』と『ミヅキ』が同一人物だとバレないためか。つか魔力隠蔽もできるのか。もうなんでもアリだな。って、ん……?」
ハルトさんが顎に手を添え何かを考える仕草をする。
私は何か疑問があるのかと「どうしました?」と尋ねた。
「ん? ああ……いや、何でもない。それより、そんな回りくどいことをしなくても、俺がこの魔石に俺の魔力を注げば良いのではないか?」
「……」
言われてみれば確かに。他人の魔力を注いでも金の色は変わらないけど。
「ではお願いします。この魔石にはまだ魔力の余白が残っているので」
ハルトさんはブレスレットの魔石に魔力を流した。
満タンになるまでしばらく魔力を流し続ける。水竜の魔石なので小さくても魔力保有量は普通の魔石と比べて桁違いだ。
すると、予想外のことが起きた。
次回は8/29(金)に投稿致します。




