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146.寿命

ハルトさんが肩で息をついた。


「言っただろ? 俺は異世界ファンタジーに疎いって。この世界に来た時は自分の力が無双できるものだと思わなかったばかりか使い方すら知らなかったんだ」


「でも便利な魔道具をたくさん世に出しているじゃないですか」


「前魔塔主のおかげだ。あの人が俺を魔塔に誘ってくれなかったら、俺は今頃グレにグレてどうしようもない人間になっていただろうな」


「……」


ハルトさんの見た目はこの国の人たちにとっては黒竜を思わせる。侵略派と擁護派からの様々な思いが含んだ目に常にさらされる日々。知らない国に突然来てそんな扱いを受けていたらグレたくなるのもわかるわ。


でも3属性で魔力量も豊富であんなにたくさんのスキル持ちでグレられたら、この国を滅ぼしちゃいそうね。いえ、お父様がいるから滅ばないかもしれないけど、一歩手前くらいにはなりそう。前魔塔主様、ハルトさんを誘ってくれてありがとうございます。


「あの人は中立派だったから一緒にいて随分と楽だった。まぁ俺みたいにここに引きこもり続けていた研究バカの爺さんだったから派閥とかどうでも良いと思っていたかもな」


ハルトさんの漆黒の瞳には哀愁の念が漂っていた。私はそれを見て察した。


「……前魔塔主様はハルト様にとってとても大切な方だったんですね。お会いしてみたかったです」


お悔やみの気持ちを込めて言うと、ハルトさんが「まぁ、今は放浪の旅に出ているからな。会うのは難しいかもしれない」と淡々と言った。


「え?」


「ん?」


あれ……? 会話の流れから前魔塔主ってもう亡くなられているのかと思っていたけど……


「……まだ存命なのですか?」


「ああ、ピンピンしているぞ。なんだ、死んだかと思ったのか?」


くくく、と笑って言われ、気まずさでちょっと顔が赤くなったけどほっとした。


「俺に魔塔主を譲ってからは自由気ままに大陸を旅している。いつかの手紙には隣国のヘレストリアに行って魔道具製作の指導をしていると書いてあったな。結局どこに行っても製作と研究の日々を送っているんだから、はは、爺さんは爺さんだな」


そういえば前魔塔主って確かお母様の生家のヴァーゲ家の人だったわ。身内が亡くなったなんて話、聞いたことなかったわね。


「すみません、早とちりをしてしまって」


「まぁ結構歳いってるからな。魔力量が多い人は少ない人に比べて寿命も長いから、爺さんはまだまだ生きるだろう」


私は驚きで目を見開いた。


「それは本当ですか……?」


「ああ、最近になってわかったことだが、人間が持つ元々の寿命に加えて魔力値が10000ごとにさらに寿命が3年から5年延びることがわかっている。この国全体の平均魔力値はおよそ12000程だから寿命は90超えないかくらいだな。貴族だと魔力が高い者が多いから100は超える者は多いが、ディアナ嬢は魔力が豊富だろう? 寿命はどの貴族よりも長いと思うぞ」


え、じゃあ私の魔力値は今15万だから、多くて75年延びるってこと……? 200年まではいかないけど、でも人間からしたら十分に長いわ。


不意に頭の中にノヴァ様の顔が過った。


いやいやいや、寿命の問題が解決しても仕方ないじゃない。ノヴァ様は「結婚しない」んだから。それにノヴァ様は神様だから歳を重ねても見た目は変わらないけど、私はもしかしたらシワシワのおばあちゃんになるかもしれないじゃない。


超絶美形のノヴァ様とおばあちゃんになった自分が一緒にいるところを想像する。複雑な気持ちが込み上げてきて頭に浮かんだイメージをぱっぱっぱっと消し去った。


「どうした? 百面相しているぞ」


「あ、すみません、なんでもないです……」


話題を変えよう。そうだ、ノヴァ様で思い出した。


ハルトさんに黒竜が山からいなくなったと伝えるべきよね。シュタインボック公爵の依頼をハルトさんも受けているし。でも黒竜の正体についてはノヴァ様の許可を得てからの方が良いだろうから正体は避けて説明した方が良いわね。ルナ様が人間による討伐を危惧して初代国王に内緒にさせていたくらいだもの。


「ハルト様、お伝えしておきたいことがあるのですが」


「なんだ、急に」


「ランデル山脈の黒竜ですが、私が浄化をしたためいなくなりました」


「……は?」


だよね、そんな反応するよね。


「浄化をした? 黒竜は『魔獣の王』だから先にしたということか? というかそもそもどうやってあの結界に入ったんだ」


矢継ぎ早に質問される。私は順を追って説明した。


「結界に入れたのは私が月属性を持っているからです。歴代の『女神の化身』たちのように」


ハルトさんが「ああ、そうだった」と頷く。


「それと、黒竜の浄化ですが、これはまだ内密にお願いします。ラヴァナの森の魔獣が浄化されたらそのタイミングで一緒に黒竜も浄化されたことにしたいので」


「なるほど、わかった。じゃああの山脈の結界はまだ解析し続けといた方が良いな。ちょっと公爵に急かされてるんだ。半年の期限だったのに早くしろだってさ。ま、結界が解けて、いざ黒竜討伐ってなっても肝心の黒竜がいないってわかった時の公爵を見てみたいものだな。多分ずっと笑える」


私もちょっと想像してしまった。あの公爵の思い通りに運ぶはずだったものが崩れた時の顔は見ものよね。


「はぁ……で、なんで黒竜の浄化までしたんだ」


「えっ、それは……」


なんか落ち込んでる……? 気のせいかしら。

最後の方を追記、修正しました。

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