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145.異世界ファンタジー

「……え? は? ……ディ、ディアナ嬢?」


「お久しぶりです、小公爵様。殿下の誕生パーティー以来ですね」


私は笑みを浮かべ、ワンピースドレスの裾をつまみ、淑女の礼をした。


「……」


ハルトさんはあんぐりと口を開けている。


「……これは……どういう……」


「私は転生してディアナ・ヴィエルジュとしてこの世界で生を受けました。『Sランク魔法使いミヅキ』はある魔法のために魔力量を増やすのと技術を磨くために冒険者になる必要があったので、私が変身した姿です」


「ある魔法? 変身……? 変身魔法? っ、そんな魔法があるのか!?」


ハルトさんが私の二の腕を掴む。けれどはっとしてすぐに手を離した。


「ごめん」


「いえ。話すと長いので、とりあえず座りましょうか」


「……そうだな」


私とハルトさんは再び冷めた紅茶が置かれたテーブルを挟んで、向かい合って腰を下ろした。


「はぁ、やばい……ちょっとまだ混乱しているんだが……転生者であるミヅキは総長の隠し子じゃなくて実の子で、その正体はディアナ嬢……え、ってことは総長の子供に転生したということか? なんだそれ、羨ましすぎるだろ。前世でどれだけ徳を積んだらそうなるんだ……?」


ブツブツと呟きながらハルトさんは自分を落ち着かせるためか、残っていたカップの中身を全て飲み干した。そしてカップをテーブルに置き、再び「はぁ」と息をついた。


「ごめん、ディアナ嬢」


「いえ……」


まぁ混乱するのも仕方ないわよね。


するとようやくハルトさんは項垂れ気味だった顔を上げた。


「どういうことか、話してくれるか」


「そうですね……では」


私はスッと瞳にかけていた魔法を解き、お父様と同じ瞳である夜明け色を元の金色に戻した。


ハルトさんは信じられないというような顔で私をしばらく凝視する。


「銀髪に金色の瞳……その姿って、まさかディアナ嬢は『女神の化身』なのか? いや、でもまだ夜ではないし満月ですらないのに、どうしてそんな色を?」


ハルトさんの顔が再び混乱で埋め尽くされる。


「私の場合は『女神の化身』とは少し違います」


「……?」


「歴代の『女神の化身』は結界の修復時に満月の光を浴びるとこの髪色と瞳の色に変わりますが、それは夜明けまでの一時的なものです。私は生まれた時からこの色なのです」


ハルトさんが目を瞠る。


「……遺伝か? いや違うな。髪色は代々のヴィエルジュ家のもつ色だが、金色の瞳なんてここにはいないはず」


「ええ。なので家族は私を決して外に出しませんでした。出ても屋敷の庭くらいです」


ハルトさんはそれを聞いて合点がいった顔を浮かべた。


「俺は常に魔塔に引きこもっていて世情には疎い。だが団員たちが皆総長の娘についての噂話に花を咲かせていて俺も耳にしたことはあった。ヴィエルジュ領の総長の屋敷が一切の接触を絶ったとか、総長が溺愛してやまないため娘を外に出したがらないだとか。あの時は総長の意外すぎる一面に半信半疑でただの噂にすぎないと思っていたが……これが理由だったのか」


ハルトさんが私の瞳をじっと見る。


あの頃そんな噂が流れていたなんて知らなかった。「溺愛してやまない」とか、ちょっと気恥ずかしいというか、くすぐったい。前までそんなことを聞いたらファザコンの私は舞い上がっていたはずなのに、今は羞恥心のほうが(まさ)っている気がする。


大人になったということかしら。中身は既に良い大人の年齢のはずなんだけど。


「『女神の化身』ではないなら突然変異とかか? 外に出されなかったってことは周りに誤解されないようにするためってことだろう? 『女神の化身』なら隠す必要はないもんな。結界崩壊が迫っている現状、『女神の化身』は国や神殿に保護される必要があるし」


私は本題に移そうと、居住まいを正した。


「転生する時に、女神ルナ様からあるお願いをされたのです」


「……は?」


ハルトさんが目を丸くする。そこで反応されるとは思わなかった。


「あ、ごめん。俺異世界ファンタジー系に疎くて。友達には詳しい奴がいたんだけど。神様にお願いされるってそんなことあるのかと思ってしまった」


私は苦笑いを浮かべた。


「まあ、漫画とかラノベではそんなことがあったりしますね」


「すげぇな、ディアナ嬢は実際にそれを経験したのか。あ、話の腰を折ってごめん、お願いって何だ?」


ハルトさんの口調がだんだんと砕けていっている。


「魔獣の浄化です」


「……じょうか……浄化!?」


私は首肯した。


「そんなことができるのか? どの属性で? まさか色々属性を掛け合わせて……」


ハルトさんがそこで言葉を切り、何かを思い出して至った思考に驚愕して言った。


「ちょっといいか? ディアナ嬢の魔法属性って貴族名鑑にある通り火風土なんだよな? それで『ミヅキ』は確か火水土だった……だとしたら、え……まさか、全属性なのか?」


私が頷くと、ハルトさんは「嘘だろ……」と小さな声で唸った。


「ですが浄化魔法は四大属性とは別の『月属性』という属性でできます。私はそれをルナ様から与えられました」


「……」


ハルトさんは文字通り頭を抱えた。


「……俺、自分の力がチートかもって思っていたけど、全然そんなことなかった」


「ハルトさ……小公爵様も十分チートだと思いますよ」


「ハルトでいい」


「……ハルト様は無詠唱スキルの他に魔法付与スキルとか魔法解析スキルとかありますよね」


「ああ。あと知られているのは身体強化と鑑定と状態異常無効と生産だな」


え、そんなにあるの? この世界楽勝じゃない?


「『異世界に転移したのでチートスキルで無双します』の主人公みたいですね」


私が感心して言うと、「何を言っているんだ?」とハルトさんが呆れたような目を向けた。

ディアナのセリフを修正しました。

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