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135.星の眷属神

足元まで伸びた長い銀月の髪、満月を映した瞳、細くしなやかな体……久しぶりに見る絶世の美貌に魅入ってしまう。


「久しぶりね、美月。いえ、今はディアナね」


「お、お久しぶりです。まさかまたお会いできるとは思いませんでした」


「ふふ、きちんとお礼を言いたくて呼んじゃったの」


そう言いながらルナ様が私の方に歩み寄り、私の両手を掴んだ。


「弟を助けてくれて、ありがとう。あなたに託して本当に良かった」


瞳に滲んだ涙が満月の雫のようで、とても神秘的だ。笑みを浮かべて嬉し涙を流すルナ様を見て私の胸に熱いものが込み上げてきた。


なんか、感謝されるっていいな。


今まで楽しくやってきたけど、責任重大なことを背負わされてプレッシャーと不安がなかったわけじゃなかった。でも、自分が誰かに必要とされたことが嬉しくて、大好きな家族の存在で心にぽっかり空いた穴が埋められたことであの頃の空虚な自分はいなくなった。黒竜の浄化は自分の好きなことをやらせてもらえる環境で目標に向けて日々頑張ったから成し遂げられたんだと思う。こういう達成感とか感謝されることって、ロボットみたいに生きていた前世では到底味わえなかったことだ。


「こちらこそ、私を選んでくれてありがとうございます」


ルナ様の手をぎゅっと握り返して微笑んだ。


「あらあら、そうしているとなんだか親子みたいですね」


神殿の方から優しげな女性の声がした。


「あら、ウィルゴ。ふふ、そう見える?」


あ、ウィルゴ様だ。


神殿の神像よりも明らかに美人で少し勝ち気な雰囲気を漂わせた豊穣の女神様。新緑の瞳に麦穂のような豊かな髪を見ていると、雰囲気は違えどお母様を思い出す。


「おお、すげぇ、本当にルナ様みたいだ。ちょっとちっこいけど」


はしゃいだような声が聞こえた。ウィルゴ様の後ろからライオンの(たてがみ)みたいな髪型と耳がついている男性が両手を頭の後ろで組みながらこちらに歩いてきた。


「ルナ様のお力をそのまま持っているんだから当たり前でしょう」


そのすぐ隣で紫色の髪と瞳をしたインテリ風の男性が言う。


「やっほー♪」


歌うような声がしてそちらに目を向けると、ぱっちりと大きな桃色の目をした可愛らしい女の子が池から上半身を出して私に手を振っていた。


わわ、人魚だ! え、めっちゃ可愛い!


そしてさらに神殿からぞろぞろと神様が出て来てこちらに向かってきた。


「あら、皆来たの? ディアナ、紹介するわ。月の神の眷属で星の神たちよ」


絶対そうだと思ってた! わぁ、すごい、本物だわ! 


レオ、リブラ、ウィルゴ、ピスケス、アリエス、アクアリウス、サジテール、タウルス、スコルピウス、ゲミニ、カプリコルヌス、カンケル。


転生してから神像でしか見てこなかった星の眷属神12柱が私の目の前に勢揃いしていた。突然芸能人に出くわしたみたいな心境になる。


あ、アリエス様の髪、白くてふわふわだわ。ああ、もふもふしたい。あれ、あの大きな水瓶を抱えているのはアクアリウス様かしら。


神像では眠った顔だったからわからなかったけど、瞳が深海みたいな濃い青で見つめていると水底に沈んでしまいそうになるくらい惹き込まれる。双子のゲミニ様はお互い肩を組んで無邪気にぴょんぴょん飛び跳ねている。


私は丁寧にカーテシーをして挨拶をした。


「初めまして。ディアナです」


「おう、俺はレオ。よろしくな」


「あ、はい。存じています」


「名乗らなくてもルナヴィアの人間なんだから私たちのことは全員知っていますよ」


「あ、そっか」


「それより、ノヴァ様を助けてくれてありがとうございます。私たち眷属からもお礼を言いたくて」


アクアリウス様が胸に手を当てて心底嬉しそうな顔で言うと、サジテール様が馬の蹄の音を響かせてアクアリウス様に近づき、水のように透き通ったアクアリウス様の髪を慈しむように撫でた。私はその仕草に少しドキッとしてしまった。


眷属神たちから矢継ぎ早に「ありがとう」と言われ、その圧に気圧されながらも私の胸の中はまた嬉しい気持ちでいっぱいになった。


「はいはい、口でのお礼はそのくらいにして」


ウィルゴ様が両手をパチンと叩く。


「ディアナ。私たち、あなたに何かお礼をしたいのだけど、何かしてほしいことはある?」


……! まさか神様の方から申し出てくれるなんて。これはもう遠慮せず言ってみるしかないわね。


「あの……」


皆興味深々で私を見た。


「ダンジョンというものを創りたいと思ってまして、それで何かご協力を得られればと……」


「ほう、ダンジョンですか」


「なに、リブラ知っているの?」


「ええ。漫画と同じくディアナの元いた世界にあるゲームにダンジョンが登場したりしますね」


「あ、そうです、それです」


リブラ様が漫画やゲームを知っていることに驚きだけど、ダンジョンのことを1から説明せずに済みそうね。


「そのダンジョンというのをルナヴィアに創りたいってことか? なんか楽しそうだな」


「あんたどういうものかまだわかってないんだから適当なことを言うんじゃないわよ」


「あん?」


ウィルゴ様とレオ様がバチバチと睨み合い、私は困惑した。


「いつもこうなので放っておいて良いですよ」


リブラ様が慣れたように淡々と言う。


私はウィルゴ様の見た目に反して姉御気質なギャップにカッコイイと思った。

次回は7/25(金)に投稿致します。

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