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131.どうやらいないみたいです

宝箱は見つけることができた。


木の(うろ)の中だったり、何故か空にたくさんのシャボン玉がぷかぷか浮かんでいると思ったらその中の1つのシャボン玉の中に宝箱があったり、大きな湖のど真ん中の小島に置いてあったり。


中身は四大属性の魔石や空の魔石、ポーション、スライムやゴブリンなどDやEランク魔獣の素材の小剣や防具などが入っていた。宝箱3つの内1つは何も入っていないハズレのものだったので、宝箱に関しては問題なさそうだった。


でも肝心の魔獣は探しても見つけられなかったし、出てもこなかった。それどころかエリアボスの部屋らしき小さな洞窟に入っても魔獣はいなかった。


まだ1階層目だからかもしれないと2階層目に進む。2階層目は洞窟内部に変わっていて迷路になっていた。


松明代わりに火魔法を手の平に出して灯りに使う。迷路なので普通は地図を作りながらじゃないと進めないけど、私は探知魔法という地図の魔法があるから迷わずに進むことができた。


途中で休憩を挟み、収納魔法に常備している軽食を2人で食べた。セーフティエリアという、そこで寝泊まりしたり食事をしたり休んだりと自由にできる空間がある。騎士団や魔法師団、冒険者パーティーが野営ができるようにしてあるため結構広い。テニスコート2面分くらいあるかな。


ここの階層でも宝箱は見つかるけれど、魔獣には全然遭遇しなかった。ボス部屋に入っても魔獣はいない。ただ道を進んでいるだけなのでワクワク感がもう落ちてしまっている。


3階層、4階層、5階層と進んでも結果は同じだった。


「魔獣、いませんね……」


樹海の中、もう何度目かの呟きだ。


ダンジョンに肝心要の魔獣がいないなんて、これじゃ意味がない。魔獣がいないことにガッカリだしノヴァ様の剣での戦闘が見られなかったことにもガッカリした。


「魔獣の生成は摂理に反する事柄なのかもしれないな」


「あ、やっぱりそういう制限があるんですね」


月属性超級魔法『月読(ツクヨミ)』は時間を止める魔法だけど3分しか止められない。魔獣の生成もそういう類のものがかかっているから創れないということか。


「おそらく俺の場合と違って故意に生み出すことはできないのだろう」


「……」


ノヴァ様から絶えず放出される神力と人間界の魔素が混ざり合って瘴気となり、それが原因で魔獣が生まれてしまった。いわば不可抗力だ。故意ではない。対して私は創ろうとしている。でも摂理というどうにもならない理があるため魔獣が創れないということは、ダンジョンを創っても意味がないということだ。


「はぁ……ダンジョン、やりたかったなぁ」


また1から考えないとかぁ……


太い木の根に座って落ち込んでいると、ノヴァ様が「できないこともない」と言った。


そんなことを言われ驚いて見上げる。


「どういうことですか?」


「……ディアナは俺の浄化を姉上とオルベリアンに頼まれたのだろう?」


「はい」


そのために月属性と全属性、魔法創造スキルを与えられたからね。


「そして俺の浄化は成功した。その礼として姉上たちにダンジョンに魔獣を創ってもらえば良い」


考えてもみなかったことに、私は「えっ!」と大きな声を出し、樹海の中でそれが反響した。


「そんなことができるんですか?」


「確実にできるという保証はないが、神殿にある依代に願ってみると良い」


「神殿……ルナ様だと王都まで行かないとですね」


あ、転移で行けば良いか。


「そこまで行かずとも、眷属でも姉上に届く」


「そうなんですか? じゃあウィルゴ神殿に行って願えばもしかしたら……」


「ああ」


希望がまだ残っていることに沈んでいた気持ちが浮上した。


ダンジョン創りを諦めなくて良いのね! 良かった!


私は木の根っこからストンッと立ち上がった。


「そしたらもう出ましょう! さっそく神殿に行かないと!」


「また1階層に戻るのか。結構大変なのだな」


ノヴァ様が来た道を戻ろうとしたので、「あ、どこかにダンジョンの出口に繋がる帰還ポイントがあるはずなのでそれを探した方が早いかもです」と、私は逆の方向に促した。


各階層の入口と出口にはセーブポイントを設けてある。帰還ポイントは各階層の真ん中辺りに設置したからこの辺りにあるはず……


樹海の中を探し回り、10分程で小さな池にかかる板橋の上に青白く光る円形の帰還ポイントを見つけた。ちなみにセーブポイントは緑色だ。


2人くらいならちょうど入る大きさの円の中にノヴァ様と一緒に入る。


「足が出ている」


そう言ってノヴァ様が私の背中に手を回して自分の方に引き寄せた。向かい合っているので抱き締められている感じになり、私の顔がちょうどノヴァ様の肩に当たっている。夜の香りがした。


こんなことになって、私の心臓が爆音を上げていた。


ちょ、これはヤバイ……! 早く戻って!


自分の手の置き所がわからない。体の全てに力が入り、早鐘を打つ自分の心臓の鼓動がノヴァ様に伝わらないことを願った。


そして青白い光に包まれそれが収まったと思うと、目の前が1番最初のダンジョンの鉄扉に変わった。山脈の中腹に戻ったようだ。太陽の位置がだいぶ西に傾き始めている。


「……なるほど、これなら楽だな」


ノヴァ様が私の背中から手を離し密着していた状態からすっと離れた。恥ずかしくて早く戻って密着状態から解放されたかったはずなのに、離れた途端に名残惜しさみたいなものが胸の中に広がった。

次回は7/16(水)に投稿致します。

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