130.試しにダンジョンに入ってみます
あとは難易度設定ね。お試しとしてラヴァナの森の方を15階層くらいにしようかな。エリアボスのランクを階層ごとに上げていく形にして、15階層目にいるラスボスはAランクくらいの魔物にしとこう。ランデル山脈の方はちょっと難易度高めにして、30階層くらい? ラスボスはドラゴンが理想ね。
これで冒険者や国の評判を見て、2号が決めた各所でダンジョンが創れることになったらうちの領地のダンジョンの難易度を見直しても良さそう。場所ごとでダンジョンのランクを決めても良いかもしれない。
「ものは試しよね。とりあえず、まずは『ダンジョン生成の魔法』を創ってみるわ」
私はダンジョンをイメージしていつものように魔法創造スキルを発動させた。魔法が完成してまずはほっと一安心。
『この部屋にダンジョンを試しに創るの?』
「ここはちょっとまずいと思う。シェリーとか間違えてダンジョンに行ってしまったら大変だし」
部屋の中は使用人の出入りがあるから危険だ。誰も来ない場所となると、あそこしか思いつかない。それに渡したいものもあるからちょうど良い。
私は屋敷で昼食を済ませると、さっそくランデル山脈に転移をした。
中腹に転移すると、黒竜の浄化で少し蘇った芝の地面に家テントがぽつんと立っていた。周りにノヴァ様が見当たらないし神力も感じないことからきっとこの中にいるんだと思う。
快適に過ごせているのか気になったけど、私はまずスキルで創った『ダンジョン生成の魔法』を試そうと思った。どんな感じになるのか見てみないとお父様にきちんと報告ができないからね。だいたいわかったら一旦解けば問題ないだろうし。
私は家テントから50mくらい離れた場所に移動して何もない空間に手をかざした。
『ダンジョン生成』
金色の魔法陣が現れる。でもそれは、黒竜を浄化した時みたいに大きく、そして魔力か尋常じゃない程ごっそり持ってかれた。
しまった、ステータスで消費魔力値確認しとくんだった!
今更焦っても遅く、浄化の時くらいの魔力を消費し疲れて地面に膝を付いた。また気絶するのかなって思ったけど、あの時より2万くらい魔力が増えているからかそんな感じはしなかった。
その時、後ろから見知った気配を感じて振り返ると、ノヴァ様が血相を変えて家テントから出て私の方に駆けてきた。
「どうした? 何をしている」
ノヴァ様は屈んで息を整えている私の顔を覗き込む。
「す、すみません……ちょっと、ダンジョンを試しに創ったのですが魔力を浄化魔法並みに持ってかれまして……」
「……体調は」
「今回は大丈夫そうです。ありがとうございます」
「そうか……」
浄化の時倒れちゃったから心配して聞いてくれたんだろうと思い、笑みを浮かべて応えた。同時に心配されて嬉しい気持ちとあの時倒れて申し訳なかった気持ちがまぜこぜになって複雑な感情になった。
ノヴァ様は目の前にそびえ立つ鉄製の両開きの扉に目を向けた。高さが5m程ある大きな扉だけが殺風景な場所に立っている。ダンジョンの入口を表す扉だ。
「……急に莫大な魔力を感じたから驚いて来てみれば……父親の許可が降りたのか?」
「いえ、まだです。創ったらどんな風にできるか試したかったので」
「……なるほど」
まだ扉だけじゃダンジョンができているかわからない。中に入って魔獣や宝物があるか確認する必要がある。
私はMPポーションを飲み魔力を回復させた。魔力量が多すぎるので回復に時間がかかるのが難点だ。ハイポーションとかハルトさん作ってくれないかな。
私はよいしょと立ち上がると「冒険者ミヅキ」に変身した。魔獣がちゃんといた場合は戦うかもしれないし。
「あ、良かったらノヴァ様も一緒に入りますか?」
ダメ元で誘ってみると、ノヴァ様の深紅の目が見開かれた。そして興味深そうな色に変わる。
「ああ、俺も行こう」
ノヴァ様が立ち上がるのを見て、胸を撫で下ろした。
こうやって、興味を増やしたり楽しいと思えることを経験していけば、罰として過ごしている人間界が少しでも良い思い出になったら良いと、私は思っている。
私は重たい鉄扉を開け、2人一緒に中へと入った。
そこは見渡す限りの緑豊かな草原だった。真冬の今の季節では見られない風景だ。
上を見上げれば、晴れた青空に白い雲が程よく流れている。
15階層あるダンジョンの1階層目だ。魔獣がいるならDやEランク程度のレベルのはず。
「ディアナ」
「? なんでしょう」
「すまないが、武器を借りられないか。俺は結界で力が使えないから」
「あ、そうでしたね」
魔獣がいたら襲ってくるもんね。丸腰だと危ないわ。
私は収納魔法でディアナ用の剣を出してノヴァ様に渡した。
「……短いですね」
長身のノヴァ様が持つとディアナにはちょうど良い長さの剣が脇差しくらいに見える。
私はミヅキ用の逆鱗付きの剣を出した。
「こっちの方がまだマシかもです」
それでも短いことには変わりないけど。
「いや、これで良い。少し細いが小剣と思えば使えなくもない」
そう言ってノヴァ様はディアナ用の剣で素振りしてみせた。結構様になっていることから、魔法だけじゃなく剣も嗜むことに私は胸が踊り、剣での戦闘を見てみたいと思った。
「では、進みましょう」
私はノヴァ様と共に次の階層を目指して広い草原の中を歩き出した。
次回は7/14(月)に投稿致します。




