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128.新たな装備

私は水竜と一定の距離を保ちながら氷の息吹から逃げる。水竜がその場から移動しないようにタイミングを計りながら。


水竜を中心に円を描くように逃げる途中で、左手を水竜に向けた。


天の怒り(カムイ)


水竜の頭上に大きな緑色の魔法陣が出現するとすぐに青光りの稲妻が水竜めがけて落ちた。


ドーーーーーーンッ!!!!


轟音が鳴り響く。


数億ボルトの電圧が水竜を襲い、巨大な体には青い電流がいくつも走っている。痙攣し、麻痺を起こしていた。


けれど、やっぱり魔法耐性が強すぎるのでこれくらいじゃ黒焦げにも瀕死にもならず落ちもしなかった。


私は麻痺状態の今がチャンスだと思い、水竜の首の真上に瞬間移動した。


『天叢雲の剣』


オリハルコンの剣身が金色に光り輝く。


神剣を振り上げ、水竜の首を一刀両断した。


首と胴体が離れ落下する。


激しい地響きが鳴り、硬い地面がクレーターと化した。


私はクレーター外にストンと着地した。


あー……疲れた……


そのまま地面にドサッと座り込み、MPポーションとHPポーションをガブガブ飲み干す。


ふう……まさか番だったとはね。なんとか倒せたけど、番なんて見分けつかないし。これからは2体見つけたら慎重になろう。自分の魔力値が高いからって油断しては駄目ね。お父様に怒られる案件だわ。


あ、そうだ魔力値魔力値!


ステータスを開くと、15万を突破していた。


やったーーーっ!! 目標達せーーーいっ!!


万歳した勢いでそのまま後ろにゴロンと倒れた。


冬のすっきりした蒼穹の空が広がっている。


冷たい空気を吸い込み、ふう、と大きく息を吐き出した。達成感に満たされる。


前世では経験したことがない初めての感覚に、私はしばらく浸った。


でもこれで終わりではない。ここからが本番だ。


いよいよ魔獣の浄化ね……と、その前に婿養子を決めなきゃなんだけど。はぁ……どうするかな……


ある程度回復してきたので、私はひとまず起き上がってずぶ濡れの全身を風魔法で乾かした後、収納魔法でしまっていたもう1体の水竜を取り出して並べた。


また今度考えよ。今はお宝採取に集中集中。


先にオリハルコンと逆鱗、魔石を採取し、時間のかかる鱗は後回しにした。風竜と水竜の魔石を所持しておけば他のドラゴンが寄ってこないからね。ドラゴンは単体で行動する……って、あ! 番の見分け方ってこれか!


ひとり納得したところで牙と爪と鱗の採取に取り掛かった。


2時間半後、ようやく採取できるものは採取し終えた。2体分あるので随分と時間がかかったわ。


太陽の位置的にもうお昼はとっくに過ぎていた。


お腹空いたし、今日はもう降りてご飯でも食べよう。あとは……


私は水竜の魔石を手に出し、それをしばらく見つめた。30cmくらいある魔石の角は色々な青が混ざっていてとても綺麗だった。


……あの結界は魔獣の森と同様に他の人には見えない。結界で神力の漏出を防いでいるけど神力は感じるのよね。魔力感知ができる人ならあれが人間の持つ魔力と違って異質でどれだけ膨大なのかがわかってしまう。カモフラージュは必要よね。


私は魔石をしまい、指輪を使ってギルド近くの路地に転移をした。


先に遅めの昼食を済ませた後、ギルドに寄り依頼完了報告と必要ない素材は売りお金に変えた。


その後宝石店に行って水竜の魔石をピアスとブローチに加工してもらうよう依頼した。


老店主は水竜の魔石を見てそのままぽっくりいってしまうんじゃないかと思うくらい度肝を抜いていたわ。ミネラウヴァの宝石店は初めて利用するけど、店主は一世一代の大仕事だと張り切って引き受けてくれた。


宝石店を出た後、水竜の鱗でマントを作ってもらうために装備店に寄った。お父様からもらったマントはどこで加工されたのかちょっとわからなかったので、比較的冒険者の出入りが多いお店を選んだ。


なんで新しくマントを作ろうとしているかというと、防御魔法のペンダントのメンテナンスをしに魔塔に行かなきゃいけないからね。今羽織っているマントはハルトさんがお父様の依頼で防御をかけたみたいだから、それを「ミヅキ」が着ていたら不審がられる。


「いらっしゃ……おお、蒼焔のミヅキじゃねぇか」


ガタイの良い壮年の店主が私を見て喜色を浮かべた。真冬だと言うのに白いタンクトップを着て日に焼けた筋肉モリモリの腕を晒している。店の中は暖房の魔道具が作動してあるため寒くないけど、見ていて寒そう。


「いいの揃ってるぜ」


私はカウンターにいる店主に近づいた。


「これで今羽織っているようなマントを作ってほしいんだが」


「んん? どれどれ……って、この鱗、水竜のじゃねぇか!」


目を丸くして驚いた後、店主は「ほぉ……」と私に感心の目を向けた。


「お前って噂通り本当にドラゴンを倒しているんだな。はは、すげぇや。ドラゴンを倒せるのは領主様だけじゃないってのは心強ぇ」


「……どうも」


内心はにかみながらマントの内側から収納魔法で水竜の逆鱗を1つ取り出した。


「マントを作る時、これも一緒にマントの材料にしてくれ」


店主が逆鱗を手に取ると、目玉が飛び出そうな程見開いた。


「……こっ、これは、ドラゴンの逆鱗じゃないか!?」


「知ってるのか」


それなら話が早いわ。


「ダレンの親父から聞いたんだ。しかも今領主様がオリハルコンの他に逆鱗を集めているってこの辺でも噂になってんだ。そんなものが目の前にあって驚かないわけないだろ」


ダレンさんから聞いているのか。お父様にも教えたみたいだし、意外とお喋りなのかしら。


「本当に攻撃を受けると効果が倍に膨れ上がるのか?」


「ああ、試したから間違いない」


「おお、すげぇ……で、お前は今度は防御力を倍にしようとここに持ってきたわけだな?」


店主がカウンターの上で前のめりになる。顔が期待で溢れていた。


私は少し身を引いて「……ああ」と頷いた。


「よっしゃ、任せろ!」


「どれくらいかかる?」


「そうだな……2週間てところだな。年が明けちまうが構わんか?」


王都に行くのはアクアリウスの月(2月)の頭だ。


「構わない」


「わかった。くーっ、腕が鳴るぜぇ!」


任せても大丈夫かな。大丈夫だと信じたい。


少し不安に思いながら私は帰路についた。

次回は7/9(水)に投稿致します。

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