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125.新たな婿養子候補

私はちょっと狭い廊下を進みながらノヴァ様に部屋の中の説明を始めた。


「必要かはわかりませんが一応ここがトイレで、これが洗濯機、そしてここがお風呂場です。ここをこうして詠唱するとお湯が出ますよ」


「ほう……」


物珍しそうな顔でノヴァ様はやり方を見た後、リビングに移動した。


「ここは魔道具だらけなので神力が使えなくてもあらかじめ魔力が充填してあるのでノヴァ様でも使えますよ。短い詠唱をする必要がありますけど。リビングテーブルの引き出しに魔道具の取扱説明書が入ってますので各魔道具の詠唱内容はそれで確認してください」


ノヴァ様が引き出しを開け冊子を取り出しパラパラとめくる。


「……わかった」


「食材はこの冷蔵庫に色々入ってますので食べたいものがあればどうぞ使ってくださいね。あ、お皿とかはこの棚に」


キッチンに入って冷蔵庫や食器棚を開けたりして教える。


ノヴァ様は部屋の中を見渡した。


「……この部屋はディアナが作ったのか?」


「いえ、魔法師団長っていう魔道具作りの天才がいるんですけど、その人が作ったんです。他にもお風呂とかトイレとかコンロとか冷蔵庫とか色々便利なものを発明しているんですよ」


「大したものだ」


「私が異世界からの転生者だと言いましたよね? 魔法師団長が開発してくれた魔道具のおかげで前の世界の生活に近い環境になってとても快適に過ごせているんです」


「ふむ……そいつも転生者なのか?」


「いえ、転生者ではなく、転移者かと。確かめたことはないんですけど……そうなんじゃないかと疑ってます」


「……」


ノヴァ様が黙る。眉をひそめ、視線を落とした。


「……どうされました?」


「いや……会ってみたいものだと思ってな」


もし会ってこの人が黒竜の正体だと知ったら、ハルトさん卒倒するだろうな。


ノヴァ様が窓辺に寄り外を見る。その背中を見て、やっぱり外の方が良かったのだろうかと、余計なことをしたのだろうかと不安になった。


「……あの、」


使わなくても大丈夫ですよと言おうとした時、ノヴァ様が振り向いた。


口角がわずかに上がっている。


「ありがとう、ディアナ」


感謝されて肩のこわばりがすっと消えた。


「いえ……では私は帰りますね。ま、また会いに来ても良いですか?」


自信なさげに言うと、「ああ」とノヴァ様は伏し目がちに頷いた。


私はほっと安堵して「ありがとうございます」と言うと、家テントから出た。


雲の上を歩いているようなふわふわした心地のまま、私はお父様の執務室に指輪を使って転移をした。


執務室に着くと、お父様は執務机に向かって書類仕事をしていた。ソファテーブルの上の食器などは既に片付けられていた。


「ご苦労だった」


執務机の前に立ち、両手を前で組む。お父様の前に立つとちょっとした緊張感というか、気が引き締まるのでさっきまでの心地はどこかに行ってしまった。


「いえ……それでお父様、私に何か……」


「……見合いは順調か?」


「へ?」


まさかそのこととは思わず素っ頓狂な声が出てしまった。


「順調……なんですかね。2号しか会えてないですけど」


「誰か良さそうな人はいたか?」


「うーん……」


候補の3人の顔が浮かぶも、応えあぐねる。


お父様が「エレアーナから聞いたが……」と言った後、握っていたペンを机の上に置き、頬杖をついた。


「30代が良いのか?」


「え? ……いや、あの、はい、まぁ、できれば……」


声に苦笑いが混じる。なんかちょっと恥ずかしくなってきた。私がファザコンだとお父様にバレたみたいなものだ。もう既にバレバレなのかもだけど。


でもお父様は特に変な風に捉えた様子はなく、真剣な顔だった。


「30代で独身の高位貴族、それもディアナに見合った者は中々いない。いないが、ヴェルソー小公爵が未だ独身だ」


「ぶっ」


思わず吹いてしまった。


えっ、ハルトさん!?


「で、でも公爵家の次期当主にって養子に迎えられたんですよね? うちに婿養子なんて無理じゃないですか」


「だが彼は当主を継ぐ気はないそうだ。姉が2人いるからどちらかに継がせれば良いと思っている。長女は当主としての力量は十分備わっているしな。公爵を説得すればできないこともない」


ここに来てハルトさんが私の婿候補に? 


転移者(仮)である彼が婿養子になれば前の世界の知識をフル活用して、欲しい大豆もあったらいいなと思っている魔道具とかも作れちゃったりするかもしれない。それはとっても楽しくなりそうだし領地をさらに盛り上げることもできる。できるけど……


不意に脳裏にノヴァ様の顔がよぎった。


いや、なんで今ノヴァ様を思い出すのよ。


胸がソワソワして落ち着かない。


え……そういうこと……? いやいやいや……さすがに不毛すぎるでしょ……


「……お父様、ヴェルソー小公爵と婚姻を結べば擁護派との関係が一層深くなります。既にお兄様とフィシェ侯爵令嬢との婚約が決まっているのに、私までだと……」


気づけば断る理由を並べていた。私が30歳以上って希望したのに身勝手なことを言っているのはわかっている。わかっているけど……


色々なところがぐるぐるする。


お父様がじっと私を見ていた。


「……まだ焦ることはないが、魔獣の浄化の前に婿養子を決めておかねばならない。ディアナの力が万が一露見した場合に備え既に婚約済みにしておく必要がある。ヴェルソー家も領地の3家も申し分のない家なのだからディアナが決めて良い。だがベリエ公爵家から抗議文が届いているためなるべく早く答えを出してくれると助かる」


「え、抗議文?」


「領地内で婿養子を取るためディアナに見合いをさせていることを聞きつけたようだ。昔からベリエ家からアンリ殿との婚約の打診を受けていたからな」


アンリ……


月祭に2人で行った記憶が蘇る。あれからまだ3ヶ月しか経っていないのに、もう随分と遠い昔のことのように感じた。

次回は7/1(火)に投稿致します。

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