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123.ある意味天啓

「この部分が逆鱗です」


(つば)近くに指を差して教えると、お父様とノヴァ様が覗き込んだ。


「ほう。この色は火竜のか。あれを倒すとは大したものだ」


ノヴァ様に褒められた。頬が緩んでしまう。


「攻撃を受けると攻撃力が倍になるのは本当か?」


「はい。風竜で試したので間違いないです。非力な私でもスパーンって切れますよ」


「ふむ、確かに貴重な代物だ。となると、新たに陛下に剣を献上する必要があるな」


おお、陛下に献上……! それなら逆鱗の価値も瞬く間に上がるわね。


目標達成したらすぐ魔獣を浄化しようと思ったけど、オリハルコンと逆鱗の採取のためにやっぱり2年後の結界崩壊まで待った方が良いのかしら。でも崩壊が早まる可能性もあるし、やれる時にやらないと危険よね。逆鱗とかオリハルコンがドラゴンからしか採れないのがなぁ。


「逆鱗はともかく、オリハルコンってなんでドラゴンの中にあるんですかね。山とか洞窟とかで採れたら色々と楽なのに」


私が疑問を口にすると、ノヴァ様が「それはできない」と言った。


「え?」


「オリハルコンは、大地の女神テーレがドラゴンの心臓に埋め込んだものだ」


えっ、そうなの!?


驚愕の真実に私もお父様も驚きを隠せなかった。


大地の女神……神話の絵本にも出てきた女神テーレ。確か褐色の肌と大地の色を思わせる豊かな髪をした、草原のような瞳と水のような瞳のオッドアイをもつかっこいい感じの女神だった気がする。


「どうしてそのようなことを?」


「天界の状況を教えにテーレが一度だけ俺の元に降りてきたことがあった。その時にテーレがドラゴンに埋め込んだのだ。本人は償いと言っていたが……」


償い? 本当に天界で何があったのよ。


「人間が魔獣に脅かされる現状を嘆いたテーレは魔獣と戦う力を人間に与えたかった。だが人間にそのままオリハルコンという優れた鉱物を与えると人間に直接干渉したことになる。天界は人間界に直接干渉してはならない決まりがあるのだ。そのため、魔獣の中で一番強いドラゴンを倒せる者がいれば万が一の時に対抗できると踏み、テーレはドラゴンに埋め込むことにしたのだ」


その時ノヴァ様の深紅の瞳が少し翳ったように見えた。


万が一の時に対抗できるって、もし結界が崩壊した場合にスタンピードが起きてもドラゴンを倒せる程の強者がいれば対抗できるって意味かしら。でもあの表情から少し違う意味もあるような気がするけど、それが何なのかわからない。


でもこの国がすごく神様のお世話になっているのは確かね。魔法属性とか結界とか浄化だけじゃなくオリハルコンまで。


私は夢でオルベリアン様が悲痛な顔で言っていたことをふと思い出した。


――ルナヴィアの人間には申し訳ないことをした。ノヴァにも。


天界の神様たちはこの国とノヴァ様に償っているのかな。それが報われるためにも、魔獣の浄化を必ず成功させないとだわ。


そのためには15万魔力値の突破ね。あとドラゴン2体くらいで達成すると思うから、倒してないのは水竜と土竜……この際だからコンプリート狙っちゃおうかしら。


「そういう理由なら、採れる内に採っておくとしよう」


あ、お父様が討伐にやる気満々だわ。


「私もあと2体で目標値に到達するので頑張ります」


「達すれば魔獣の浄化をするのだろう? どのようにするのか考えているのか?」


「1つずつやっていこうかと。ノヴァ様にかけてあった『女神の化身』が張った結界を壊せたので、森の結界をまず壊してから浄化をしようかと」


1つずつじゃないと広大な森の中にいる魔獣を全部浄化できないと思うし。あ、あれを覚えとかないと。『月の焔(ミカエラ)』のあの長ったらしい詠唱。広範囲に浄化をする時には詠唱した方が効果的みたいだし。確か月の満ち欠けの順だったわね。覚えられるかなぁ。


「それは手記の内容の通りに神殿の尖塔から行うのか?」


「え? うーん……結界を壊すのに結界に触れる必要があるので尖塔からだと離れすぎてできないと思います」


「そうか。なら神殿の許可はいらないな。とすれば秘密裏に浄化をすることもできなくはない、か。あとは……」


何か気がかりなことでもあるのか、お父様にしては珍しく少し難しい顔をしている。


「どうかされたのですか?」


お父様が長い脚を組み替えた。


「魔獣が浄化されれば冒険者の中には路頭に迷う者が出てくる。盗賊になる者も出て来よう。仕事の斡旋先を考えてはいるんだが、行き詰まっていてな」


やっぱりお父様は冒険者の今後のことを考えてくれていた。浄化をするなんて国は知らないことだからお父様が一人で進めるしかない。大変なことだから私も何か手伝えれば良いのだけど。私のもう一つの顔は冒険者だし。


「戦うことを生業にしている人たちなので、護衛とか」


「今もそれはあるが、需要が供給を下回ることに備えるべきだ」


言われてみればそうね。要人の護衛はほとんどが騎士団と魔法師団が務めるし、貴族が護衛として雇うにも冒険者は一般人だからそれ相応の教育を1からしないといけない。雇う側も大変だし、残るのは貧乏下級貴族か商人の護衛くらいなものだ。それも需要は一定じゃない。


「戦う者たちか……昔のことだが、剣闘士や猛獣の試合と処刑が行われていた地があったな。どこだか忘れたが」


ノヴァ様のこの一言で、私は天啓をもらったかのようにぱぁっと閃いてしまった。


パンッと両手を叩く。


「ダンジョンだわ!!」

次回は6/26(木)に投稿致します。

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