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122.ノヴァ様の今後

「山脈に張り巡らされた結界は女神があなたが人間に殺されるのを恐れてですか?」


お父様に聞かれ、ノヴァ様は首肯した。


「だがあれは俺が張ったものだ。結界ではなくただの壁だがな。姉上、いやアドリアーノが張ると悪意や害意のない者は侵入できてしまう」


お父様が納得したように頷いた。


「これからあなたはどうされるつもりですか?」


「どうするも、あと200年山に籠もるだけだ」


え、これからもずっと? ランデル山脈に、ひとりで? 寂しくないのかしら。でも既に800年もの長い年月をひとりで過ごしているのよね。孤独の辛さや虚しさを知っている私には耐え難い年数だわ。それにちょっと懸念することもある。


私は思い切って言葉にしてみた。


「あの、ここに住むのはどうですか?」


隣のお父様が静かに私に目を向ける。私がこう言うのをわかっていたような目だ。


ノヴァ様は虚をつかれたような顔をしている。


私は慌てて取り繕った。


「あ、思いつきで言っているわけではありません。黒竜が浄化された今、公爵から受けたあの依頼は無効になります。だって黒竜はもういないのですから。でも黒竜がいるはずの場所にノヴァ様がいたら? 公爵に急かされて魔法師団長が結界、じゃなくて壁を破ってしまえば公爵はノヴァ様を怪しんで捕えるかもしれない。捕らえられるかはわかりませんけど。どちらにしろ、うちにいた方が安全だと思います」


「周りにはどう説明する?」


「うーん、お父様の客人とか?」


「素性は?」


確か新月の神様がいることは人間に忘れられているのよね。正体を明かしたところで信じてもらえないだろうし、むしろ怪しさが増すと思う。それに黒髪赤瞳なんてルナヴィアにはいないから黒竜との関わりを疑われるわ。素性をどうするか聞くあたり、お父様もそのことをわかっているようね。


私は脚を組んで腕組みするノヴァ様を眺めた。黒髪赤瞳の超絶美形の大人の男性。見た目は30代でお父様と同じくらいに見える。気配を抑えているみたいだけど、只者じゃない感が凄い。物憂げな様子がちょっと儚げで、でもそこが魅力的に映っている。ミステリアスで、どこかの国の王族のような雰囲気も漂っている。


「……別の大陸から遊びに来た王族?」


「それだとこちらの王族と謁見する必要が出る。しかも大陸間での国交は今はまだないため設定が難しいところだ。必ずボロが出る。逆にアルセイデス大陸内の国の王族とは面識があるため怪しまれる」


「……では、うちの領地の貴族?」


「それが無難だろうな……確かエルガファルを治めているリュトヴィッツ伯爵の息子が病死したため跡継ぎがいないらしい。伯爵も高齢で孫もまだ幼いため中継ぎとして養子を探していると聞いている」


「それならノヴァ様がリュトヴィッツ家の養子になれば、貴族としてお父様の客人としてこの家に置いておけますね。例えば、伯爵家の中継ぎとしてノヴァ様に自治能力を養わせるために住み込みで勉強するとか」


「おい、俺はまだ何も言っていないぞ」


あ、そうだった。ノヴァ様そっちのけで話していたわ。


「でもランデル山脈にこのまま留まるのは得策ではないと思いますよ」


「だが俺は……」


深紅の瞳を伏せ眉根を寄せた難しい顔のノヴァ様を見て、私は何か山に留まりたい理由でもあるのかと思った。


「あの、無理にとは言いません。でも、どうか考えておいてくださいね」


「……ああ、わかった」


一旦この話はこれで終わり、ノヴァ様の返事待ちということになった。でも早く決めないとリュトヴィッツ伯爵が養子を決めちゃうかもしれない。


「念の為伯爵には心当たりがあることを伝えておく」


「お願いします」


ノヴァ様のカップに紅茶が入ってなかったのでおかわりを聞くと「いる」とのことだったので、私はポットからカップに注いだ。大分気に入ってくれたみたい。


「ああ、そうだ」


お父様が思い出したような口調で私に目を向けた。


「話は変わるが、ドラゴンにはオリハルコン以外に貴重なものが採れるようだな」


「そうなんです。あ、もしかしてダレンさんに聞きました?」


「……ああ、そんなところだ」


それで領地に帰ってきたとか? ダレンさんの言った通りだわ。


「討伐に行くのですか?」


「近々行くつもりだ。冬の間はしばらく王都を留守にしても問題ないから時間をかけていくつか採る予定だ。逆鱗の場所はどこにある?」


「顎の下ですよ」


「ふむ……確かに盲点だったな」


顎の下なんてあまり見ないし見えないもんね。1つだけ鱗が逆だもん、知らないと見逃してしまうわ。


「逆鱗は今あるのか?」


「えっと、ちょっとディーノさんにあげてしまって……あ、剣に付いているものでも良いですか?」


「ディーノ? ああ、あれか」


あれかって……もしかしてお父様、ディーノさんのこと忘れてました? 


私はテーブルの上の茶器とお皿を端に寄せてから、収納魔法で新調したばかりの逆鱗付きオリハルコンの剣を出し、テーブルの上に乗せた。

次回は6/25(水)に投稿致します。

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