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119.再会

目が覚めると、ベッドの上だった。


天蓋の模様が私の部屋のベッドのそれだったことから、自分の寝室にいることがわかった。


窓の外は明るい。カーテンは開いていた。冴えるような冬晴の空が見える。


眠気眼(ねむけまなこ)をこする。そして腕をついて起き上がった。


……


……あれ、私、どうしたんだっけ……


……


……あ!!


ガバっと毛布をはいで、急いで隣の私室の扉をバンッと開ける。


洗面室で顔を洗い、クローゼットから適当に服を選んで着替え、身支度を整える。シェリーを呼ぶ時間も惜しかった。


――コンコン


「ディアナ様、シェリーです」


「どうぞ!」


身支度が終わる頃というタイミングが良いのか悪いのか、シェリーが来てくれた。


扉を開け、心配げな表情のシェリーが入ってくる。なんだか久しぶりにシェリーの顔を見た気がした。


「グラエムさんからディアナ様の様子を見て来いと言われて来たのですが、もう起きて大丈夫なのですか?」


「頭もスッキリしているし、体も軽いわ。私、どのくらい寝ていたの?」


「昨日のお昼過ぎにご体調を悪くされてからですと、丸1日ですね」


んん? 確かにそのくらいの時間から記憶がないけど……てか私ってどうやって部屋まで帰ってきたのかしら。


でもシェリーに昨日の状況を聞いたら、2号が留守番していたこともあって色々と辻褄が合わない会話になる気がしてやめた。


「あ、マクファーレン様からお見舞いのアルバローザの花束を頂いたので、後ほどお部屋に飾っておきますね」


嬉しそうな顔で「うふふ」と笑うシェリー。


はて、マクファーレン……どこかで聞いたことがあるわね……って、あ! お見合い相手じゃん!


2号の経験が私に還元されるので昨日の2号の様子を思い出した。


そうか、私が黒竜のところに行っている時に2号はまたお見合い相手に会っていたのね。え、シェリーのあの様子だと私の相手ってマクファーレン家のユージンて人に決まる感じ? オリジナルの私はまだ一度も会っていないんだけど。


てかそんなことより! お父様に伝えなきゃいけないことが山程あるのよ!


「ねぇ、グラエムってどこにいる?」


「グラエムさんなら今当主様の執務室におりますよ」


「え、お父様帰ってきているの!?」


「はい、昨日の夕方前に――」


「ちょっと行ってくる!」


「えっ、ディアナ様!」


シェリーの呼び止める声を背に私は扉を開けて廊下を早歩きし、階段を駆け下りた。本当は走りたいんだけど、13年で染み付いた貴族令嬢としてのあれこれが私にブレーキをかける。


競歩で2階のお父様の執務室に向かっていると、お父様の執務室からグラエムが出てきた。


私が呼び止めると、グラエムがこちらを向く。


「お嬢様。もう動かれて大丈夫なのですか」


「ええ、この通り。心配かけたわね。お父様に話したいことがあるのだけど、お父様は中かしら?」


「はい……急な来客がありましたのでお嬢様を呼びに行こうとしていたところです」


「え、来客?」


「お嬢様に用があるようなので、中へどうぞ。よろしければお嬢様の分のお茶もご用意して参りますが、何か軽食もお持ちしましょうか?」


軽食と聞いてお腹が空いていたことに気づいた。そういえば昨日のお昼から何も食べてなかったわ。


「うん、お願いするわ」


「かしこまりました」


グラエムが去っていくと、私は執務室の扉をノックした。


「お父様、ディアナです」


「入りなさい」


執務室の扉を開けると、まさかの光景に目が飛び出そうになった。


革張りのソファにとんでもない美形2人が向かい合って座り私を見ている。2人の周りに神々しいオーラのエフェクトがかかっていた。


1人は私のお父様、もう1人は新月の神ノヴァ様だった。


うえ……え? ……え? どゆこと?


てかやばい、急にまた動悸が……


「……早く閉めなさい」


はっ、そうだ閉めなきゃ。


扉を閉めてもまだ私はその場から動けずにいた。


「ディアナ、座りなさい」


「う……はい」


私は深呼吸をしながらお父様の隣に腰を下ろした。


目の前に長ったらしい脚を組んで座るノヴァ様がいる。


「もう大丈夫か?」


「あ、はい……えっと……」


ああ、顔が最高に美しすぎる……! さすが神様だわ。弟だけあってルナ様に似ているけど、優美さの中に精悍さと男の色気が混じって大変なことになっている。肩にかからないくらいのさらさらの髪は闇のように黒くて、瞳も深紅の宝石のように綺麗だわ。全身真っ黒で体の周りにゆらゆらと神力が可視化されているのも迫力さを加えているわね。


見惚れていたらますます動悸が激しくなった。美形は見慣れているはずなのに。


「瞳の色は金色ではなかったか?」


「え? ……あ」


そうだ、身支度をしている時、習慣的に瞳をお父様と同じ夜明け色に変えたんだったわ。


「ちょっと、色々事情がありまして普段はこの色にしているのです」


「……そうなのか」


ノヴァ様が瞳を伏せる。


姉のルナ様と同じ髪色と瞳だからそっちの方が良かったのかな? 屋敷の中だから戻しても良いんだけど、5歳になる前から瞳の色を変えてきたから、騎士とか使用人たちはたぶんもう本当は金色の瞳だってことを忘れている気がするのよね。


すると、お父様が衝撃的なことを言い出した。


「昨日浄化後に倒れたディアナをここまで送ってくれたのだ。礼を言いなさい」


「え」


そうだったの!?


「そ、そうだったのですね。ノヴァ様、ありがとうございます、助かりました」


「ディアナには大きな恩がある。礼には及ばない」


私は苦笑いを浮かべた。


「でも浄化をしても魔力はまだ十分残る計算だったのにまさか倒れてしまうなんて……あ、もしかして2号って消えちゃいました?」


恐る恐るお父様に尋ねると、お父様は静かに頷いた。


「げっ……あの、大丈夫でした?」


消えたところを誰かに見られていたら相当やばいよ。あ、確かマクファーレンの人とお茶会中だったわよね!? 


「誰にも見られてはいない。グラエムが上手くやってくれた」


「そうですか、良かったぁ」


ふう、と安堵する。


「2号、というのは?」


ノヴァ様が尋ねてきた。


「私が冒険者の姿でいる時は、私の分身を屋敷に留守番として残すんです。冒険者はノヴァ様も見た少年の姿で、分身の2号は今の私の姿です」


「ほう……そういうことか」


ノヴァ様がひとり何やら納得顔を浮かべる。


ていうかそもそもなんでここにノヴァ様が?


顔に出ていたのか、ノヴァ様が「ああ、そうだ」と言った。


「ディアナ、俺に結界をかけてくれないか」


え、結界……?

次回は6/18(水)に投稿致します。

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