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幕間(18)ー6

この場にいる神々の顔が一瞬にして強張った。


「やめよ! ノヴァ!」


オルベリアンが制止の声を振り上げる。


俺から放たれている闇色の神力が辺りに充満し、満天の夜空が漆黒の闇に閉ざされようとしていた。


野次馬のように囲んでいた神々が散り散りになり、皆ウィルゴのいる舞台まで避難していく。


「なんなんだよ、これ……!」


辺りに広がる闇にダリオは狼狽えた。


俺は右腕を前に出した。


ダリオのみを狙い、ダリオの体に闇を這わせる。


「うわっ、なんっ……!?」


姉上を閉じ込めていた腕が緩んだ隙に、俺はダリオの体に闇を巻き付け姉上から引き剥がし、ダリオを宙に浮かび上がらせた。


「うわぁぁぁっ!!」


オルベリアンが項垂れるのが、視界の端に映った。


天界で攻撃のために力を使うのは禁じられている。わかってはいるが、もうどうでも良かった。


地面に手足をついて咳き込む姉上をロカスが介抱するのを確認し、肩で息をつく。


でもそれだけでは俺の胸の中の強烈な震えは収まらなかった。


俺はダリオを見上げた。


ダリオは俺を見て驚愕に目を見開き、息遣いを荒くした。宙に浮かんだ脚が小刻みに震えている。


「……くだらないな」


闇の深淵から響いてくるような重苦しい声が俺の口から出た。


闇色の神力がゆっくりとダリオの全身を覆い始める。


「ノヴァ様、おやめください!」


「あとは俺らがやりますから!」


リブラとレオが俺がやろうとしていることを察し、やめさせようと声を荒げた。


「やめよ、ノヴァ。このままそれを使うと人間界にも影響が出る」


オルベリアンが再度忠告する。


「そうだ。お前も罰を受けることになる」


太陽の神イユレも俺を(いさ)める。


「覚悟の上だ。この男神を消さないと俺の気がすまない」


「け、消す……!?」


ダリオが震え上がる。


「ロカス様! オルベリアン様! 助けてくださいっ!!」


「……やむを得まい」


オルベリアンが俺を止めようと一歩動いた時、隣にいたロカスがオルベリアンの前に腕を出した。


「ロカス……?」


「私が。恥ずかしながらあれは私の眷属ですので」


「ロカス、邪魔をするな」


「ノヴァがやらずとも、その者の処罰は免れない。眷属という位も剥奪される上に数百年の謹慎になるだろう」


「……」


俺はため息をつき、この場にいる柱神たちを舞台の方まで転移させようとオルベリアンたちに向けて闇色の神力を放った。


瞬間、驚いたロカスが俺の闇に空間の力を放った。闇が跡形もなく異空間に消える。


「っ、我らまで消すつもりか!」


ロカスが叫ぶ。


俺は訝った。


「姉上がいるのにそんなことをするはずないだろう。まとめて舞台まで転移させようとしただけだ」


そう言いながら俺は闇色の神力を星の眷属神たちに放ち、制止の声も聞かず無理やり舞台に移動させた。


「……はぁ、わかった」


ロカスは諦めたようにそう言って柱神たちを舞台の方まで空間転移させ、姉上も連れようとした。


「待って、ノヴァ! 落ち着いて! そんなことをしては駄目よ!」


「わかっている」


わかってはいるが、俺が不気味で不吉だと広めたコイツにこの力でコイツを葬り去りたかった。そう思ってやっと、俺は案外気にしていたのだと悟った。


「……早く向こうへ」


俺はロカスを促し、ロカスは抗う姉上を連れて離れた舞台の方へ転移した。


周囲に誰もいなくなったところで、俺は再びダリオに向き直った。


「さて……」


濃密な靄のような闇がダリオの胸の辺りまで到達した。


「ひいぃぃぃぃっ!!」


ダリオは恐怖で顔を引き攣らせながら腕と脚で闇を押しのけようと足掻く。そうしている間にも闇が徐々に上へと登り、残す所はとうとう顔だけになった。


ふと後方の舞台上にいる神々を振り返ると、皆血の気が失せたような顔だった。中には俺に怯えた目を向け震えている女神もいる。この騒ぎの当事者でもあるアティラという女神は先程の赤ら顔とは打って変わって生気を失ったような落ち窪んだ目になり茫然自失していた。


俺の中で、怒りが諦観に飲み込まれた。


「駄目よ、ノヴァ……」


姉上のか細い声が聞こえた、気がした。


「やめ……やめてくれ……俺、俺が、悪かった。あ、謝るから……!」


俺に向けていた激情が嘘のようにかすれた声で懇願する。


処罰は承知の上で騒ぎを起こし、身勝手さで姉上を巻き込んだ自身の末路を想像もできない愚かさ。そして自らに危険が及べばこの有り様か……


闇がダリオの頭部まで覆い尽くし、ついにダリオの懇願の声も聞こえなくなった。


ただの闇の塊が宙に浮かんでいる。


俺はしばらくその闇を見つめた。


そして深く息をついた。


光の届かない闇の中を死ぬまで彷徨い続けるが良い。


「……『(アルク)』」


静寂の中で、俺の声はよく響いた。


ダリオを包んだ闇がゆっくりと収縮していく。


小さな塊になり、そして跡形もなく消滅した。


しばらく誰も微動だにしなかった。空気まで固まってしまったかのようだった。

次回は6/6(金)に投稿致します。

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