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幕間(18)ー4

姉上は杯を手に立ち上がり、池の対岸にいる友である調和の女神イリニと大地の女神テーレの方へ向かった。同時に、星の眷属神であるカンケル、ゲミニ、タウルス、カプリコルヌス、サジテール、スコルピウスの武闘派6柱が姉上の後を付いて行った。彼らは姉上の護衛を常にしている者たちだ。


俺の元にはレオ、リブラ、アリエス、アクアリウス、ピスケスが残った。ウィルゴは舞の準備のため既にここにはいない。


「ねーえ♪ 果物とお酒のおかわりちょーだい♪」


いつの間にか歌を中断していたピスケスが、池から上半身をのり出して縁に寄りかかり、空の皿と杯を突き出しながらレオとリブラに言った。


「なんで俺が?」


「何故私が?」


レオとリブラの声が重なる。


「だって私ここから出られないもの♪」


海の色のような尾で水面を静かに叩きながら言う。鱗が満月の光で煌めいていた。


「俺は今からノヴァ様に給仕するからリブラ、お前がやれ」


「いつレオがやるって決まったのですか。まだ勝負はついていませんよ」


すると、アリエスが新しい皿と杯をピスケスの前の芝の上に置いた。皿の上には色とりどりの果実が乗っている。ピスケスが言う前にいつの間にか取りに行っていたようだ。


「わーい♪ ありがとアリエス♪」


嬉しそうな笑みを浮かべながらピスケスは果実を摘まんで口に運んだ。


「……」


アリエスは無言で頷いている。常に周りを見て気配りができる眷属なのだが基本無口だ。


そして次にアリエスは酒に酔った赤ら顔で大きな水瓶に両手で抱きついて眠っているアクアリウスの肩に羊毛の毛布をかけた。アクアリウスの水のように透き通った色の長い髪が一房、水瓶の中に入ってしまっている。


アクアリウスは酒を何よりも好んでいるが、残念なことにたいそう弱くすぐ寝落ちをしてしまう。そして一度眠ったら中々起きない。あの水瓶の中身は聖水ではなく実は酒なのではと俺も含め誰もが疑っている。


個性的な眷属神のやり取りを眺めながら酒を飲んでいた俺の元に、他の柱神の眷属である女神たちが複数やってきた。


「あの、ノヴァ様、席をご一緒してもよろしいですか?」


緊張からか笑みを固くして女神が尋ねる。


俺は突然のことに面を食らった。


女神たちに気づいた星の眷属神たち(アクアリウス以外)も驚きを隠せないようだった。


「ノヴァ様に近づくとは良い度胸だ。が、まずは俺が相手だ! ――イテッ」


威勢良く言い放つレオをリブラが引っ叩く。


「何言ってんですか」


「だってよぉ、こいつらも同じかもしんないだろう?」


「わ、私たちを他の神たちと一緒にしないでくださらない? ノヴァ様を恐ろしいなどと思ったことはありませんわ。むしろ好意的よ」


「そうよ。純粋に私たちはノヴァ様とお話したくて来たのよ」


「えっ」


レオが唖然としている隙に女神たちが眷属神たちを押しのけ俺の側に腰を下ろした。


「さぁ、ノヴァ様。どうぞ」


最初に声を掛けてきた女神が俺の隣に座り、杯に酒を注いだ。


「わたくし、ノヴァ様のお姿を拝見できてとても嬉しいですわ」


「私も。オルベリアン様がご出席されると聞いてからきっとノヴァ様もお顔を出されるのではと思って今夜を楽しみにしておりましたの」


「こんな機会滅多にないですもの。どうか今夜はずっとここにいてくださいな」


女神たちの媚を売るような視線と声色を面倒に思いながら、目を合わせないように瞼を伏せてやり過ごす。


「……ノヴァ様、女神たちに人気があるのは本当だったんだな」


「この場にウィルゴがいたらきっと女の戦いが勃発したでしょうね」


「いなくて良かったな」


レオとリブラの会話に俺はため息を堪え、女神たちの酌に付き合った。


ふと少し離れたところにいる姉上を見ると、姉上がこちらを見ているのがわかった。


笑みを浮かべて何かを言っている。


口の動きから、「頑張って交流をして」と言っているようだった。それを見て、今度こそため息が出た。


「あら、お疲れですか?」


「……いや」


女神が寄る。俺の衣の裾に細くてしなやかな指が触れる。放出されている闇色の神力にも躊躇なく。


「……」


この女神は俺が恐ろしくないのだろうか。


不思議に思って思わずその女神を見下ろすと、女神はみるみる頬を赤くし、青の瞳を彷徨わせた。


その時、オルベリアンがいる方向から鋭い視線を感じた。目を向けると、オルベリアン、イユレ、ロカス、ライカスのいる場所にいる見知らぬ男神が俺を見ていた。


「……」


その敵意ある視線を俺は慣れたように受け流していると、「あの男神がダリオですよ」と背後からリブラが俺の耳元で囁いた。


俺はもう一度敵意を向けてきた男神を見た。だがもうそいつは俺を見てはおらず、俺に寄りかかっている女神を見ていた。それは熟れた果実のような甘い視線だった。


ああ、なるほど……


理解と同時にダリオとやらの目的が姉上ではなかったことに安堵した。それならばと、この女神には関わらない方が良いと思い席を立とうとした時、間の悪いことにウィルゴの舞が始まってしまった。

次回は6/2(月)に投稿致します。

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