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幕間(18)ー3

「そいつは今夜の宴に出るのか?」


もし本当にダリオという男神が姉上に懸想をしているのなら、そいつがどういう者なのか一度確かめた方が良いのかもしれない。


「ええ。ロカス様は毎年月の宴に出ておりますので、眷属神も一緒です。ちなみに眷属は6柱おります」


「なんで毎年出ていたのに今まで知らなかったのかしら」


「な」


「だから取るに足らないごく普通の神って言っているじゃないですか。眷属のくせに存在感が皆無なんですって」


「出た、辛辣のリブラ」


「漫画のタイトルみたいに言わないでください」


「何『まんが』って」


「知らないんですか? 別の世界のある国の絵本のことですよ」


「逆になんであんたが別の世界のことを知っているのよ」


「ツテというものがあるので」


「ふーん。なら今度読ませてよ」


「残念ながら持ってません。私も読んだことないんですよ。それがあるっていうのを知っているだけです」


「なんなのよ」


「つうか腹減ったな」


俺は3柱の会話を眺めながら、ダリオという男神の顔を拝もうと長い間出ていなかった宴に出ることに決めた。



月の宴は毎年月の浮島にある神殿の前庭にて行われる。


天界には柱神それぞれの浮島が点在しており、一番広くて規模が大きいのが創造の神オルベリアンの浮島で中央に位置する。月の浮島は中規模の広さで創造の浮島に一番近い場所にあった。


濃藍の空には満天の星が散らばり、黄金に輝く巨大な満月が島全体を照らしている。その月光はとても強く、灯火がなくとも庭でくつろいでいる神々の姿がよく見える程だ。


月の精が金色に瞬きながら優しい音色を奏でている。満月を映した金の池の中、岩に座っている人魚のピスケスが月の精たちの演奏に合わせて歌を歌っている。その透き通った歌声に聞き入っている神もいた。


神殿の前にはウィルゴが舞を披露する円形の舞台が設置されている。その舞台を観賞できるように芝の上に敷き詰められた敷物に数多の神々が座り込み、飲食やお喋りを楽しんでいた。


敷物の上には星の眷属神たちが用意した酒や果実が所狭しと並べられている。柱神同士が近況を報告し合い、各眷属も集まって賑やかに過ごしたり、眷属が柱神に混ざって酒を酌み交わす姿が方々で見られた。


俺と姉上は舞台に最も近い場所でオルベリアンをもてなしていた。


「オルベリアン、宴にご参加頂きましてありがとうございます」


姉上が自身の隣で杯を片手に胡座をかいてくつろいでいるオルベリアンに笑顔で礼を告げた。


オルベリアンは厚みのあるよく響く声でおどけるように返した。


「私の姉からの用事がやっと一段落ついたためこちらに戻って来れたのだ。たった100年といえど、皆が私の顔を忘れてはいないかとヒヤヒヤしたぞ」


「ふふ、まぁ」


「それより私はノヴァがここにいることに驚いているぞ。どの神の宴にも全く顔を出さなくなったのになぁ」


「……オルベリアンのには出ている」


「極たまに途中から来て私と一杯酌み交わしたらさっさと帰るではないか」


俺を忌む神が多い中でオルベリアンは友好的で公平だ。最高神という立場から天界の秩序を守るために掟などには厳しいが。俺の赤い目が不吉だと言われていることを知っているはずなのにこうして俺の顔を見て話す。


「それにしても天界一の美神が2柱も揃うと圧巻だな。男神の出席率が高いのはいつものことだが今回は女神も多い」


「私の弟は女神たちに密かに人気があるのです」


「そうだろうよ。皆ちらちらとこちらを窺っている」


俺はふと庭に目を向けた。すると、女神たちが声を上げながら恥じらうようにさっと視線を外した。


「ほらな」


俺の隣で姉上がクスクスと笑う。


「ノヴァは誰か好いている者はいないのか?」


「あら、それ私も聞きたいわ」


その時近くで星の眷属神たちによる、誰が俺達に配膳や酒を注ぐかの役割の争奪戦が繰り広げられていたのだが、オルベリアンの放った言葉でピタリとそれが止まった。


「……いない、必要ない」


姉上があからさまに残念がる顔をした。眷属神たちの間に漂う空気が複雑なものだったが程なくして争奪戦を再開した。


「まぁ神が恋愛をしてはいけないという掟などない。ノヴァにいつか心を許せる者が現れることを願っているよ」


そんな者、現れはしない。姉上と、眷属神だけで十分だ。


「さて、そろそろ私は他の神のところに行こう。ルナ、ノヴァ、楽しかったぞ」


「ええ。この後ウィルゴの舞が始まりますからどうぞ見てくださいね」


オルベリアンは立ち上がり、満月草(ルアル)の群生地の側で宴会をしている太陽の神イユレと天空の神ロカス、時間の神ライカスがいる所へ向かった。背を見送っている時、ロカスと目が合ったが逸らされた。


「……姉上」


「何かしら?」


「俺がここにいると誰も姉上に近づけないだろう。俺は場所を移す」


立ち上がろうとした俺の黒い衣の裾を姉上は慌てて掴んだ。


「待って。これからウィルゴの舞が始まるわ。見てって言われているのでしょう?」


「そっすよ。ノヴァ様が近くで見ていないってわかったらあいつ後から怖いっすよ」


「……」


「私は他の柱神たちに挨拶をしてくるから、あなたがここにいれば良いわ。それならウィルゴとの約束も果たせるでしょう?」


「だが……」


「じゃああなたが代わりに挨拶に行く?」


「……」


「でしょ? だからあなたはここにいなさい」


俺はため息をつき、渋々頷いた。

次回は5/30(金)に投稿致します。

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