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幕間(17)ー1

お嬢が結界の中に入ってからかれこれ1時間以上経つ。灰色の空に薄っすらと見える太陽は既に傾き始めていた。


少し前に3人の影が到着した。互いに隠蔽をかけているが気配や匂いをわざと出しているため誰がどこにいるかわかる。周りに人がいればそれらは引っ込むけど、俺は魔力視のスキルがあるからあまり関係ない。


——カタッ


……何の音だ?


カタカタッ


一瞬ドラゴンの襲撃かと思ったが、ドラゴンの魔力は感じない。


すると、影の1人が「石だ」と言った。


カタカタカタッ


見ると結界との境界に並べられた石が震えていた。地震が起きたわけでもないのにグラグラと揺れている。


一気に結界の向こう側にいるお嬢への心配が膨らんだ。


「っ、お嬢……!」


しばらくすると石の震えがピタリと止んだ。辺りには静けさが漂う。


「……なんだったんだ?」


影の1人が呟く。


気を引き締めて警戒にあたったが、それから数分経っても特に何も起こらなかった。


だが突然、コツンと石に何かが当たるような音が聞こえた。


「ん? なんだこれは」


低く落ち着いた男の声がした。同時に尋常じゃない魔力の圧を感じ、俺達は膝をつきそうになるのを気合で堪え、気配と匂いを消した。


ドラゴン!? ……じゃない、誰だ?


漆黒の髪と赤い瞳……スラリと背が高く、男の色気を漂わせ、主と張れる程の美貌をもつ男。だが体中から黒い魔力が漏れ出ていて不気味な雰囲気がある。


結界から出てきたのか? お嬢は?


その男が両腕に抱えている人物を見て俺は目を瞠った。


お嬢っ!!


お嬢は目を閉じて男の腕に抱えられている。冒険者の少年の姿ではなく元の姿に戻っていた。


この男、お嬢に何かしたのか……!?


駆け寄りたくても男の魔力の圧が凄まじくて近づけない。魔獣とは違い、畏怖のようなものを感じる。


クソッ、ヴィエルジュ家の影が近づけないとは……! 


その時、ジンから念話が入った。ジンはお嬢2号に付いているもう1人の影だ。


〈〈ヘンデさん! やばいっすよ! 2号さんが突然消えました!〉〉


〈は!?〉


〈〈5分くらい前なんすけど、バタバタしてて連絡遅くなっちゃいました! まさかそっちで何かありました!?〉〉


おいおい、まずいぞ……


〈2号が消えたのは今お嬢が気を失っているからかもしれん〉


〈〈えっ、大丈夫なんすか!?〉〉


俺は唇を噛んだ。


〈……なんとかする。そっちで誰かお嬢がいないことに気づいた者は?〉


〈〈それが、お見合い相手のマクファーレン伯爵家のユージンてやつと応接室で会っている時だったんすけど――〉〉


〈っ、まさか消えたの見られたのか!?〉


〈〈いえ。2号さん、茶会の途中で異変を感じて応接室を出てから消えたので誰にも見られてないっす。俺がグラエムさんに2号さんが消えたことを伝えたら、グラエムさんがユージンに「お嬢様は極度の緊張で体調を崩されてしまったので誠に申し訳ありませんがお開きとさせてください」って伝えたんすけど、ユージンのやつが「それならお見舞いに」とか言い出して。でもグラエムさんの無言の圧力に耐えかねて渋々帰ったっす。奥さんも心配してたんすけど、お嬢の部屋には誰も近づけさせないようにしてあるっす〉〉


それを聞いてひとまずほっとした。


〈そうか。主は――〉


「――そこに誰かいるな?」


!!


「ふむ、4人か。何者だ、姿を現せ」


くっ、俺達がわかったのか? まさか魔力が見えている……?


〈〈主にはもう伝えてあるっす! そろそろ屋敷に着くそうっすよ〉〉


男と目がった……気がした。


〈……わかった。今それどころじゃなくなったからそっちはジンに任せる。じゃ、切るぞ〉


俺は一旦息を深く吐き、気持ちを切り替えた。


仕方ない……


隠蔽スキルを解き、姿を現した。俺が姿を見せたことで他の3人も同様にスキルを解いた。


男は俺らの姿を見ると、綺麗に整った眉がわずかに動いた。


「見るからに怪しげだな」


いや、あんたに言われたくねぇよ。俺らも黒ずくめだけど、あんたも目以外真っ黒じゃん。なんか体から黒い魔力出てるし、尋常じゃない圧だしで冬だというのに汗が滲んでくるんだけど。


俺は魔力視のスキルで男の魔力を見た。体の中を巡る膨大な量の魔力は漆黒の闇のようで、それが体の外に常に放出されていた。


なんだこれは……


肩につかないくらいの艷やかな漆黒の髪とルナヴィアでは見ないような黒い衣装。瞳の色以外全て黒を纏った得体の知れない男を前にしていると、深い闇と対峙しているようで飲み込まれそうな感覚に陥る。


魔王って言われたら誰もがめちゃくちゃ信じるぞ。


そしてその怪しさ満点の男は今お嬢を抱えている。さてどうやって取り戻すか……


「俺に殺気を向けても無駄だ」


「……」


「俺は結界から出てきた。わからぬか?」


そんなのはわかっている。誰も踏み込むことができない黒竜の住む結界にお嬢が入って……


俺はその時至った思考に驚愕した。目を瞠ってこの男を見る。


「まさか、黒竜……」


思わず口をついて出た。

次回は5/21(水)に投稿致します。

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