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118.浄化魔法

目の前が突如真っ黒になり、黒竜が見えなくなった。


「これは……わぁっ!」


深い闇が襲いかかる。


驚いて持っていたポーションを地面に落としてしまい、瓶が割れる音が響いた。


何これ……


光を反射しない世界に迷い込んでしまったようで自分が今どこにいるのかわからなくなる。


これは……魔力、かしら。いや黒竜は神だから神力か。凄まじいわね……こんなの当てられたらきっと正気を保ってはいられないわ。私は今のところ大丈夫みたいだけど。てか黒竜はどこにいるの?


「黒竜、様!」


……呼んでも返事がない。


私は手を伸ばした。さっきまで結界に触れていたので私の前にいるはずだと思って。


伸ばした手の感触から硬い鱗のゴツゴツ感が伝わってきた。


目の前にいるわね。この闇は消えそうもないし、ならもうこのまま浄化を始めよう……!


両手で黒竜の体に触れる。


自身の体の中に金色の魔力を巡らせ両手に全て流れるようにする。今まで魔獣討伐や魔力圧縮を重ねて増やしてきた膨大な魔力が器から溢れるように流れていった。


両手の先に、今まで見たことのない大きさの金色の魔法陣が現れた。


私は息を深く吸い込み静かに吐くと、声に出して力強く唱えた。


「『月の焔(ミカエラ)』」


眩い金色の炎が現れる。


その炎が闇を照らし、徐々に濃い闇を吸収していくと、黒竜の姿を捉えることができた。


目の前で伏せている黒竜の体全体が金色の炎に包まれる。黒竜は微動だにしない。


「うっ……くっ……」


魔力がごっそり持ってかれるわね……


こめかみから汗が伝う。真冬なのに。適温の魔道具を身に着けているのに。


そして黒竜を包む金色の炎が最高潮に達したのを見て、私は手を離した。


1歩、2歩、3歩と後ろに下がる。


ゆらゆらと、灰色の空を背景に金色の炎が揺れている。そして、浄化の炎の影響か周りにあった黒い木々までもがキラキラと輝き出した。


うわぁ……


その幻想的な光景を、疲れも忘れて私はしばらく立ちすくんで眺めていた。


5分程そうやって眺めていると、徐々に金色の炎が小さくなり始めた。それと共に、さっきまで黒かった木々が元の緑の葉と茶色っぽい幹と枝に変わっていった。空気も美味しくなった気がする。


木が変化しているってことは、浄化に成功しているってことよね……?


そして黒竜の体から金色の炎が消えた。浄化が終わったのに、黒竜の体からはまだわずかに黒い神力が漏れ出ていた。


黒竜の瞳は閉じられたまま、未だ微動だにしない。


早鐘を打つ自分の心臓の音を聞きながら、私はしばらく様子を見守った。


数十秒後、黒竜の体がピクリと動いた。それを見て私は駆け寄り、体に触れた。


「……大丈夫ですか?」


(まぶた)が動く。そして徐ろにそれが開かれた。


あ、瞳の色が……


今まで見てきた暗く淀んだものではなくなり、その深紅の色は宝石のように眩く光り輝いていた。


「綺麗な瞳……」


カッと黒竜の目が開かれ、むくりと巨大な体を起こした。


〈……〉


「あの、どうですか……?」


〈……体が軽い……毒が、消えている……〉


呆然とした声が頭の中に伝わる。


〈これが浄化というものか……〉


良かった。成功したみたい。


自然と笑みがこぼれる。


私は息を吐き出した。


「うまくいって良かったです……」


安心と同時に足元がおぼつかなくなってきた。浄化の光景の凄さと浄化の結果が気になって疲労を感じているどころじゃなかったから、今急にドカッときてしまった。


令嬢としてはしたないと思いつつも、私はよっこいしょと地面に座り込んだ。地面が湿っててワンピースが汚れるけど仕方ない。


黒竜を見上げると、しばらく呆然とした表情からいきなりはっとしたように顔が動いた。


〈そうだ……もうこの姿でいる必要もない……〉


え? なんて?


すると黒竜が黒い靄とともに突然消えてしまった。


ん!?


私は驚いて思わず立ち上がった。


え、ちょ、え? もしかして天界に帰った? あと200年は帰れないんじゃ……


戸惑いながら辺りに漂う黒い神力を見ていると、それが空気に溶けるようにだんだんと収まっていっていた。


え、誰かいる……?


収まっていく靄の中に背の高い人影が見え、その人影がこちらに近づいてきていた。


果たして靄から現れたのは、見上げる程背が高く、漆黒の髪と深紅の瞳をもったどえらい美形の男性だった。


「え……」


心臓がドクンと鳴り響いた。


「……ディアナ、といったか? 浄化をしてくれたおかげで本来の姿に戻ることができた。この恩は幾星霜(いくせいそう)忘れることはない」


「え……あ……黒、竜……?」


急に顔が熱くなってきた。


「俺の名はノヴァ。満月の女神ルナと同じ月の神であり、新月を司る」


「新、月……」


ルナ様が満月で、ノ、ノヴァ様が新月……? 


「驚かせたか? 新月の神がいることは、俺が800年前に人間界に降りたせいで人間に忘れ去られたからな」


「そう、なのですか?」


確かにこの国ではルナ様のことを「月の女神」って呼んでいる。でも本当はルナ様は()()()女神で、新月の神ノヴァ様と合わせて月の神ということなのか。……そういえば夢で会った時「満月の女神」って名乗ってた気がするわ。


てかそっか。あの凄まじかった闇みたいな神力は、ルナ様の弟であるノヴァ様は新月を司るからか。新月ならルナ様が使う光魔法系と対の闇魔法系を使うのも納得だわ。


ていうかさっきから動悸がやばい。顔も熱いし……魔力を一気に使ったせいなのかしら。超級魔法を使ってもこんな風にはなっていなかったのに。一応まだ3000くらいは魔力残っていると思うんだけど。12万も使ったし、今回は桁が違うからかしら。


「……大丈夫か? 顔が赤いようだが」


「えっ」


ノヴァ様が近づいて私の顔を覗き込んだ。瞬間、私の心臓が飛び跳ねる。


う、近い……!


顔がさらに熱くなり、胸が締め付けられる心地がした。いよいよやばいかもしれない。


離れようと後ろに下がろうとした時、足がもつれた。


あ……


不意に腕を捕まれる。そして大きな腕に背中を支えられた。


……


「魔力を使いすぎたのかもしれない。回復薬は持っているのか?」


距離がさっきより近い。その状態で尋ねられ、私はさらに動悸が激しくなった。


あ、本当にやばい……


「っ、おい!」


私は力が入らなくなり、意識が遠のいた。


あれ……もしかして、2号消え……


私の意識はそこで途切れた。

次回は5/19(月)に投稿致します。

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