表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
144/227

幕間(16)

はぁ、はぁ、はぁ、ああ、しんど……お嬢の後を追うの辛すぎる……


俺には魔力視のスキルがあるからお嬢が隠蔽で姿が見えなくなっても、唯一無二の金色の魔力を追えばいいから見失わないけど、飛ばれるとクッソ疲れる……ねぇ、その角俺にもくれない?


俺は火属性の他に風属性も持っているから『浮遊(フラタール)』は使えるんだけど、お嬢みたいに魔力オバケじゃないから消耗が激しいんだ。毎回MPポーションがぶ飲みだぜ。


でも最近、転移はもう問題なくなった。


何故かと言うと、お嬢が転移するとき、俺はさっとお嬢に駆け寄って後ろからお嬢の両肩を掴んで一緒に転移をしている。いちいち追いかけるのが面倒だし疲れるし、俺が見失っている間に何かあると困るから仕方なくこういう暴挙に出た。もちろん主の許可はもらっている。“もぎ取った”のが正しいけど。たぶん、お嬢は毎回転移をするとき、肩が重くなっていることに不思議に思っているんじゃないかな。転移した後毎回肩を回しているしな。


お嬢が火竜と戦っているとき、木陰に隠れながらヒヤヒヤと見ていた。危なくなったら手を出そうと思っていたけど、誰も見ていないからってスキルで創った魔法を使ってちゃちゃっと倒していたな。いよいよやべぇよお嬢……


そんでもって逆鱗というやつを見つけてダレンの親父んとこに持ってってオリハルコンと錬成させるなんて……お嬢らしいというかなんというか。


つか逆鱗のこと主が知ったらすっ飛んで来て仕事そっちのけでドラゴン狩りに行っちゃうぞ。でもそれはそれで面白いからダレンの親父より先に俺が主に知らせちゃおうかな。


と思ってさっそく主に念話で報告したら、お嬢が火竜を倒したことには一切驚かず、逆鱗の存在に興味津々だった。しかも〈明日そっちに戻る〉だって。くく、やっぱりな。王都からここまで馬で5日だから今から1週間後くらいには屋敷に着いているだろう。


そしてお嬢が新しい剣を受け取った翌日。


お嬢の今日の依頼は銀月草の採取だ。


と思ったら襲ってきた風竜をさくっと倒しちゃった。もうなんなの。


飛ぶのがしんどくなってきた頃、ようやく見つけた銀月草の群生地でひとまず休憩ができた。


けど俺はそこで驚愕の光景を目にしてしまった。


なんで銀月草に触れただけで回復できるんすかお嬢っ! 他の人は手袋なんかしなくても普通に採取できるんすよ! だって花に触れただけじゃ全く何も回復しないっすからね! 魔塔主が精製して初めて効果が発揮されるんすよ!


なので銀月草に触れても何も起きない俺は普通にポーションで回復するしかなかった。くそぉ……


そしてまたお嬢は上を目指して飛んだ。また飛ぶのか。風竜の魔石があるならグアンナの角は俺にくれよ。


つかどこに行くんだ? あ、この方向……もしかしてお嬢、結界を見に行くつもりなのか?


結界がある場所は銀月草の場所から北にまっすぐ登った所にある。昔主が14歳の頃に一緒に行ったことがあるから知っているんだ。でも飛びながらだと地面に人工的に引いてある結界との境界線が見えないんじゃないか? このまま飛んでたらお嬢、結界と正面衝突するぞ。


それから少ししてお嬢は地面に降りていった。境界線に気づいたんだろうか。正面衝突しなくて良かったな。


俺も降りてお嬢から5,6mくらい離れて様子を見ていた。


するともう1人、お嬢の近くに誰かいるのが魔力視でわかった。橙と茶色が混じったような魔力の色をしている。


ああ、Sランク剣士のあいつか。


お嬢と剣士が何やら話してる。剣士は自分が抱えている葛藤をお嬢に打ち明けているようだ。


お嬢は同情したのかわからんが、さっき討伐した風竜の逆鱗を剣士にあげている。人が良すぎないか。


Sランクなんだから逆鱗の情報だけ教えて自分で取らせれば良いのに。幾分晴れやかな顔で下山していく剣士の背を見送りながらそう思った。


お嬢は石の境界線の手前に立っている。俺はそれを背後から見守っていた。


右手で結界に触れすぐに引っ込めた。やっぱり本当に先に進めないとわかったんだろう。魔塔主によって結界が解かれない限りどうすることもできない。


シュタインボック公爵からの胸糞悪い依頼を胸糞悪い方法で脅されお嬢は引き受けざるを得なくなったけどな、主がなんとかしてくれるから心配しなくて良いぜ。


お嬢は結界の前にしばらく佇んでいる。


お嬢、もう行こうぜ。俺もう状態異常の治癒ポーションが1本しかないんだ。


内心焦っていると、お嬢が石を跨いで結界の先に歩いていった。


……は?


呆然とお嬢の後ろ姿を見る。


……は? ちょ、え、なんで? はっ、待ってくれ、お嬢!


俺は走って追いかけた。


石を飛び越えようとしたが足が見えない壁にぶつかる。


いっっってぇ……クソ! なんでだよ!


俺は見えない壁を拳でドンッと叩いた。お嬢の姿がどこにも見えない。


やべぇ……


俺は急いで主に念話をした。


〈主! 主!〉


〈〈……どうした〉〉


〈お嬢が……!〉


主が息を詰めたのがなんとなく気配でわかった。


〈〈落ち着け。何があった〉〉


〈お嬢が、山脈の結界の先に行っちまった!〉


〈〈……は?〉〉


〈嘘じゃないっすよ! 追いかけたけど俺は阻まれて……でも手記によると山脈の結界に入れるのは満月の光を浴びた「女神の化身」だけっすよね!?〉


〈〈……〉〉


お嬢は大満月の生まれじゃないから「女神の化身」じゃないはずだ。なのになんで……あ!


〈〈ヘンデ、お前は昔ディアナの魔力は金色だって言っていたな〉〉


〈俺も今それに思い至りました〉


〈〈加えてディアナがもつのは月属性だ。おそらくディアナの魔力自体が月の女神と関係があるため大満月の生まれでなくとも、満月を浴びていなくとも結界の中に入れるのだろう。それに忘れているのかもしれないが、ディアナの元の姿は白銀の髪と金の瞳で月の女神そのものだ〉〉


そうだった……


俺はあの容姿を隠すため王家の影たちと奮闘した日々を思い出した。


〈でもどうするんすか。中には黒竜がいるんすよね? お嬢に何かあったら……〉


〈〈落ち着け。ディアナ(いわ)く黒竜は月の女神の弟だ。女神由来の魔力をもつディアナに危害を加えるとは思えない。しかも女神がディアナに黒竜を助けるよう懇願したということは、女神と黒竜の関係性はディアナに危険が及ぶものではない。あくまで推測だがな〉〉


〈俺はどうすれば?〉


〈〈ディアナが出てくるまでそこで待機だ〉〉


〈ここドラゴンの縄張りっすよ! 俺1人じゃドラゴンは無理っす! しかも状態異常の治癒ポーションあと1本しかないし!〉


〈〈ラヴァナの森周辺に待機させている影を何人か向かわせる。その中に「家テント」を持つ者がいるからテントの中にいれば瘴気には侵されない〉〉


〈……主今どこっすか?〉


〈〈もうすぐ屋敷に着くところだ〉〉


〈じゃあ主、こっちまで来てくれません?〉


俺は半分涙目になって尋ねた。


〈〈行きたいのは山々だが、騎士たちを休ませる必要がある。ドラゴンを討伐しに行くにしても今からでは無理だ。それに冒険者ミヅキとは接点がないため向かう理由もない〉〉


俺は頭を抱えた。


だよなぁ、そうだよなぁ……


〈きっとディアナは黒竜の浄化をしに行ったのだろう。そろそろ魔力値が浄化できる値になっている頃合いだ。もしかしたら公爵の依頼を免れようと先に黒竜の浄化をすることにしたのかもしれない。浄化されれば黒竜は天界に帰ると踏んでな〉


〈なるほど……〉


もしそうなったらこの結界も消えるはずだ。黒竜がいないとなれば侵略派にとってもその方が良いはず。擁護派はどうなるか知らんけど。そんでその後は森の魔獣の浄化だ。それも済めばこの国は魔獣のいない国として新たな一歩を踏み出せる。んで一気にお嬢は国の英雄に……!


って、お嬢は自分の力が周りにバレたくないんだった。それならどうやって魔獣を浄化していくんだ? 浄化がどういうものか知らないけど、バレずにできんのか?


先のことを考える余裕ができた。ちょっと前向きになったからかもしれない。


〈んじゃ俺はお嬢が結界から出てくるまでここで待機してます〉


〈〈ああ、何かあればまた報告を〉〉


主との念話を切り、俺はお嬢が消えた結界の向こう側を眺めながら影たちの到着を待った。

長くなりました(^_^;)


次回は5/12(月)に投稿致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ