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110.竜の逆鱗

ミネラウヴァに戻ってくると、既に正午を過ぎているため人々の賑わいが朝よりも増していた。朝降り積もっていた雪が魔道具で溶け、通りは歩きやすくなっていた。


ギルドの中に入ると、依頼を終えて仲間と談笑している冒険者たちがちらほらといた。


私が入ってきたのに気づいた何人かが仲間内でヒソヒソと話し出す。


「おい、ミヅキだ」


「あいつ今日ドラゴンの討伐の依頼を受けたらしいぜ」


「えっ、もう討伐してきたのか?」


「そんなわけないだろ。いくら何でも早すぎだ」


「そうだぞ。ランデル山脈までどのくらいかかると思ってんだ。途中でドラゴン以外の魔獣に遭遇して討伐しちまったから一旦戻ったってとこだろ」


そんな冒険者たちの声を聞き、ドラゴン倒してきましたよと心の中で呟きながら私は依頼完了受付カウンターに向かった。


「お疲れ様です。あ、もしかしてあれですか? 状態異常の回復薬の素材をまた持ってきてくださったのですか? 本当に助かります。おかげで供給も増えまして」


20歳前後の若い女性職員がニコニコと可愛い笑みを浮かべる。


ああ、そうだった。それも討伐したんだったわ。


私は黒いギルドカードを渡し、マントの中から収納魔法でユニコーンの角とガルーダの尾羽を出しカウンターに置いた。


「いつもありがとうございます。あ、ドラゴンの討伐依頼ですが、ドラゴンに関してはギルドは討伐期限を設けていないので、どうぞゆっくり——」


女性職員の言葉の途中で私は火竜の牙と爪と緋色の鱗の半分程をドン、ドン、ドン、とカウンターに並べていった。


「……」


女性職員の笑顔がドラゴンの素材を並べるごとに崩れていく。


大きすぎて全部置けないわね。床でも良いかしら。でも翼が無理か。


「……あ、あの……ミヅキさん……」


「すまないが、翼と首を置く場所はあるか?」


「そ……れでしたら、後ほど別室をご用意致します……あの、もしかしてですが、もう、討伐されたのですか……?」


「ああ。火竜だった」


女性はぎょっとして急いでギルドカードからの情報を読み取り、「本当に火竜を……」と目を瞠った。


私達のやりとりから火竜の討伐を知った周りの冒険者たちも開いた口が塞がらないようだった。


「4種のドラゴンの中でも一番倒しづらいと言われているのに……」


「そうなのか。確かに強かった」


魔法耐性高すぎだし、咆哮と熱風で状態異常になるし、ブレス速すぎだし巨体のくせに素早いし……お父様、どうやって毎回倒しているのかしら。見学してみたいわ。


女性職員の顔がひきつっている。


「ご、ご無事で何よりです。まさかまだ低ランク区域に?」


「いや、中腹辺りにいた」


「そ……そうですか」


山脈にいたのにこんな早く? みたいな疑問が顔に出ているけど聞くのを諦めた女性職員は、手際よく報酬などの事務手続きを終わらせた。Aランク魔獣2体分の2金貨と、火竜分の50金貨がカウンターの上に積み上げられたのを見て、私は顔がニヤつくのを抑えるのに苦労した。


その後、男性職員に別室に案内され、そこで火竜の首と翼を出した。


火竜の顎の下の鱗が綺麗に切り取られた部分があったので男性職員に質問された。私は逆鱗のことを知っているか確かめたかったので、そこに逆鱗があって切り取ったことを伝えた。


「逆鱗? 逆さの鱗ってことですか? うーん、僕ここ長いですけど聞いたことないですねぇ。珍しいのですか?」


やっぱり知られていないのね。


「珍しいのかもしれないが、価値があるのかがわからない」


「それでしたらこの街の装備店の店主が鑑定スキル持ちなので見てもらうと良いですよ。あ、もし価値があるものでしたらギルドに報告してくださいね」


なるほど、鑑定スキルね。でもその店主に逆鱗を鑑定してもらってもし価値の高いものだったら売ってくれって言われるかもしれない。先送りにしていたけど創ろうかしら、鑑定の魔法。


「わかった。ありがとう」


男性職員にオリハルコンも売ってほしいとねだられたけど頑なに断り、ユニコーンの角とガルーダの尾羽と合わせて買取金額は35金貨と78銀貨になった。うふふふ。


私はギルドを出て宿に向かい、食堂で遅めの昼食を済ませると部屋に戻った。


グレードが高い部屋なのでベッドが広い。出かけている間に部屋の中が綺麗に掃除され、ベッドメイキングもされていた。


私はベッドにダイブした。


あー……疲れた……


うつ伏せから横になると、次第に眠気が襲ってきた。


鑑定の魔法を創ろうかと思っていたのに眠気には勝てず、私はそのまま深い眠りについてしまった。


はっと目が覚めると、部屋の中が少し暗くなっていた。


目元を擦りながら起き上がる。


あれ、今何時だ……え、もう17時過ぎ……?


ふわぁと欠伸をする。肩を回し、そして両腕を上に挙げて伸びをした。また欠伸が出る。


しばらくぼうっとしていると、白銀色の髪が視界に入った。髪を一房掴む。変身が解かれて「ディアナ」に戻っていたことに気づいた。寝ている間に魔法が解けたっぽい。となると瞳も金色になっているかもしれない。


徐ろに立ち上がり、私は部屋に備え付けのお風呂場に向かった。鏡に映った瞳は案の定金色になっていた。


お風呂から上がるとベッドに腰掛け風魔法で長い髪を乾かした。


えーっと、何をしようとしていたんだっけ……あ、そうだ。鑑定の魔法を創るんだった。


私は魔法創造スキルで「鑑定の魔法」を創った。


収納魔法で火竜の逆鱗を取り出す。


手に持って、さっそく鑑定をした。


すると、ステータスのウインドウに似た青い画面が逆鱗の前に現れた。


なになに……『竜の逆鱗。竜の顎の下にある1つしか存在しない逆さの鱗。武器・防具に装着可能。逆鱗を装着した武器・防具が攻撃を受けると、武器の攻撃力が2倍、防具の防御力が2倍に上昇する』……


え……


驚きすぎてもう一度読む。


この逆鱗を武器につければ攻撃力が2倍に? 攻撃を受けないといけないけど、めちゃくちゃ凄い効果だわ。


私はオリハルコンの剣を出した。


この剣に逆鱗を装着すれば非力な私でももしかしたら一振りで両断できるかもしれない。でも装着ってどうやるんだろう。


私は剣と逆鱗を見比べた。そして思いつく。


何もこの剣にこだわらなくても良いわね。これは本当は「ディアナ」の剣。身長が高い「ミヅキ」にとっては少し剣身が短いからミヅキ用にもう1つ剣を作っても良さそう。素材のオリハルコンがあるし。


そうと決まれば明日は鍛冶屋ね。

次回は4/25(金)に投稿致します。

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