109.ランデル山脈(2)
紅蓮の炎の翼の羽ばたきが「ゴウ、ゴウ」と音を立てている。それは規則的で、まるでこれから誘う死へのカウントダウンのように聞いた者に恐怖を覚えさせるようだ。
熱風が吹き荒れ、地上の森の木々まで届きざわざわと揺れ動いている。岩や葉に被っていた雪が熱風によって溶け出していた。
熱風を浴びれば火傷を負う。けど私にはまた状態異常の回復魔法が作動しているため火傷を負うことはなかった。
「グァァァァァァァァッ!!!」
咆哮を上げながら私に襲いかかった。巨体に似合わず物凄い速さだ。
目眩に襲われるも回復魔法ですぐに治り、火竜が振り上げた鋭い爪の攻撃を防御魔法のペンダントが感知し白い魔法陣を張った。
ガンッ!! ドーーンッ!!
防御を張ったにもかかわらず、火竜の膂力が強く私は反動で後ろにふっ飛ばされた。
咄嗟に『花びらの舞』を発動し、飛ばされる速度を緩めたので岩に衝突しても水竜のマントのおかげもあって軽症で済んだ。
うぅ、いてて……なんつー威力よ。
起き上がろうとした時、莫大な魔力を感知した。
目の前に無数の炎が迫ってきていた。
やばっ!
身体強化スキルで脚力を強化し走る。地面や岩が炎でスパスパと切られているのを見て言葉を失った。
走りながら刃のような炎を避け、グアンナの角で再び飛び上がる。けれど、滞空距離がさっきより低くなっていた。魔石に残っていた魔力が少なくなってきたということだ。
まずい……
火竜は炎の翼をはためかせて無数の炎の刃を出し、飛び回る私を追う。
合間にMPポーションを飲み魔力を回復させる。
角の魔力がなくなるのも時間の問題ね。ならモタモタとしていられない。早く仕留めないと、もし別のドラゴンが来たら最悪だわ。
私は右手を飛んでいる火竜に向け、金色の魔法陣を出した。
『万有引力』
ズドーーーーンッ!!
引力で火竜が地面に落下する。
「グルルルァァァァッ!!」
火竜は藻掻きながら物凄い力で引力に抗おうとする。
くっ、魔法耐性が強すぎる……! ならば……!
魔法で火竜を押さえつけながら瞬間移動で火竜の首元に移動する。
そして左手にオリハルコンの剣を出し、剣身に魔力を纏わせた。
剣身が金色に光り輝く。
右手で放っていた『万有引力』を解き、両手で柄を握った。
月属性超級魔法——
『天叢雲の剣』
オリハルコンの剣が神剣と化す。
「グァァァッ!!」
火竜が起き上がろうとした瞬間、両手を振りかぶって、火竜の首を一刀両断した。
ズドーーンッ!!
首が地面に落下する。
魔石に残っていた魔力がなくなってきたため、私は首元に着地した。
うっ……
足元がふらついて片膝をつく。
超級魔法を使って一気に5万程の魔力が減っていた。
はぁ、はぁ、はぁ……
私はあらかじめベルトに装着していた収納袋からMPポーションを取り、震える手で飲み干した。以前初めてブラックフェンリルを倒した時、ポーションが足りなくて親切な魔法師からもらったことがあってから、魔力が枯渇して収納魔法すら使えない状態になった時に備えてベルトポーチ型の収納袋に予備を携帯するようになった。
3本目だから回復が遅い。
私はHPポーションもがぶ飲みし、体力を回復させた。
あまりここでゆっくりしてられないわね。素材を早く回収しないと。
私はなんとか立ち上がって疲労いっぱいの体を動かした。
あ、そうだ。確かドラゴンの死体からオリハルコンが出てくるんだったわよね。「竜の宝玉」ってやつ。どこから出てくるのかしら……お腹? でもお腹からってあまり格好がつかない気がする……心臓かしら。
私は首元から飛び降り、火竜の胸の辺りを剣で何度か斬りつけた。
すると、コロコロと金に近い色をした野球ボールより少し大きい玉が転がり落ちてきた。
おお! もしかしてこれ!?
私は金色の玉を両手で持った。
これがオリハルコン! 「竜の宝玉」かぁ! 初めて実物を見たわ! ふふ、ふふふふ……
実際にオリハルコンを取り出して、本当に火竜を討伐したんだと実感が湧き、嬉しさで笑いが込み上げてきた。
あっ、魔力値! どのくらいいったかしら。
私は「ステータス」と唱え、画面の魔力値の数値を見た。
12万9400……! え、ドラゴン1体で9000も上がるの!? じゃああとドラゴンを2,3体倒せば目標の15万いけるわ! こうなったら全種討伐しようかしら。
火竜を倒して自信もついたため気持ちが逸る。
でもこういう時こそ冷静に、焦りは禁物というお父様の教えを思い出し、気持ちが落ち着いた私は早く素材を回収しようと剣を駆使して爪と牙、角、鱗、翼を切り落としていった。
私は地面に穴を開けて落ちている首も回収しようと手を伸ばす。
ん……? そういえば、竜といえば逆鱗、よね……逆鱗てあるのかしら。オリハルコンのことはよく聞くけど、お父様からも魔獣図鑑も逆鱗について何も触れられていなかったような気がする。
私は探してみようと、獰猛な口を開けたまま赤黒い血を流している火竜の頭を倒し、顎の下の鱗を見た。
すると、案の定1つだけ逆さの鱗がついているのを見つけた。
あるじゃん! え、もしかしてお父様、逆鱗のこと知らないのかしら。私は前世の知識で知ってたから見つけられたけど、でも竜の顎の下なんてそうそう見ないわよね。ふふ、これを見せたらお父様びっくりするかしら。
私は剣で綺麗に逆鱗を含めた鱗を剥がした。
これでよしっと。はぁ、終わったぁ。もうヘトヘトだし、別のドラゴンに遭遇しない内にさっさとギルドに戻ろう。
私は指輪でギルドの路地裏に転移をした。
次回は4/23(水)に投稿致します。




