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108.ランデル山脈(1)

ギルドを出るとピアスを使った転移でラヴァナの森に入った。昨日の入口付近ではなく、グアンナと戦った場所に着く。


転移するとまず状態異常の回復魔法を自分にかけた。


グアンナに真っ二つにされた黒い木の幹に雪が積もっている。円形にそれが広がっているので見通しが良い。私はそこから山脈の方に向かって北に進んだ。


途中で魔獣に遭遇するのも億劫なので、私は自分に隠蔽魔法と魔力隠蔽の魔法をかけた。魔獣の魔力を感じれば気配を消して通りすぎたり、ユニコーンとガルーダがいればささっと討伐して状態異常回復の素材を採取したりした。


黒い木々が鬱蒼と茂り、暗さが増す。探知魔法の分布を見ると、Aランクの区域に入っていた。


奥に進むにつれてだんだんと空気が重くなっていくような気がする。ここまで来ると、高ランクの冒険者すらも見かけなくなった。


そこから1km程進むと黒っぽい薄靄(うすもや)が所々に現れるようになり、視界の邪魔になっていった。


靄を飛ばそうと風魔法で微風を送りながら進む。そしてだんだんと登り坂になってきたことに気づいた。


麓に着いたということね。ならここら辺はもうSランク区域。麓から上はドラゴンの縄張りだわ。


よし、登る前に……


私は収納魔法で昨日討伐したグアンナの角を取り出した。


この風属性の魔石を使って『浮遊(フラタール)』で飛びながら登ればだいぶ楽だと思って。山登りなんて前世でも経験がないからね。使えるものは使おうということで。


私はグアンナの角の魔石で宙に1m程浮かびながら上に登っていった。


500m程登ってみたけどSランク特有の魔力はまだ感じない。探知魔法でも今いる場所から1km周辺に黒い点は見当たらないし、Aランク以下の魔獣も当然いなかった。


どこにいるんだろう。中腹より上は黒っぽい結界が張ってあるから麓から中腹までの範囲にいると思うんだけど……山脈は東西に広がっているし、結構探すの大変かもしれない。陽が傾いてきても見つけられなかったら一旦宿に帰ろうかな。


黒い木々が途切れ、視界が開けた。地面を見るとゴツゴツとした岩や石が多くなってきていた。少し雪を被っている。


やや北西に向かって2km程飛んでいると、不意に尋常じゃない魔力の圧を感じた。適温を保つ魔道具を身につけているのに背筋がゾクリとして、冷や汗が吹き出た。グアンナよりもブラックフェンリルよりも禍々しく絶望感を抱かせるような圧だ。


まさかと思い探知魔法を見ると1km離れた先に黒い点が現れていた。しかも点の大きさが今まで見たものよりも一回り大きい。


これは絶対……


私は覚悟を決め、黒い点に向って西に飛んだ。


隠蔽をかけてあるし、このまま不意打ちを狙おう。


ゆっくりと重圧を感じる方へと近づいていく。自分の心臓の音も次第にうるさくなっていった。


そして黒い薄靄の中に巨大な影が視認できた。地面に寝そべっているように見える。


あれは……火竜!


薄靄の奥に燃え盛る炎の翼が見えた。適温を保つ魔道具を身につけているおかげで近づいてもあまり熱さを感じないけど、あれに触れたら火傷じゃ済まないだろう。


火竜との距離まで100m。ドクドクと、心臓の音が耳の奥で鳴り響いた。


緋色の体。紅蓮に燃える炎の翼と尾。獰猛な顔についた目は今閉じられているけど、息遣いが死の囁きに聞こえる。


私は静かに呼吸をし、心臓を落ち着かせた。


……よし!


私は火竜の真上に瞬間移動した。


絶対零度(アブソル)


火竜に向かって魔法を放つ。


氷点下273度の冷気が火竜を覆う。霜が降り、体全体が凍てつき火竜の命を徐々に奪っていく。


私は50m程離れた場所でこのまま火竜の凍死を待った。


すると、異変を感じたのか火竜は目を覚ました。


凍てついた体から蒸気が上がり始める。


火竜の緋色の体がマグマの熱のように光り、みるみると体に生気が戻っていった。


嘘でしょ……『絶対零度(アブソル)』は氷魔法最上位の魔法よ。これで仕留められるって思ったのに魔法耐性が思ったより高い!


次の魔法を打とうとした時、火竜が首や手足を動かし、咆哮と共に起き上がった。


「グァァァァァァァァッ!!!」


地響きのような咆哮が空気を揺らす。眠りを妨げた者に対して怒りを顕にしているようだった。


私は突如目眩を覚え、頭もクラクラして方向感覚を失った。


そして状態異常の回復魔法が発動する。目眩も方向感覚もすぐに治った。


ふう、危ない危ない。ドラゴンの咆哮は状態異常を引き起こすのよね。


最上位氷魔法でも紅蓮の炎の翼は再起不能にはならなかった。それを見て、私はため息をつきたくなった。


火竜が何かを探しているように首を左右に振っている。そしてぱっと私に顔を向けた。


!!


私は瞬間移動で灼熱の炎のブレスを避けた。


ドーーーーンッ!!


遠くで爆ぜる音が聞こえる。瞬間移動を創って良かったと胸を撫で下ろした束の間、第2撃が来て、防御魔法のペンダントが発動した。


溜めとか無しでブレス打てるとか反則じゃないかしら! そもそもなんで隠蔽魔法で姿も魔力も隠しているのに私の居場所がわかるのよ! まさかドラゴンは魔力が見えるとか? 


もしそうなら隠しても無駄に魔力を使うだけなので私は隠蔽を解いた。


私の姿を認め、火竜は上空に飛び上がった。

氷魔法の上位が『氷山』ではなく『絶対零度』だったので内容を修正致しました。


次回は4/21(月)に投稿致します。

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