107.ラヴァナの森(2)
まずは機動力を奪おう。
『氷の息吹』
氷魔法を放ち、グアンナの両翼を狙う。瞬間移動でもしているかのように目にも留まらぬ早さで飛び回るので、両目に魔力を込めて視力を強化しながら追いかける。
飛び回りながらグアンナは雷をいくつも落とした。ペンダントで自動的に防御されるので、私は翼に氷魔法を当てることに集中した。
数秒後、氷魔法が片翼に命中した。グアンナは氷の重みで滞空できずガクッと落下する。
その隙に私はグアンナの真上に瞬間移動し、収納魔法でオリハルコンの剣を出してグアンナの首元に突き刺した。
「モ゙オァァァァァッ!!!」
絶叫が鳴り響く。オリハルコンの剣身はグアンナの硬い皮膚を通した。
『煉獄』
剣を突き刺したまま、それを媒介に灼熱のマグマを流す。翼が焼かれないように魔法を調整し、首が焼き切れたところを見て剣を引き抜き、瞬間移動でグアンナから離れた所に降り立った。
首から上が焦げ付いたグアンナが力なく地上に落下していく。
ズドーーーーーンッ!!!
巨体が地面を穿つ。雪と土埃が舞い、しばらく視界を悪くした。
生体反応はないわね。ふう、Sランクだけど結構すんなり倒せたわ。攻撃力と素早さが高い割に防御力は低い魔獣だしね。
すると、自身に状態異常の回復魔法が発動した。体が毒に侵され始めたということだ。
なるほど。4,5時間森の中にいる(テントの中を除いて)と瘴気の毒が作用し始めるということね。なら1人2本は最低でも状態異常の治癒ポーションが必要だわ。魔獣と戦って状態異常になることもあるし、予備を持っておくことを考えると品薄になるのも頷ける。
さてさて、素材素材、魔石魔石っと。
私は辺りに誰もいないことを確かめると、風魔法で土埃をかき消した。
よしよし、翼は無事ね。
私はグアンナの背に飛び乗り、両翼を根元から切って収納魔法で回収した。グアンナの羽根は高級寝具に使われるので高く売れるのだ。
次は魔石。私はグアンナの額にある独特な色をした緑の角を切断した。
私はそこではっとひらめいた。
この魔石を身に着けておけば、風属性のカモフラージュになるかも。「ミヅキ」の時には使えない風属性を人目があっても普通に使えるってことになる。ふふ、このままの状態でも良いけどせっかくだからまた馴染みの宝石店で加工してもらおうかな。
私はグアンナの角をしまい、MPポーションを取り出し魔力を回復させた。
あ、そうだ、魔力値!
私はステータスを開いた。魔力値を見ると、最高値は12万200になっていた。
やった! 12万いったわ! これで浄化魔法が使える! いやっほーい!!
私は喜びで拳を高く突き挙げた。そこではたと止まる。
あれ、待てよ……魔力満タンの状態で浄化魔法を使っても魔力が200しか残らないわね……変身とか分身とかしてたら実質0じゃない? ちょっとそれはまずいわ。目標は15万だけど、黒竜討伐とかそんなことになる前には13とか14くらいは欲しい。となると……ドラゴン、よね……
決して焦っているわけじゃないけど、もう私はSランク魔獣は倒せる。さらにその上の存在に挑戦するのは悪いことじゃないし、自分の実力も試せるし、無理そうなら逃げれば良いし……うん。
確かドラゴンの本来の縄張りは山脈の麓。今は森の方にいる可能性もあるけど、今日森を東から西に移動してもドラゴンに遭遇しなかった。
なら明日は山脈に行ってみても良さそうね。よし、そうと決まれば準備と休息のために今日はもうこれで終わりにしておこう。
私は指輪を使ってミネラウヴァギルドの路地裏に転移をした。
ギルドで依頼完了報告——グアンナの角をねだられたけど断った——を済ませ、女性職員におすすめのレストランを聞いてそこで昼食も済ませた。
薬屋に寄りポーションを補充し、宿に戻って部屋の中でくつろぎながらスキルでいくつか魔法を創った後、夕食を早めに摂っていつもより早めに就寝した。
翌朝。
早起きして日課の鍛錬を終えて宿の食堂で朝食を済ませ身支度を整えた後、部屋に戻り時計を見る。
6時半過ぎか……そろそろ行こうかな。
外に出ると雪が10cmくらい積もっていた。夜に牡丹雪が降っていたのかもしれない。サジテールの月(12月)ともなると北の領地ではこのくらいは普通で、冬が本格化すると50cm積もることもある。魔道具がなければ寒いし移動も大変だしで厄介極まりないけど、領地に帰ってきたのは8年ぶりで王都はあまり雪が降らないから、積もっているのを見てちょっとワクワクしてしまった。
道には雪を溶かす魔道具が等間隔で設置されているので住民たちによる雪かきとかは必要ない。10cm積もると作動する仕組みなのでたぶんもう作動していると思う。
完全に溶けるまでは時間がかかりそうなので、私は自分の進む方向を魔法で雪を溶かしながらギルドに向かった。
早朝のギルドの中は王都ほどではないけれど、冒険者が依頼ボードの前に詰めかけていた。
ボードの端にあるSランクの依頼票からドラゴン討伐の依頼票を剥ぎ取り、受付カウンターに並ぶ。順番が来て昨日と同じ若い女性職員に依頼票とギルドカードを渡すと、女性はそれを見て目を見開いた。私が受ける依頼内容に驚いたのだろう。
でも女性はすぐに真面目な顔つきになった。
「今年に入ってドラゴンはBランク区域に度々現れていましたが、最近では麓の縄張りに戻っているとの報告がありました」
職員の口から「ドラゴン」というワードが出て周りにいた冒険者たちが驚愕の声を上げる。
「そうか。わかった」
やっぱり麓ね。
女性は受付の手続きを済ませると立ち上がり、「どうかお気をつけて。ご武運を」と言った。両隣にいる冒険者登録受付の男性と依頼完了受付の女性職員も立ち上がり、3人が揃って私に礼をした。
私はそれに目を瞠り、冒険者たちもあまり見ない光景に唖然とする。
私はその敬意に微笑んで「ありがとう」と言ってギルドを出た。
次回は4/18(金)に投稿致します。




