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103.神殿巡り(5)

8年ぶりに帰ってきたスピカの街。道にも屋根にも雪が積もっていて、雪かきしている人が何人かいる。


神殿を巡る旅はウィルゴ神殿で終わりだ。早く屋敷に帰って1ヶ月程かかった旅の疲れを癒したかった。


なので私は着いてすぐウィルゴ神殿に向かった。


昼前の礼拝堂には人が数えられる程しかいなかった。ヴィエルジュ領は広大なラヴァナの森を有するため、いち早く一般の人達の避難を推し進めていたためだ。


王都以北の領地に住む人たちは南に避難をどんどん進めている。でもそうすると領の人口が減って経済が回らず領の収入も減るので、スタンピードが終わるまで王都以北の領地の税や住民に課せられる税は免除されている。


また、流通が滞らないように王都周辺の冒険者を使って物資などを北側に運んだりしているので、まだ北に残っている人たち——主に冒険者や商いをする人たちの生活物資が行き届くようになっている。


「ウィルゴ像はいつ光るんかな」


「さぁ。でもどうやら南から順に北上していっているらしいから一番最後なんじゃないか?」


「何か兆候があるの?」


「いや、突然光るらしいぞ」


「つか俺らくらいだぞ。わざわざミネラウヴァの街からここに来て待ち構えているのは」


礼拝堂には冒険者たちがいた。少し声の音量を下げて話している。


今から光りますよ、と心の中でつぶやきながらウィルゴ像の前に瞬間移動をした。


豊穣の女神でもあるウィルゴ神のお腹部分に触れ、2万を超える魔力を込める。そしてたちまち像全体が金色に光り輝いた。


「おおっ! 光った!」


「俺ら運がいいぞ!」


「待った甲斐があったね!」


「すげぇ……はっ、祈っとこ。えーっと、『結界が崩壊しませんように』」


「ねぇ、そこは『魔獣がいなくなりますように』じゃないの?」


「そうだけどよ、魔獣がいなくなったら俺ら働けねぇじゃん。どうすんだよ」


「……薬草摘みとか採掘とか護衛とか?」


「微々たるもんじゃん。家族を養えねぇだろ」


私はそれを聞いて胸が詰まった。


魔獣を浄化すれば魔獣がこの国からいなくなる。550年以上も脅かし続けていた存在がなくなり、国に真の平和が訪れる。


でも魔獣の討伐が一番稼げるから冒険者にとっては死活問題だ。私の場合は冒険者をやれなくても領地経営とか他にやれることがあるけど、冒険者の人たちはどうだろう。識字率は高いといえど、冒険者が就ける職は限られている。


魔獣が浄化された後のことを真剣に考えるべきだわ。でも国は魔獣が浄化されるなんて思っていない。知っているのはお父様とお兄様だけ。あの2人なら既に考えているのかもしれないけど、私も何かないか考えてみよう。


ウィルゴ神殿を出て大通りを歩きながら、2号に念話を送った。


〈2号、今1人?〉


〈〈うん、部屋にいるよ。巡礼は終わったの?〉〉


〈巡礼って……うん、無事に全部終わったよ。ご飯はまだだったりする?〉


〈〈お疲れ。まだだけど、もうそろそろだよ〉〉


ならもう転移して家で昼食を摂ろうっと。


〈今からそっちに転移するね〉


〈〈はーい。あ、部屋じゃなくて私の所に転移してきて〉〉


〈? わかった〉


隠蔽魔法はずっとかけているため、その場で指輪を使って2号のいる所に転移をした。


目の前に広がるのは見慣れない部屋だった。


「……ん? あれ、ここは?」


『ふふ、おかえり。ディアナの部屋だよ』


「え? こんなだっけ? ベッドは?」


5歳まで過ごしていた自分の部屋と内装が違っていた。青かったカーテンがアルバローザの薔薇みたいに深みが増し、白かった壁には銀色でさりげなく模様が描かれていた。家具のデザインや装飾も高級感溢れ、以前と配置も違う気がする。


『前の部屋は子供用だったからね。3階なのは変わらないけど、寝室と分かれている部屋に移動したのよ』


「そういうことね」


部屋を見渡していると、ノック音がした。ビクッと体が跳ねる。


「ディアナ様、昼食のご用意ができましたよ」


シェリーの声だ。


『今行くわ。ちょっと待ってて』


2号が返すと私は急いで分身魔法と変身魔法を解いて「ディアナ」に戻った。


扉を開け、約1ヶ月ぶりに会うシェリーと一緒に食堂へ下りた。


分身魔法を解くと、分身側が経験したことが私に還元されるようになっている。食堂に向かっている間、私は2号がこの約1ヶ月の間に経験したことを振り返っていると、思わぬことに驚いて階段を踏み外しそうになった。

次回は4/9(水)に投稿致します。

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