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101.神殿巡り(3)

3日後の昼前、ヴェルソー領のアクアリウス神殿がある街、シトゥラに到着した。


賑やかな街で人々の往来も多く、絹の生産地でもあってとても栄えていた。大通りを歩いているだけでも絹を取り扱っている店が何軒もあり、小物や雑貨などは一般庶民にも手に取りやすい価格で提供されている。


——なんだけど、建物の色や石畳の歩道、街灯がほとんど黒く塗られているせいか、通りに野菜や果物、花や雑貨などが並んでいると色彩のコントラストが濃くて不思議な感覚に陥る。


ここは黒竜擁護派筆頭貴族の領地だから黒を神聖視しているためにこんな景色になっているんだろうけど、趣があるかはちょっとわからない。


私は先に宿屋で馬を預かってもらってから神殿に向かった。


ここでも多くの人が礼拝堂に殺到していた。


朝からずっと待っていたのかしら。いつ光るかわからないから毎日訪れる人がほとんどってことよね。てかアクアリウス神殿は黒く塗られてないのね。


私は隠蔽魔法と魔力隠蔽の魔法を自分にかけてから、瞬間移動でアクアリウス像の前に立った。


アクアリウス像は水のように透き通った色合いの長い髪を持ち、大きな紺色の水瓶(みずがめ)を抱えて座っていた。綺麗な顔立ちをしているんだけど、水瓶を枕のようにして目を閉じているからなんだか眠っているように見える。


神像の腕に触れ、毎回のように2万と少しの魔力を込めると、たちまち金色に光りだした。


歓喜の渦の中、私は瞬間移動で立ち去り、何事もなく任務を終えた。


早めに終わったので宿には泊まらず、昼食を食べた後馬を回収してそのまま隣のシュタインボック領に向かった。


闘技場の薄暗い通路で会った公爵の顔が頭に浮かぶ。あの日の翌日にギルドに行ったら本当に公爵から指名依頼があった。内容は黒竜討伐じゃなくて護衛任務になっていた。


馬を走らせながら、お父様に公爵のことを報告した時のことを思い出す。


依頼を受けたフリだけしておけってお父様にも言われた。公爵のことは気にせず私がやるべきことを優先しろとも。


それからお父様からハルトさんは味方だと教えてくれて、私はそれにほっとした。ハルトさんの公爵に対する態度に疑問に思っていたから。


あと依頼を達成しなかったら1白金貨の罰金が科せられることも伝えたらお父様が用意するということになっていた。ミヅキと接点もないのに用意して大丈夫なのって聞いたら、「黒竜浄化後、黒竜がどうなるかで用意するかしないかが変わる」って言われた。なるほど、浄化ができたら天界に帰るかもしれないものね。


4日後の朝シュタインボック領に入り、カプリコルヌス神殿のある領の南のアルゲディという海沿いの街に到着した。


シュタインボック領はこの国で唯一魔獣の森を有しない領だ。冒険者ギルドはあるけど、そこで受けられる依頼はユーレリアの森での薬草や鉱物採取や、貴族や商人とかお偉いさんたちの護衛がほとんどで、魔獣討伐の依頼は少ない。


そんな魔獣の討伐依頼のない場所になんでSランク冒険者のミヅキがここに? みたいな顔で、道行く人々が私を見る。王都から離れているのに私のことを知っているなんて、すごく有名になったものだ。


アルゲディの大通りを10分程歩くと、カプリコルヌス神殿に着いた。


毎度のような光景に、噂が出回るのは早いなと感心しながら、いつものように路地裏で隠蔽魔法をかけ、礼拝堂に入ったところで神像まで瞬間移動する。


星の神カプリコルヌスは山羊の風貌をしていて、アリエス神のように瞳が横長だ。スラリと伸びた長身に白いストレートの髪と顎髭、頭には山羊の角が2本生えている。アリエス神は執事然としていたのに対し、カプリコルヌス神は長剣を地に突き立て柄に両手を置いて立っていた。


武器を持っている星の神と持っていない神がいるみたいね。


私は神像の手に触れて魔力を込めた。金色の光が放たれたのを確認し、騒ぎの中瞬間移動で礼拝堂を出た。


朝食を済ませるとすぐに次のシュツェ領に向かおうと、預けていた馬を引き取り北門へ進んだ。シュタインボック公爵と関わらざるを得なくなってしまったのでこの領から一刻も早く出たかった。


街を出て、長閑(のどか)な草原を馬で駆けていると、前から(ほろ)馬車がやってきた。商人風情(ふぜい)の御者と、幌馬車の周りを護衛する強面の冒険者が8人。


私は道を開けて、幌馬車が通り過ぎるのを待った。


「ありがとうございます」


御者のおじさんがにこやかに私にお礼を言う。冒険者の8人は私を見てぎょっとし、「なんでこんなところにいるんだ?」と、ひそひそと仲間とやりとりしているのが聞こえた。


私は振り返り、なんとなく幌馬車の中を見た。中には大きな四角い木箱がいくつも積み重ねられていた。


しかも木箱一つひとつに見覚えのある魔道具が取り付けられていた。


あれは……魔力遮断の魔道具? なんであんなものが? ああ、魔獣の素材とか魔石を運ぶのに使っているのかしら。でも随分と量が多いのね。


私は疑問に思いながらも、商人は素材や魔石に残った魔力を遮断させて流通させているのかなと、特に気にせず再び北に馬を走らせた。


そして3日後の夕方、田園地帯を抜けシュツェ領の北西にあるアウストラリスという街に着いた。

次回は4/3(木)に投稿致します。

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― 新着の感想 ―
闘技大会で散々難儀な試合を乗り切ったばかりなのに、全国規模の神殿行脚… 幾ら美月が真面目っ子とはいえ、苦労しっぱなし!健気だしチート転生とはいえ、うっかり病気休みもできないなあ…その後は色々と報われて…
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