幕間(15)−3
俺が王立学院に入学する際、ヴェルソー公爵が俺のことを大々的に周知させたことで俺は有名人になってしまった。黒竜の化身、圧倒的な魔力、3属性、所有スキルのことまで、国中に知られた。
16歳のある時、俺の能力を聞きつけた当時の魔塔主が、俺を魔塔に遊びに来いと誘ってくれた。ハ◯ー・◯ッターのダン◯ル◯アみたいな結構な高齢のおじいさんで、魔法や薬、魔道具の知識に秀でていた。常に魔塔に引きこもっていたことから誘ってくれた時まで俺のことを知らなかったらしい。
学院にも家にも居場所がなかった俺は放課後毎日のように魔塔に行き、魔塔主の魔道具製作の手伝いやポーション精製の手伝いをしたりして過ごした。
魔塔主は中立派のヴァーゲ侯爵家の傘下の貴族で、俺のことを崇めもしなければ蔑みもしなかった。それに俺の魔法解析や魔法付与、生産スキルが大いに魔塔主の役に立って、やっと自分の居場所ができたように感じた。
学院を卒業したら俺は白い靄を探す旅に出ようと思っていたが、俺の魔法解析スキルがあれば自分で元の世界へ転移できる魔法を創り出せるかもしれないと、卒業後は魔塔に就職して研究者の道に進むことに決めた。公爵は俺を次期当主にしたがっているが、いつか日本に帰るつもりである俺は当主と領主という責任重大な地位につくつもりは毛頭なかった。
18歳の時、俺が1人で空間収納の魔道具を開発してそれが莫大な利益を産んだ。容量によって価格は変わるが、形は袋型やカバン型と様々だ。
空間魔法はあの白い靄のように世界を渡れる魔法の第一歩だった。歴史上今まで誰も創ることができなかった魔法だったため、その成果もあって、俺は魔塔主から次の魔塔主に指名された。魔塔主は高齢のためそろそろ隠居したいとのことだった。
魔塔は国の独立機関のため、魔塔主が次の魔塔主を任命するしきたりだった。
そして19歳の春、俺は正式に魔塔主に任命された。
それからはずっと公爵家に帰らず、前魔塔主から譲り受けた研究室を俺の家として引きこもった。擁護派や侵略派の鬱陶しい視線もシャットアウトした。仕事がしやすいよう部下も中立派を多く採用したりした。
転移魔法、界渡りの魔法の研究に並行して、俺は日本で身近にあった家電をヒントに次々と魔道具を生み出し、自分で銀月草を取りに行って体の欠損も治すエリクサーの精製に成功した。おかげで国民の生活が豊かになり国が潤い研究費も増した。
俺の功績が大きければ大きいほど、公爵たち擁護派貴族は喜ぶ。だが俺はそんなのは無視して、ここでの生活がより日本での生活に近づくために魔道具を作り続けた。全部自分のためだ。
20歳の時、俺は心のオアシスに出会った。
防衛大臣で国軍の総長であるジュード・ヴィエルジュ辺境伯。
彼が突然魔塔にやってきたとき、俺は神が舞い降りたと錯覚した。国王に会ったときは「おお、すげぇイケメン」ぐらいしか思わなかったのに、辺境伯を目にした時はこの世の人なのかと疑う程の最上級の美貌と強者独特のオーラを感じ、俺は言葉を失った。「イケメン」で括ってはいけない人だった。この人を目にした瞬間、俺の鬱屈した心に清らかな水が流れた。
辺境伯はあることを頼みたくて俺に会いに来た。それは魔獣の森の結界の解析と、ランデル山脈の中腹にある結界の解析だった。
ただ、魔塔は独立機関。辺境伯が総長を務める防衛省は近衛騎士団と王国騎士団を管轄していて、魔塔は管轄外だった。なので辺境伯は俺に業務命令をすることはできなかった。
国王を経由すると面倒な手続きが多くてとても時間がかかる。そのため辺境伯は防衛省に新たに「魔法師団」を作った。
この時まで実は魔法師団は存在せず、魔法師は皆魔塔に所属して魔法の研究や瘴気の研究、魔道具生産、ポーションなどの精製をしていたが、辺境伯が新たに「魔法師団」を作ったことで、魔塔に所属している研究職の魔法師と、派閥関係なく魔法師試験に突破した者で編成された戦闘に特化した魔法師が所属した。
俺は辺境伯に魔法師団長に任命され、魔塔主兼魔法師団長になり、辺境伯、いや、総長から頼まれた結界の解析という業務を遂行していった。また、どちらかというと研究者寄りだった俺は副団長を設け、戦闘技術のある中立派の上級魔法師アシュレイ·リード子爵にその任に着かせた。
洗濯乾燥の魔道具が、洗濯終了の音を鳴らした。
その音にビクッと体が反応する。
しまった。色々思い出していたら陽が傾き始めてしまった。シュタインボック公爵のことを陛下と総長に報告しに行かないと。
俺は急いでシャワーを浴び、公爵にもらった魔法薬で髪の色をメッシュ加工した。銀色かよって苦笑いが出たが、直している暇はない。洗ったばかりの黒いローブを羽織り、足早に魔塔を出て王宮に向かった。
次回は3/25(火)に投稿致します。




