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幕間(15)−2

13歳、中1の夏休み。俺は日本からこの世界に転移した。小学校からの友達とその家族と山へキャンプに行った時に。


当時俺は神隠しとか怪奇現象とか超常現象の類の話に興味があった。まさか自分がそれに遭遇するとは夢にも思わなかったが、現にこの世界に来てしまった。


山中で焚き火の薪を友達と手分けして探している最中に、好奇心に負けて木々の間に浮かんでいた白い(もや)と光の粒々に触れてしまったのがきっかけだ。クラスに異世界ファンタジーにハマっているヤツがいたので、あれが異世界転移だと後々理解した。


気づいたら知らない場所に俺はいた。見える光景が俺の住んでいた中途半端に田舎の景色とは全く違っていた。


昔の西洋のような建物が並び、服装も美術の教科書に乗っている西洋絵画の貴族のようで、馬車も行き交っていた。


周囲の大人に助けを求めようとしたが、彼らの俺を見る目はまるで神聖なものを見るような目だった。気味が悪く感じ、俺は逃げるように通りを走り回った。


疲労と焦りと不安と恐怖に苛まれながら彷徨っていると、1人の老人が声をかけてきた。俺の黒髪黒瞳を見て驚喜し、俺が迷子だとわかるとアクアリウスというどこかで聞いたことのある名前の神殿に連れて行かれ、そこで保護された。


当時はわからなかった。あの老人の驚喜した理由も、俺を見る周囲の敬虔な眼差しも、神官たちの手厚い保護も。


神殿に併設されている孤児院に入ってから、俺がどう見られているのかを知った。


俺が突然転移してきた場所は黒竜擁護派筆頭貴族が治めるヴェルソー公爵領だった。この黒髪と黒瞳は擁護派が崇める黒竜と同じ色ということで、まるで生き神のように扱われた。気味が悪く、鬱陶しいことこの上なかったが、もし転移した場所がシュタインボック領など黒竜侵略派の領だったらと思うと、この境遇はまだマシかもしれない。


知らない場所に1人で、両親に会えない寂しさや悲しみに暮れても、また白い靄が現れたら日本に帰れるかもしれないと望みを持ちながら、俺は読み書き計算を習った。不思議なことに転移した時からこの国の言語は理解できていた。日本語を喋っているのに相手にも通じていた。計算も日本と同じ10進法で安心したが、文字だけはたくさん練習しないと書けなかった。


孤児院での生活が1ヶ月程過ぎた時、神殿があるシトゥラという街を治めるロイスナー伯爵という人物が俺のことを聞きつけ、俺を引き取った。


5歳で誰もが受ける洗礼式とやらを俺が受けていないと知った伯爵は、アクアリウス神殿で洗礼式を受けさせた。


そこで初めて俺は「魔力」というものを自覚した。白い光が体中を巡っているのを感じた。転移の原因である白い靄に似ているのは気の所為か。


しかも俺は火属性、水属性、風属性という3つの属性を持っていることや、魔法解析スキル、魔法付与スキル、無詠唱スキル、状態異常無効スキル、身体強化スキル、鑑定スキル、生産スキルを持っていることも判明した。貴族に引き取られたとはいえ、俺は一般人だ。一般人にあるまじき魔力量の多さと属性の多さとスキルの多さにアクアリウス神殿の大神官と伯爵は絶句した。特にスキルの多さに目を剥いていた。1人例外はいるが貴族でもスキルは多くて2つらしい。俺が2人目の例外になってしまった。


その2ヶ月後、俺の見た目と将来性に目をつけたヴェルソー領の領主であるヴェルソー公爵が後継者として俺を養子にした。


公爵たち擁護派が崇める黒竜と同じ色を持ち、友達の言う「チートスキル」を持つ俺をまるで新興宗教の教祖のように扱い始めた。擁護派が集まるパーティーに出席させられ、そこでは俺は見世物だった。


俺にとっては鬱陶しくて気持ちが悪い扱いも、公爵の娘2人には特別扱いに見えたらしい。俺より5つ年上の「姉」は自分が次期公爵になると思っていたので俺に嫉妬し、2つ年上のもう1人の「姉」と一緒に人目を盗んで俺をいじめた。暴力よりも暴言が多く、毎日のように嫌がらせをされた。


豊富な魔力で威圧してやり返していたが、俺は異世界ファンタジーというものに疎かったため、自分の力が無双できる程強力なものと認識しておらず、使い方もよくわからなかったので魔力で威圧することしかできなかった。


豪華な食事、部屋、教育。何不自由ない生活でも、公爵家での生活はとても窮屈で居心地が悪かった。早く元の世界に帰りたいと毎日願った。だが何度か外に出て探し回っても、白い靄は全然見つけられなかった。


両親と友達に二度と会えないかもしれない悲壮感と絶望感と、周囲に崇められる生活に嫌気が差し、俺はグレた。公爵のことを「父」とも、夫人のことを「母」とも呼ばず、「姉」2人は視界にも入れなかった。


15歳になって俺は王立学院に入れられた。いつか公爵家を出て白い靄を探す旅に出ようと考えていた俺はこの世界のことを知るために勉学は頑張っていた。そのせいでSクラスという胸糞悪いクラスに入ってしまったが。


クラスの半分以上が侵略派の貴族だった。擁護派と対象的に、俺に憎らしげな目を向けてきた。俺を「魔獣」と呼んでいる者もいた。擁護派の貴族連中は頼んでもいないのに侵略派貴族から俺を守るように常に周りにいた。どちらも鬱陶しいことこの上なく何度もサボりたいと思っていたが、心の弱いヤツと思われたくなくて授業だけは真面目に受けていた。


鬱屈した毎日。何もかも鬱陶しかった。


だから俺をこんな状況に陥らせた元凶である黒い髪を魔法薬で奇抜な色に染め始めた。瞳まで変えなかったのは、自分が日本人であることと、家族を忘れないためだった。


人と関わりたくなくて、授業以外は学院の中でも外でも1人になれる場所で過ごす日々。


そんな状況も、16歳の時に変化が訪れた。

2話続けて投稿致します。

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