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96.闘技大会(13)ー魔法ー

「あークソ、負けたぁ……」


泥まみれの顔と、かすれ気味の疲れた声でそう言いながら、遠慮も何もなく水たまりがある私の隣にべちゃっと腰を下ろした。リード副団長が焦った声で「ああっ、ちょっと!」とずり落ちる魔法師団長の腕を掴んでいる。


「アシュレイ、俺はまだしばらく動けない。閉会式なんてすぐできない」


「あー、閉会式はたぶん遅れると思います。褒美の品は一応持ってきてはいるんですけど、私達、まさか団長が負けるとは思っていなかったので全然準備ができていないんですよ、ははは」


「ははは」


魔法師団長が乾いた笑い声を上げる。


「準備ができたら音楽を鳴らせますから、それまで休んでてください。あ、そうだ」


リード副団長が青いローブの中から小瓶を1つ取り出した。


「洗浄の魔道具です。ミヅキさんも良かったら使ってください。ご自身でやれるかもしれませんが、もう魔力を使いたくないでしょう。いやぁ、団長を負かすなんて俄に信じられませんが、キメラやSランク魔獣を1人で倒せるミヅキさんなら、十分あり得ることでしたね。では私は準備に向かいますのでこれで」


リード副団長が青い魔石が付いた小瓶を魔法師団長に渡すと、南側の王族がいる方へ向かった。その途中で修繕の魔道具が作動し、崩れた土の山や半壊した岩、水たまりと所々あった泥が綺麗さっぱりなくなり、元の平らな砂地になった。


「顔が泥で汚れたのは俺の方だったな」


そう言いながら魔法師団長が洗浄の魔道具を自身に振りかけ身綺麗にする。黒い髪に不自然に彩っていた緑のメッシュがなくなり、烏の濡れ羽色のような漆黒の髪がさらさらとそよ風になびいた。


黒髪、黒い瞳……


懐かしさが溢れて思わずじっと見てしまった。


それに気づいた魔法師団長は怪訝そうな顔をした後、小瓶を私にも振りかけてくれた。じっと見ていたのが催促と思われたっぽい。私は恐縮しながらお礼を言った。


洗浄の魔道具のおかげで、汚れた服や顔や髪など全身が清潔になった。この魔道具は冒険者や騎士に重宝されていて、魔道具店で確か15銀貨で販売されているので手に入りやすい。


「はぁ、また染めなきゃな」


黒い髪を一房掴んで言う。


そういえばどうして毎回髪を染めているのかしら。擁護派の公爵への反発なら瞳も変えれば良いのにと思うけど。聞いて良いのかダメなのかよくわからないわ。


「そういや君さ、俺より魔力多くないか? それ元から?」


「……いえ、増やしました」


「増やしたって……まさか魔力圧縮で?」


「? そうですね。あとは高ランクの魔獣を討伐したりして」


魔法師団長が黒い瞳を丸くした。


「君は魔力圧縮ができるのか。あれって俺とヴィエルジュ家の人しかできる人がいなかったんだけど」


「えっ、そうなん、ですね……」


声がどんどんしぼんでいった。


やばい、幼い頃お父様に教わったんだけど……ミヅキとヴィエルジュ家に接点があると思われていないかしら……


「まぁ、魔力遮断ができるなら圧縮もできるか……ん? そういえばあの時……」


不意に魔法師団長が私の背後に目を向けた。


「って、うわぁ、総長戻ってきてんじゃん! 負けたとこ見られたよな絶対」


魔法師団長が髪をクシャッとしながらうなだれる。私も振り返って東の2階席を見ると、確かにお父様が戻ってきていた。2号はもちろんいない。てかお兄様の隣にアンリとリリアが本当にいた。


「ちょっと負けた言い訳をさせてもらうと、俺前日まで2徹だったんだ。まぁ君と対戦することは1ヶ月くらい前から決まっていたことだったから予定を管理しなかった俺が悪いんだけど」


ため息をつく魔法師団長に顔を戻す。


はぁ、そうですか、でも負けは負けですよ。


「言い訳は格好悪いな。俺の慢心が招いた結果だ」


少し笑って肩を落とした後、もう一度私の背後に目をやった。


「あれ、ディアナ嬢がいないな……」


……ん?


どうして魔法師団長が「ディアナ」を気にするのかしら。


「君はディアナ嬢を見たことある?」


「え……い、いえ、ないです」


心臓がバクバクする。


急に何の話よ……


「滅多に姿を見せないしな。俺はこの間の殿下のパーティーで初めて見たんだけど、総長にそっくりでめちゃくちゃ美人だった。総長の女版みたいな」


「……そうなんですか」


「あまり興味なさそうだな。殿下もご執心の噂があるのに。俺は別のことで気になるけど」


最後の方は声が小さすぎてよく聞こえなかった。


でも殿下が執心? そんな噂が……? どうしよう……


脳裏にリリアの顔と、お茶会で殿下に言われた言葉が過った。


お父様は殿下からの詮索はなくなるって言っていたけど……でもちょうど良い機会かもしれない。これが終わったら私は領地に帰る。婿養子を取るという話だし、しばらく殿下から離れれば、噂は下火になるはず。


管楽器の音が会場中に鳴り響いた。閉会式の準備ができたらしい。


「よっこらせっと」


魔法師団長が立ち上がり、腰に手を当てて伸びをした。


私も座ったままストレッチをした後、軽く屈伸をして立ち上がった。だいぶ動けるようになったし、気持ちを切り替えて閉会式に臨もうと思った。

次回は3/14(金)に投稿致します。

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