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95.闘技大会(12)ー魔法ー

私の真上に大きな緑色の魔法陣が浮かんでいる。


魔法陣の大きさは消費魔力値の多さに比例するんだけど、あの魔法陣は上級魔法の中でも一番の大きさだ。


まさか雷魔法!? 残りの魔力ほとんど使って!? え、でも踏ん張るって何? いやそんなことより!


私はすぐに『大地の守護(テラトゥテラリ)』で岩の屋根を作った。


すると、上空の緑色の魔法陣から強風が地面に向かって吹き荒れ始めた。空気もひんやりと冷たい。湿度も増した気がした。


あれ、雷魔法じゃない? 何この魔法……風属性にこんな魔法あったかしら。


そして強風が地面に衝突すると同時に四方に風圧が広がった。泥水が勢いよく波打ち私の方向に跳ね、屋根を支えている岩にべちゃべちゃと飛び散る。


そしてものすごい突風が襲ってきた。


ドーンッ!!!


衝撃と同時に岩が崩れるのがわかった。避けながら、でも風に体が飛ばされないよう倒れた岩になんとかしがみついた。


冷たい強風が吹き荒れる。観客の声援も掻き消える程の轟音だ。


倒れた支柱の岩に掴まりながら周りを見る。


うそでしょ……


岩の屋根は吹き飛び、2つの支柱の岩も崩れ泥まみれになっていた。


両膝をついて地面を踏ん張る。でも自分で出した泥のせいで滑ってなかなか踏ん張れない。「頑張って踏ん張れ」って、こういうこと?


半壊した岩に掴まりながら向かい風の強風に襲われ続ける。髪が後ろに持ってかれ、目を開けるのもやっとだ。


くっ、すごい風圧だわ。この岩も徐々に押されていっている。でもこの現象、どこかで……


ひんやりとした冷たい風で両手がかじかむ。しかも泥に(まみ)れた岩のせいで手が滑るのだ。


まずい……! このままこれが続いたら手が離れて場外になっちゃう!


この魔法の影響を受けているのは私だけ。闘技場は防御壁で覆われているため観客に影響はない。そして術者の魔法師団長は魔法範囲外にいる。でもこの魔法の消費魔力が高いからか苦悶の表情を浮かべていた。そろそろ魔力切れが近づいているのかもしれない。


私の場外が先か、魔法師団長の魔力切れが先か。でも……


風圧で岩が押され続け、手が離れればたちまち場外。一か八か残りの魔力でこの魔法の威力を押し返せる程の魔法を使った方が勝機が見える気がする。けど問題は今両手が使えないことだ。手を使わずに魔法を出さないと……


魔力操作は昔から得意だ。手ではなく、全身に魔力を張り巡らせることに集中した。


向かい風だから火属性は使えない。土属性は防御向き。ならば水属性で……


全身が熱を持った。勢いよく魔力が循環している。


目の前に大きな青い魔法陣が現れた。魔法師団長の出した緑色の魔法陣よりも大きい。青く煌々と光を放ち、私はその光の奥にいる相手を見据えた。


大量の汗を流す魔法師団長が小さく笑った。


深海(アビス)


青い魔法陣から大量の碧い海の水が轟音を立てながら勢いよく流れた。


風圧には水圧で。この魔法の風速がおよそ70mくらいだから、私は水深1000mの水圧で対抗する。


大量の海の水が泥と風を飲み込み、汚泥となって魔法師団長に襲いかかる。魔法師団長は白い魔法陣を出した。


魔法師団長が苦しげに耐える。残り少ない魔力での防御魔法だからか、100kg/1平方cmの水圧に押され、白い魔法陣がピキピキと音を立てヒビが入っていく。


そしてそう時間がかからない内に魔法陣がパリンッとお皿が割れたような音を立てて崩れ去った。魔法師団長はそのまま勢いよく背後の場外へ飛ばされていった。


ドスッと地面に落ちる音を聞き、私は魔法を解いた。


水流の轟音も、強風の音もなくなったのに、場内はとても静かだった。


はぁ、はぁ、はぁ……


自分の息切れの音と、心臓のバクバク音しか聞こえない。


変身が解けないくらいの魔力は残っているけど、疲れすぎて私は水たまりにバシャンと座り込んだ。泥は水流によってほとんど流されていた。


はぁ、はぁ、誰か早く、ポーションください……


審判のリード副団長が、場外に落ちた魔法師団長に駆け寄るのが、俯いた自分の前髪越しに見えた。


「ヴェ、ヴェルソー魔法師団長、場外! よって勝者は、Sランク魔法使いのミヅキ!」


リード副団長の高らかな宣言がなされた瞬間、地響きのような歓声が上がった。


あー、はは……勝ったわ……良かった……お父様、お母様、お兄様、私やりました……これで防御魔法のペンダントが手に入る……


バシャバシャと、水音を立てた足音が近づいてきた。


「MPポーションとHPポーションです。どうぞ」


お礼は後に、私は運営の人から差し出されたMPポーションを取り、ゴクゴクと勢いよく飲み干した。その後すぐHPポーションを一気飲みする。


ぷはっとビンから唇を離し、そのまま水たまりにパシャンと寝転んだ。ちょっと冷たいけどお構いなし。


あー、めちゃくちゃ疲れた……


「お、おめでとうございます。でもあの、この後閉会式が……」


ちょっと困り顔の運営の男性を薄目で見上げる。


「……すみません、ちょっとまだ動けないです……」


まだ動きたくないよ……


「そうですか……一応もう1本、MPポーション渡しておきますね」


「あ……ありがとう、ございます。あの、魔法師団長は大丈夫ですか?」


「今リード副団長が肩に抱えてこちらの方に来てます。では私は闘技場の修繕の魔道具を作動させてきますので、これで」


運営の男性はそう言ってパタパタと闘技場の端の方に駆けて行った。


私は少し起き上がって、手渡されたMPポーションをまた飲んだ。


ふう、ちょっとマシになったわ。


後ろ手をついて陽が傾いた空を仰いでいると、リード副団長に抱えられた魔法師団長が近づいてくるのが横目に見えた。

一部修正を致しました。

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