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94.闘技大会(11)―魔法

シュー、という音と共に私の足元を残して半径10m程の周囲の地面が灼熱のマグマに変わった。ゴポゴポと赤と橙の炎が沸騰し、私の出した岩の壁が熱せられる。


熱っ! 岩から離れないと蒸される! ミヅキは風属性を使っちゃいけないから10mなんて距離、身体強化なしじゃ飛び移れない。足元だけ地面を残すとかちょっとやることが鬼畜っぽいわ。


私は『煉獄(ゲヘナ)』を消そうと土属性と水属性で泥水を作ろうとした時、上空から『風乱刃(ヴェントゥス)』が襲いかかってきた。


げっ!


大地の欠片(テラフランメント)


直ぐ様魔法を切り替え、数個の岩の塊を無数の剣の風にぶつけ上からの攻撃を防ぐ。そして、


大地の目覚め(テラエラ)』!


熱いマグマと熱い岩の壁から逃れるためと、自分の攻撃を上空にいる魔法師団長に届かせるために、自分の足元の地面を10m上へ隆起させた。泥は一旦やめて、魔法師団長の魔力切れ狙いに専念する。


その後私はすぐに闘技場の残りの地面を『煉獄(ゲヘナ)』でマグマに変えた。リード副団長が場外に逃げるのを横目で確認できた。


これで魔法師団長は着地できない。マグマを消さない限り、飛び続けたままだ。私も立っている地面の幅が1mもないから落ちないようにしないとだけど。


会場から「おおお〜っ」と歓声が上がる。


魔法師団長の顔から、余裕の色が消えた。


まだ魔力は半分ちょいある。でも念の為に――


無数の風の刃が飛んできたので再び『大地の守護(テラトゥテラリ)』で防ぎながら、観客席にいる2号に念話をした。


〈2号! 2号!〉


〈〈はいはい、どうかした?〉〉


〈分身魔法を解きたいから、具合が悪くなったとでも言って家に帰ったフリってできる? 魔力を残しておきたくて〉


〈〈そうしてあげたいんだけど、アンリとリリアがこっち来て一緒に観ているのよね。私だけ抜けられるかな〉〉


どうしてそうなった!?


困惑していたら、岩の壁が轟音を立てて崩れ、その衝撃で私は後ろに下がり、あと1歩で落ちるところだった。何事かと思ったら、ミサイル程の大きな氷が岩の壁を破壊したようだった。


魔法師団長を見ると、あとちょっとだったのに、みたいな残念そうな顔をしていた。私をマグマに落とそうとしていることがわかった。


2号のことを考えている場合じゃなかった。


〈と、とりあえず、お父様に指示を仰いで!〉


〈〈おっけー!〉〉


2号の私って、なんでちょっと軽いのかしら。


私はまた『大地の守護(テラトゥテラリ)』を出し、魔法師団長が繰り出す魔法を防御していく。


飛び回りながら縦横無尽に攻撃してくるので、岩の壁を盾にして私も魔法で迎え撃っていく。


お互い攻撃魔法と防御魔法を駆使し、しばらく攻防が続いている間、2号から念話が届いた。


〈〈お父様が連れ出してくれたよ。安全な場所に着いたら分身を解くね〉〉


〈わかった!〉


瞬間、魔法師団長が私の方に飛んできた。


「……っ!」


私は咄嗟に『蒼焔(アスール)』を連発した。


魔法師団長は白い防御魔法の魔法陣で蒼い炎を防ぎながら、至近距離で岩の壁を魔法で破壊し、衝撃をガードしていた私の腕を掴んできた。


え……


そのまま上空へ持ち上げられ、私が足場にしていた場所から離される。


ちょちょちょっ……!


20m程上空で片腕を掴まれ、ぶら下がった。


まさかこのまま落とすつもり……?


こめかみから流れた汗が雫となり、マグマの中に吸い込まれるように落ちた。


観客たち――主に女性たちの短い悲鳴が聞こえる。


「落として良い?」


「……」


……パーティーで会った時と雰囲気が全然違うんだけど、あのワンコ系は一体どこへ……?


「5、4、3……」


なんかカウントし出した。


「2……1……」


魔法師団長が私を見下ろして、本当にやるよ? みたいな顔をした。


あ、2号への魔力供給がなくなった!


私は顔色を変えずに魔法師団長を見据える。炎に照らされて漆黒の瞳に橙の光が混じっていて、とても綺麗だった。


そしてしばらく私の目を見つめ、「0」と言って私の腕を離した。


宙に放り出される感覚がする。背中からマグマに向かって落ちていく。周りから悲鳴が聞こえた。


大地の手(テラウィーティス)』!


崩れかけの土の側面に向かって魔法を放つと、緑の葉が茂った長くて太い木の枝が数本生えた。


生い茂った葉を足場にして落ち、ぱっと起き上がった瞬間、魔法師団長が『風乱刃(ヴェントゥス)』で木の枝をザクッと切り落とした。


だよね、そうするよねと思いながら再びマグマに向かって脚から落ちる。


大地の守護(テラトゥテラリ)』でマグマを防いでも、岩がマグマで熱せられて熱い。今水竜のマントを着ていないから、やっぱマグマを消すしかないか。はぁ、半分以上自分で出したから、出し損に終わったわ。てか魔法師団長、これが狙いだった?


コンマ数秒で思考を巡らせ、私は地面に向かって両手を出し、水魔法と土魔法で大量の泥の海をマグマに流した。


マグマがシューッと音を立てながら泥水によって徐々に消えていく。


花びらの舞(フロスアーダ)


色とりどりの花びらが落ちていく私を覆い、落下を緩やかにさせる。この魔法は土属性魔法で、風属性の『浮遊(フラタール)』と違って飛ぶ魔法ではなく、速度を緩めたり和らげたりする魔法だ。


ビチャっとブーツに泥が飛ぶ。着地と同時に花びらが消えた。


ずっと飛んでいた魔法師団長も泥の地面に降りてきた。


「氷魔法を使ってもらおうと思ったのに。君のおかげで俺の魔力はもう半分もない」


ハッタリ? それとも……


私はまだ半分くらい残っている。でも、変身魔法の分の魔力を残しておかないと変身が解けて「ディアナ」になってしまう。それだけは何としても避けたい。だから私も使える魔力はもう半分もない。


1発大きな魔法で場外もしくは戦闘不能にさせるか、それとも今までのように考えながら魔法を使っていくか……


魔法師団長の息を吐く音が聞こえた。


「キレイな顔に泥がつくけど、頑張って踏ん張ってくれ」


そう不敵に言いながら魔法師団長は右手を上空に突き出し、一際大きな緑色の魔法陣を展開させた。

次回は3/10(月)に投稿致します。

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