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93.闘技大会(10)―魔法―

ファンファーレと歓声が鳴り響く中、地面を踏みしめ王族の前まで歩いていく。少し冷たい風が頬を撫でた。


向かいから黒髪に緑のメッシュを入れた魔法師団長が、漆黒の瞳で私を見据えながら静かに歩いてくる。昨日とメッシュの色が変わっていた。


殿下のパーティーで会った時もそうだったけど、魔法師団長も普段は魔力を遮断しているのね。


お互い闘技場の中央で立ち止まり、王族の方へ向く。


王族と目を合わせないように視線を下に向ける。でも上からの視線の雨が私に降り注いでいるのが感覚でわかった。


「これより、魔塔主であり魔法師団長であるヴェルソー小公爵と、史上初のSランク魔法使いであるミヅキ殿の特別試合を開催致します」


運営の男性が拡声の魔道具で朗々と告げると、会場中が拍手と歓声に沸いた。


程よい緊張の中王族に一礼した後、魔法師団長に再度向き直りお互い一礼する。


顔を見合わせた時、魔法師団長が目を瞠った。何か言いたげな表情もしている。


? どうしたのかしら。


魔法師団長は口を噤み、そして笑みを浮かべた。


「詠唱しながらどうやって一人で魔獣と戦っているんだろうって思っていたが、まさか君も無詠唱スキルを持っていたとは」


「……」


……正しくは「魔法創造スキル」だけど、それがカモフラージュになるならそれで良いわ。


「お互いそのスキルを使うことになるが、身分など気にせず存分に戦おう」


「……よろしくお願いします」


お父様が剣士の最高峰なら、魔法師団長は魔法師の最高峰だ。制限された中で全力を出さないと勝てない相手。もしかしたら同郷の人かもしれないけど、今はそんなことは考えずに勝つことだけを考えよう。


魔法師団長は最強の証である黒色のローブを翻し、所定の位置に向かっていった。私も踵を返し、魔法師団長から30m程離れた位置についた。


「準備はよろしいですか?」


審判の位置にリード副団長が立っている。


私は一度深く呼吸をし、遮断していた魔力を全て解放した。


自分を中心に魔力の圧が波紋状に広がる。闘技場の周囲に張られた防御壁が揺らぎ、白い火花がバチバチと鳴り出す。その異様な光景に会場中がどよめいた。


魔法師団長も驚いた顔をした後、自身の魔力も解放した。お互いの魔力の波がぶつかり、空気が勢いよく乱れ流れ、ローブと髪を巻き上げる。防御壁のノイズも激しくなった。


やっぱり魔力量はそんなに変わらないということね。


審判のリード副団長は、私達の魔力の圧に押しつぶされそうになるのを耐えながら片手を上げる。


「そ、それでは……はじめ!」


大地の口(テラオース)


開始の合図と共に土属性魔法を放つ。


魔法師団長を中心に半径5m程の平らな地面が、まるで蟻地獄のように変化した。魔法師団長の脚が地面に飲み込まれていく。


中心に飲み込まれないように、魔法師団長は『風圧(アネモス)』を使い飛んでは着地を繰り返して砂の渦から逃れようとしている。焦りの表情は見られない。


合図と一緒にあっちも何か攻撃してくると思ったけど……


瞬間、自身の周囲に影が落ちた。


ぱっと見上げると、いくつものスイカくらいの大きさの氷の塊が私目掛けて降ってきた。


いつの間に……!


さっと連続で飛び退いて氷の塊を回避する。


回避行動をとったため砂の渦が止まった。


その隙に魔法師団長は2つ同時に魔法陣を出し、『火炎(イグニス)』と『風剣(グラディウス)』を同時に、そして連続で攻撃してきた。


縦横無尽に走りながら回避し続ける。魔力を温存したいのでまだ避けられる内は魔法は使わないでおきたい。


身体強化が使えない中連続で攻撃してくるので、避けるのに集中力がいった。


私の体力を削る算段かしら。なら次は威力の高い攻撃に変えるはず。


その1分後、魔法が変わった。『氷の矢(グラスペイル)』と『風乱刃(ヴェントゥス)』と、一気に上級魔法の連続攻撃だ。


これは無理ね……


私は立ち止まり、向かってくる魔法に右手を出した。


大地の守護(テラトゥテラリ)


大きな岩の壁が、私を隠すように目の前に現れる。


ガンッ! カキンカキンカキンッ! と『氷の矢』と『風乱刃』を防御した。


岩に身を隠しながら、私はすぐに攻撃に転じた。


蒼焔(アスール)


無数の蒼い炎が魔法師団長の周囲に展開される。途端に一般席からの歓声が大きくなった。


迫る無数の蒼い炎に魔法師団長は防御魔法を使った。


白い魔法陣の盾が魔法師団長の周りにいくつも現れ、無数の蒼い炎を遮る。


私は目を瞠った。


白い魔法陣……! 属性外の魔法陣には己の魔力の色が現れる。なら彼の魔力の色は白ということ。珍しいのかどうかはわからないけど、今はそんなこと考えている場合じゃないわね。


再び『蒼焔』を放つ。今度は一体の蒼い炎の龍のような形で魔法師団長を攻撃する。


白い防御魔法で『蒼焔』が止められる。でも蒼い龍の威力は落ちず、そのまま防御魔法の盾ごと魔法師団長を後ろに徐々に押していった。


「おぉっ、落とすつもりか!?」


「『蒼焔のミヅキ』は場外狙いか!」


観客からそんな声が届く。


魔法師団長が背後を気にする素振りをする。でもまだ余裕がありそうな顔だった。


魔法師団長が防御魔法を発動させたまま、もう一つの手から電流を放った。


消費魔力を抑えた雷魔法だ。琥珀色の光の線が私に向かう。


大地の欠片(テラフランメント)


岩の塊を複数放ち、電流を無効にしていく。


そして私は岩の壁に隠れ、『蒼焔(アスール)』よりも上の魔法、『白焔(アルブス)』を出した。白く光る炎が蒼い龍に交わり威力を強めた。


魔法師団長は両手で防御魔法を使わざるを得なくなり、足をふんばって蒼と白の炎を堪える。


思わず口角が上がる。


氷の息吹(ヒュノスティエラ)


地面を踏ん張っている魔法師団長の足元に青い魔法陣が広がり、氷が張られた道が場外に向かって現れた。


魔法師団長は踏ん張れず、氷の上を場外に向かって滑っていく。


そして舌打ちをしながら風属性の上級魔法『浮遊(フラタール)』を使って上空に飛び上がった。


ふふ、よし!


『浮遊』は風属性の中で雷魔法の次に魔力の消費が激しい魔法だ。『浮遊』を使うだけで魔力がどんどんなくなっていく。


『浮遊』を常に使わせる状況にもっていけば、魔力切れで力尽きるはず……!


私は『白焔(アルブス)』を消し、『蒼焔』の龍を上空にいる魔法師団長に向ける。飛び回って逃げていくのを龍が追尾する。


そうして逃げ回りながら、魔法師団長は私の周りの地面に向かって赤い魔法陣を出した。

次回は3/6(木)に投稿致します。

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