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87.闘技大会(4)―剣術―

『ユアン殿下対Sランク剣士ディーノ』


モニターにどーんとその文字が映し出され、観客が一斉に雄叫びを上げた。貴族席では主に令嬢たちが前のめりで声援を送っている。


ふと南側に近い東側の観覧席にいるベリエ公爵家を見ると、リリアが祈るような姿で闘技場に入場した殿下を見下ろしていた。隣に座るアンリはいつものように取り澄ました顔だ。まぁアンリは応援に熱を入れるタイプではないわね。


するとアンリがこちらに目を向けた。目が合うとは思わなかったけど、合ってしまったのでとりあえず軽くお辞儀をする。


するとアンリは座席に立て掛けていた剣を少し持ち上げ、柄についた飾り房を私に見せるようにした。


あ、つけてくれているんだ。


でも私の髪にはアンリに買ってもらった銀細工の髪飾りはついていない。王家や貴族が集まる場所には私は「スキル無効」と「魔力隠蔽」の魔道具を身につける必要があるため、金色の装飾品にはあの銀細工の髪飾りは合わないのだ。ちょっと申し訳ない。


私は「つけてくれてありがとう」という意味を込めて笑みを浮かべて頷き、再び闘技場に顔を戻した。


殿下とディーノさんが向かい合い、審判のファビウス団長が試合開始の合図をする。


ディーノさんが1回戦の時のようにまた果敢に攻めていく。肝が座っているのか、優勝を狙っているのか、相手がこの国の王子でも遠慮も何もないようだ。


殿下は既に身体強化スキルを発動して、ディーノさんのアクロバティックな攻撃を剣で受け流したり躱したりしている。


殿下のスキルは身体強化以外だと魔力増幅だ。このスキルは相手の魔力も増幅させてしまうので使えない。


殿下がディーノさんから離れた。魔力を帯びた剣圧を放つ動作をする。剣圧を放つには少し「溜め」が必要なのだ。


そこでディーノさんがとうとうスキルを使った。殿下と同じ身体強化だ。一瞬で殿下の間合いに入り込む。


はっとした殿下は瞬時に「溜め」を止め、脚力を強化し上空に飛び上がった。ディーノさんも追いかけるように飛び上がる。その衝撃で地面の砂が舞った。


上空で剣と剣が交差する。力はディーノさんの方が強く、殿下は押し返される。


けれど殿下はその反動を利用して後方にわざと引き、長い脚でディーノさんの剣のガード部分を押した。


2人が地面に着地する。お互いの距離は5,6m。


いつの間にか場内は静かになっている。観客は息をするのも忘れ、戦いに見入っていた。


まさか殿下がここまでやれるとは思わなかったわ。護衛に守られているだけの王子ではないということか。


でも殿下の体力は限界に近づいているようだった。汗と息切れが激しい。試合の途中でHPポーションやMPポーションを飲むことはルール上できない。対してディーノさんは汗は出ているものの、あまり疲労は見られなかった。本当に体力オバケだ。噂によると4年前の冒険者登録時の体力値が4万だったらしいから今はたぶんもっと上よね。


殿下のアメジストの瞳に力が入った。


殿下は素早く連続で数回剣圧を飛ばした。「溜め」は少ないけど連発することで相手を撹乱できる。


剣圧を飛ばした後すぐに殿下は身体強化を使い、ディーノさんの間合いに詰めていった。


ディーノさんは剣圧の連続攻撃を避ける。


でも読んでいたのか懐に迫った殿下の剣を身体強化で受け流し、そのまま弾き飛ばした。その流れるような動作に思わず感嘆してしまった。


殿下の剣がカランと金属音を奏でて転がった。


「そこまで! 勝者、ディーノ!」


静寂から一気に地響きのような歓声が上がった。同時に拍手も沸き起こる。


汗を流している殿下が「ふう」と息を吐きながら胸当てを外す。そして自身の白金の前髪をかき上げ、シャツの胸元のボタンを外しながら息を整えている様子が大画面に映り、令嬢たちがバッタバッタと崩れ落ちていった。


何これ、面白いんだけど。そうだ、リリアは……


ベリエ公爵家の席にいるリリアに目を向けると、扇で顔を覆って悶え震えていた。


ふふ、やっぱりそうなってた。まぁ確かに色気が爆発していたからそうなる気持ちもわかる。私も鍛錬で汗を流すお父様を見て何度悶えたことか。


モニターをもう一度見る。ディーノさんは殿下と握手をしていた。戦闘時と打って変わって恐縮している。


握手の後殿下は袖で汗を拭い、観客に笑顔で手を振りながら退場していった。


殿下は負けちゃったけど、Sランク相手に健闘した戦いを見せたため貴族たちからも喝采を浴びていた。


わぁ、決勝戦はお兄様とディーノさんかぁ……うぅ、強敵すぎるよ。お兄様、なんとか頑張って……! 


この後は決勝戦まで2時間のお昼休憩となる。ご飯を済ませないとなので、観客たちは皆席を立ち始めている。


「いやぁ、やばかったっすね。あれでまだ19歳でしょう? はは、俺たぶん勝てないかも」


「なんだ、ハインにしては随分と弱気だな」


苦笑いを浮かべているハインをレイヴン団長がからかうように言う。


「いやだって体力無尽蔵すぎません? 絶対騎士の平均体力値の3倍以上あるでしょ。ムリムリ」


「俺は総長と戦ったらどうなるか見てみたいですね」


イヴァンの言葉に団長を除いてここにいるヴィエルジュ騎士団全員が頷いた。皆の視線がお父様に向く。


「確かに見てみたいですね。俺らの総長が勝つでしょうけど」


「あの剣士はまだ本気を出していないようだけど、総長が勝つでしょうね」


口々に団員たちがお父様の勝利だと言う。当のお父様は何も言わずスッと立ち上がった。


「良いからお前らはさっさと交代で飯を食いに行け」


団長の一声で団員たちは私達家族に付いて行く者とご飯を食べに行く者に分かれた。


私達家族3人は護衛に団長やハイン、レイ達を連れ(イヴァンは他の団員のお守りで別グループ)、城下でも格式が高いレストランで食事を摂った。目立つことこの上なかった。

次回は2/18(火)に投稿致します。

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