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86.闘技大会(3)―剣術―

次戦は王国第2騎士団所属の騎士と学院の騎士科の3年生だった。


強い者が集まりやすいのは王都を守護する第1騎士団だけど、選抜試合で見事出場権を勝ち取ったのは国の東部――レーヴェ、クレブス、シュティア、へミニス領を守護する第2騎士団の第1部隊長らしい。目録によると、名前はサイモン、庶民の出でまだ23歳。実力の認められた者は身分関係なく重用されるから、かなりの実力者と見て良いわね。


対するのは騎士科の3年生でシュツェ侯爵家傘下の貴族だ。学院生の出場権は3枠のみで、そこに入れるとなるとこの人も実力は折り紙付きだろう。


結果はサイモンの勝利だった。中々良い勝負だったけど、サイモンが学院生に合わせていたように見えた。貴族相手に遊ぶなんて肝が座っているわね。


これで2回戦目のお兄様の相手がサイモンに決まった。


その次はユアン殿下の試合だった。殿下は第1騎士団所属の相手に見事勝利をおさめた。その相手とはヴィンス・クレブス、19歳。領主貴族のクレブス辺境伯家の三男だ。殿下と戦うなんて心底やりにくかったに違いない。まだ若いし。


そして1回戦最後の対戦は近衛騎士のリュシアン・レーヴェとSランク剣士ディーノだ。


闘技場に2人が登場した途端、一般客の声援が高まった。一般席には冒険者も多くいるから、そりゃ応援に熱が入るわよね。


ディーノさんが戦うところを見るのは初めてだから、どんな風に戦うのかすごく興味がある。


開始直後から、ディーノさんは果敢に攻めていった。アクロバティックに繰り出す剣技はディーノさん独自のものなのか、リュシアンは対応に苦戦している。


でも押され気味だったリュシアンが反撃に出た。攻撃力が増したように感じ、ディーノさんも顔色が変わった。変わったといっても無表情から「面白い」みたいなニヤリ顔だ。


急にリュシアンの攻撃が通るようになったのは、何かのスキルかしら。攻撃力上昇とか?


よく考えたらこの大会って今まで秘密にしていたスキルがバレる大会でもあるわよね。まぁ秘密にしたい人が秘密にするようになっているだけで、スキルをオープンにしている人なんて割といるから問題ないのかな。お兄様も殿下も隠していないし。出し惜しみしていたら勝てないくらいにレベルの高い人たちが出ているから使わざるを得ないか。


ディーノさんの息もつかせない攻撃のせいで、リュシアンの硬質的な顔が歪んでいく。逆にディーノさんはまだまだ余裕がありそう。あんなに攻撃しまくって疲れないんだろうか。


それから3分後、どうにか持ち堪えていたリュシアンだったけど、体力の限界が来たのか剣が後方に飛ばされてしまった。


「勝者、ディーノ!」


ワァァァァァッと歓声が空を突き破るくらいに上がった。


「体力バケモンだな。さすがSランク、剛剣のディーノだ」


後ろからハインの笑い混じりの称賛が聞こえた。ディーノさんも「剛剣のディーノ」って二つ名があるのね。


「あいつ、何かスキル使ってました?」


「いや、使ってないな」


ハインの問いに団長が応えた。


「げぇ」


私も内心「げぇ」だ。万が一黒竜のことでバチバチやらなきゃならない状況になったらどうしよう。魔法で近づけさせないようにするしかない気がする。


10分間の休憩の後、2回戦が始まった。お兄様と部隊長のサイモンの対戦だ。


お兄様の最初の一太刀で1回戦のようにはいかないと悟ったのか、サイモンから飄々とした雰囲気が消えた。


サイモンはお兄様より身長が低く、小柄なためか動きが素早い。お兄様の攻撃をうまく受け流していくので1回戦のように一瞬で終わらなかった。


するとサイモンが何かのスキルを使ったのか、お兄様が攻撃の途中で驚いた顔をした。そして攻撃の手を止め、一旦サイモンから十分な距離をとった。


サイモンは不敵な笑みを浮かべている。魔力が少し回復しているのが魔力感知でわかった。


「どういうこと……」


思わず口に出た。


「俺あいつ知ってますよ」


私はハインを振り返った。


「え、知ってるの? 接点なさそうだけど」


「ええ。庶民の出で入団試験に1発合格してそれからトントン拍子に出世していったので王国騎士団の間では有名なやつですよ。俺もどんだけ強いやつがいるんだと思ったら……」


「思ったら?」


ハインは前屈みになって私に顔を寄せ、小声で言った。


「あいつ、『吸収』のスキル持ちなんですよ」


私は眉根を寄せた。


「吸収って、何を吸収するの?」


「体力値と魔力値ですよ」


えっ! 何そのスキル!


「そんなのがあるの? それじゃあお兄様は自分の体力値と魔力値がそのスキルで減らされたとわかって一旦引いたってこと?」


「そうなりますね」


お兄様ピンチ! そんな相手にどう戦えば!


「そもそもハインはどうしてあの騎士がそのスキルを持っていることを知っているの?」


はたと疑問に思って尋ねると、「以前あいつがまだ第1にいた時手合わせしたことがあるから」ということだった。なるほど。


「お父様はご存知でした?」


「ああ」


その人が部隊長にまでなっているのはきっとそのスキルが対魔獣や敵に大いに役立つからだと思うけど、こういう試合だと厄介な相手よね。


「さて、ノア様はどう対処するかな」


団長が顎に手を添えて言った。顔が面白がっている。


モニターに顔を戻すと、お兄様が相手に近づいて攻撃したりやや離れたりを繰り返していた。しばらくそうした後、相手と一定の距離を保ち始めた。目測でだいたい5mくらいだ。


「良い位置だ」


ハインが評した。


その位置でお兄様は剣を構え、集中する。


そして大きく振りかぶって剣圧を飛ばした。得物が模造剣でも魔力を帯びた剣圧は鋭い刃と同じで防御をしないと切り刻まれる。


サイモンは厳しい表情で剣で剣圧を防ぐ。それに対しお兄様は幾度となく剣圧を繰り出した。サイモンは防戦一方だ。


なるほど。お兄様のあの位置は相手のスキル効果範囲の外。あの位置にいる限り、サイモンの攻撃はお兄様には届かない。でもお兄様にはそれができる。魔力を帯びた剣圧を飛ばせるのは副団長クラスだからお兄様には朝飯前だわ。


そしてお兄様はとどめに放った一際大きな剣圧でサイモンを場外までふっ飛ばした。


歓声の渦の中に令嬢たちの黄色い声が混じる。


勝ったー! これで決勝進出だわ!


「よぉしっ!」


ハインがガッツポーズをし、騎士団の仲間たちとハイタッチをしていった。私も嬉しさを共有したくてレイとハイン、他の団員たちともささやかにハイタッチをした。「はわわわ」とか言われたけど気にしない。


次戦はユアン殿下とディーノさんだ。ディーノさんのあの猛追を殿下は切り抜けられるかしら。

次回は2/17(月)に投稿致します。

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