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83.月祭(3)

飾り房のお店は月祭限定のお店ではなく、赤茶色のレンガ造りのお洒落な店構えだ。小さいけど外観の綺麗さから最近できたとわかる。お店の中は橙色の暖かみのある光で照らされ、たくさんの飾り房が木製の棚に陳列されていた。


飾り房は既製品のものや、自分で石と房をカスタマイズできるようにもなっていた。


せっかくだから好きな色を組み合わせても良いかもしれない。


「あ、この石ってアンリの瞳の色に似てない?」


青みの強い藤色の石、ブルーレースアゲート。『友情と清らかな愛情の石』だって。……まぁ、意味はそんなに重要視しなくても良いわよね。


「俺の目ってこんな色してる?」


「してるわよ」


アンリの瞳を覗くと、青色の中に紫が所々混ざって高貴な印象を受ける。公爵家だから王族の血が混じっているせいだ。


アンリは照れくさそうに「あまり見るな」と、私の両目を片手で覆うような仕草をした。


「……石はこれで良いが、房はこれが良い」


私の目を覆っていた手をはずして、どこからか持ってきた白銀の房を私に見せた。


白銀って……もしかして私の髪色から? それってなんだか……


私の様子を見たアンリが満足そうに微笑んで、「店主、これとこれの組み合わせで作ってくれ」と頼みに行ってしまった。


「……あ、私が払うからね」


「わかっている。ありがとう」


「金具はどうされますかな?」


「銀で合わせてくれ」


「かしこまりました。少しお時間を頂戴致しますので、店内にてお待ち下さい」


老店主に言われ、10分程店内の飾り房を見て回っていると、店主から出来上がったと声がかかった。


「すみません、こちらの4つ、包んでください」


私は既製品の飾り房を4つ店主に渡し、全部で1金貨を店主に払った。


「はい、これ」


アンリは青藤色の石と白銀の房がついた飾り房をしばらく眺めた後、「ありがとう」と嬉しそうに言った。


「その4つは?」


「私のと家族の分よ」


「……そうか」


ちょっと複雑そうな顔をしたアンリに怪訝に思いながらお店を出ると、そろそろ日が暮れてくる頃だった。


最後に屋敷の使用人たちへのお土産を買い回っていると、すれ違いざまに冒険者たちから話し声が耳に入ってきた。


「なぁ、ギルドの張り紙見たか?」


「ああ、見た。『蒼焔のミヅキ』がまさかあの魔法師団長と対戦するなんてな」


……はい?


聞き捨てならないことが聞こえて思わず冒険者たちを振り返ると、隣で歩いていたアンリに「どうかしたか?」と言われた。


「え、いえ……ちょっとSランク魔法使いのミヅキって人が魔法師団長と対戦するって話が聞こえて……」


ちなみに『蒼焔のミヅキ』は二つ名だ。(ミヅキ)が討伐で火属性魔法の『蒼焔(アスール)』を高頻度で使うからそういうあだ名が冒険者の間で付いてしまった。


何かの間違いよねと思っていると、「ああ、あのことか」とアンリが何か事情を知っている風に頷いた。


「え、何?」


私は恐る恐る聞き返した。


「ユアンから聞いたんだが、来月の闘技大会に選抜された魔法師たちから、無詠唱スキル持ちの魔法使いが勝ち抜き戦に出場するのはフェアじゃないという意見があったんだ。魔法師は詠唱する者がほとんどだからな」


「え」


「確かにそうだってことで、同じ無詠唱スキル持ちのヴェルソー小公爵に白羽の矢が立ったってわけだ。本人は快諾してくれたんだが、Sランクのミヅキは住所不定で連絡がとれなくて、各ギルドに張り紙を出すことにしたらしい。きっとそのことじゃないか?」


まじかい……てか魔法師団長、「無詠唱スキル」を持っているから無詠唱なのか。てことはお父様も「無詠唱スキル」持ちってことよね。私は「無詠唱スキル」じゃなくて「魔法創造スキル」で無詠唱ができるからちょっと違うけど。


「そ、そうなんだ。たのしみだねー」


「何故そんな棒読みなんだ」


確かに詠唱する魔法師と無詠唱の私との間に攻撃のタイムラグができてしまうからフェアじゃない。そこはわかる。


でもだからって魔法師団長と対戦なんてぇぇぇ……あの人この国最強の魔法師なんでしょ? 魔道具製作の印象が強いけど、でもいろんな魔道具が作れるってことはそれだけ魔法に関して造詣が深いってことだ。ああ、まじかぁ……


心の中で文句を垂れながらお土産を買い、それが終わると私達は行きと同じ馬車に乗り込んだ。


窓から西日が差し込み、馬車内は橙と黒の陰影に包まれている。


「今日は楽しかったわ。誘ってくれてありがとう」


「ああ……俺も楽しかった。少し遅くなってしまったな」


月祭は月が出る夜が最も盛り上がりを見せる。でも婚約者でも既婚者でもなんでもない男女が夜2人でいることはあまり良しとされない。


「パーティーは身内だけだろうから先に渡しておく」


「?」


「誕生日おめでとう」


そう言って向かいに座るアンリが懐から小箱を取り出し、私に差し出した。


「え、くれるの? わぁ、ありがとう……開けても良い?」


毎年誕生日当日にプレゼントが身内のものと混じって届いていたから、まさか今日もらえるとは思っていなかった。


私はドキドキしながら青いリボンを解き、小箱を開けた。


「わ……」


それは白銀に輝く櫛だった。持ち手の意匠に繊細に細工された文様と私の瞳に似たアウロラの宝石が施されていた。


「すごい綺麗……こんな高級そうなのもらっても良いの?」


「誕生日プレゼントだから、もらってくれ」


なんかアンリからもらってばかりな気がして、申し訳ないな。


「ありがとう。……ふふ、こんな感じかしら」


私はその櫛で自分の長い髪をといて見せた。


アンリは口元を手で隠しながら、揺れる青藤の瞳でその様子を見ていた。

55話の誤字を修正致しました。ご報告ありがとうございます(^^)


次回は2/10(月)に投稿致します。

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