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幕間(14)ー1

深夜、明かりのない執務室にて。


まだ満月になりきれていない月の光が、執務室の窓の側に佇む主を照らしている。


「月の住人みたいっすね」


思わずそう口をついて出た。絶妙な加減の月光が、主をこの世の者ではない存在のようにさせていたからだ。


主が「何を言っているんだお前は」みたいな視線を投げてきた。さらに「暇なのか」と、毎度影たちの報告時に俺がいることに呆れたように言った。


「だってお嬢寝てるんすもん、ジンだけで良いでしょ」


主が肩をすくめた。居ても良いと許可をもらえたとみなして、俺はふかふかの絨毯の上に胡座をかいた。


「それより、陛下に気づかれちゃいましたね。どうするんすか?」


「……交渉の材料はある」


ああ、お嬢に頼んだやつね。でもいらないとか言われたらどうするんだ?


「そんな回りくどいことしなくても、お嬢に記憶を消す魔法でも創らせればいいじゃないっすか」


「王家の影がいる中でどうやって実行するつもりだ。それに全てを魔法で解決すべきではない」


真面目だなぁ、主は。対してあまり真面目とは言えない陛下にどう対応するつもりなんだか。


あ、ひらめいた。


「主が陛下に熱〜い視線でも投げれば、コロッと主の言うこと何でも聞きそ――」


「どうやらお前は氷漬けが好きなようだな」


いつもより低い美声とともに俺が座る絨毯がピキピキと凍り始めた。


「ウソでーす、冗談でーす、もう何も言いませーんっ! だから氷出さないでー!」


座りながら脚をバタバタさせて脚と尻についた氷を払っていると、俺の近くで黒い影がスッと存在を現した。


「ご報告に伺いました」


その途端、氷の侵食が止まった。ふう、助かったぜ。


「終わったのか?」


「は、全て滞りなく。痕跡も残しておりません」


「そうか。ご苦労だった」


脚と尻を火魔法で温めながら、主と影のやりとりを聞く。


裏社会を牛耳っていた「黒蜘蛛」を無事壊滅させたようだ。上手く細工して敵対組織も瓦解させ、その他の名のある組織の頭も潰した。残っているのは自分たちでは何もできない小物だけ。当分の間裏社会は静かだろうな。いいなぁ、俺もやりたかったぜ。


報告を終えた影が消える。そして入れ替わりに現れたのは、ベリエ家とシュツェ家に潜り込んでいた影だった。何か収穫でもあったか?


「サラか。潜入ご苦労。何かわかったか?」


サラちゃんは俺の同僚だ。小柄で華奢なのに男勝り。主に心酔しているので、主が幼い頃主の護衛をしていた俺を心底嫌っている。


「はい。どちらの家にも『女神の化身』の手記がありました」


「……やはりあったか」


おお、あったのね。探すの大変だったろうに。まぁサラちゃんなら確実にやり遂げると思っていたぞ。


「ですが『女神の化身』しか手記を開くことができないよう秘匿と追跡の魔道具を使って管理されていましたので、持ち出しは困難でした」


「サラちゃんなら透視と記憶のスキルで持ち出さなくても内容を把握できるでしょ」


ギロッとサラちゃんが俺を睨む。おーコワ。


「今主と話している。口を挟むな」


はぁ、やれやれまったく。よし、あったまったぞ。


「ヘンデのことは気にするな。それより続きを」


「失礼しました。まずベリエ家ですが、2人目の『女神の化身』であるレナードが書いた手記は文字が劣化しほぼ読めなくなっていました。ですがシュツェ家の冒険者カイルが書いた手記はまだ読めましたので、その内容をお伝え致します」


ベリエ家の「女神の化身」はだいたい400年前の人物だ。その手記がもう読めないとなると、初代国王の手記がもしあったとしても経年劣化で読めたものではなさそうだな。あの時代には魔道具作りの天才なんていなかっただろうし。


俺はサラちゃんが「女神の化身」の手記を暗唱するのを横で聞いた。

78話の誤字を修正致しました。ご報告ありがとうございます。


次回は1/31(金)に投稿致します。

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