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80.報告と相談(2)

その後は私の結婚についての話になった。


自領から婿養子を取る可能性があるなら私はそれに便乗したいと思っていたけど、今日殿下に言われたことが頭にこびりついていた。


結界が崩壊しスタンピードが起きた後、国を立て直すためにお父様の力が必要であること、つまり後ろ楯がほしいと殿下が言っていたことを私は2人に話した。あとは私の力のことを言っても言わなくても殿下と婚姻を結ばされる可能性が高いということも。


「そうか、殿下はリリア嬢との婚姻は考えていないんだね。ああ、だからあの時『複雑にさせてしまう』と言ったのか」


パーティーの時、確かにそんなようなことを言っていた。あの時は何のことかわからなかったけど、こういうことだったなんて。どうしたら良いんだろう。


「はぁ、私の力が露見したときの未来がわかればどう選択すれば良いのかわかるのに……ちょっと考えたんですけど、スキルで未来がわかる魔法を創ってみたりしても良いですか……なんて」


冗談混じりに笑って言ったら、お父様とお兄様に同時にため息をつかれた。額に手を当てる仕草も一緒だ。


あ、あれ……?


お父様が脚を組み替え、呆れた顔を私に向けた。


「未来がわかるなど、過ぎた力だ。自ずと扱いに困っていくだろう。それにディアナの力が発覚した際、国中、いや他国の者も皆ディアナに自分の未来を示せと迫る。私利私欲に利用されるのがオチだ」


「僕もそう思う」


「すみません、浅はかでした。絶対に創りません」


2人に否定されたので、私は素直に改めた。


「未来がわかる魔法がなくともディアナの力が露見した後のことは大体わかる」


「え、どうなるのですか?」


「貴族は私利私欲の塊だ。己の欲のためにディアナの力を利用しようと考える。なら王家はどうかといえば、殿下がディアナと婚姻を結ぶことで王家の権威はより盤石となる。浄化が成功すれば魔獣を排除した者としてディアナは国の英雄になるからな。また王家は唯一無二の属性を手に入れられることになる。だが我が家の権力が増し、領主貴族家の力の均衡が崩れる。さらに、今まで国政に不可侵を通していた神殿が介入し王家と神殿が対立する恐れが生まれてくる。神殿は月の女神とその眷属神を祀っているため、ディアナの属性を知ればディアナを神殿にと主張するだろう。ディアナの本来の瞳の色も知れば生ける月の女神として扱うべきだと。例えば……聖女、とかな」


聖女……!!


ピシャーンっと稲妻が落ちる効果音を聞いた。前世で一度だけやった乙女ゲームのオープニング映像が脳裏に甦る。


「それは絶対に嫌です……!」


私は力強く言った。籠の鳥になるのはご免だ。


「ディアナが聖女……? このお転婆が?」


「ちょっと失礼ですよ」


目を丸くするお兄様にムスッと応える。


「浄化前にディアナの力が露見した場合も同じだ。王家、領主貴族、神殿の取り合いになる。国の英雄になる存在を、生ける月の女神を懐に入れたいからな。それらの懸念があり、誰かと婚姻を結ぶならディアナは嫁ぐのではなく婿をもらった方が良いと私は考えている。もちろん婿は自領の貴族でないと意味がない。あの属性を我が家が独占してしまうが、何か制約を設ければ支障は少ないはずだ」


「そうですね。ですがディアナに何らかの秘密があることを殿下に知られた今、ディアナを婚約者候補から降ろすとも思えません」


そう。知られていなかったら何かの理由を付けて婿養子を取ることができて、王家や貴族との婚姻を逃れられた。


「秘密の内容をでっち上げるにしても、リリア嬢にはディアナが身体強化スキルしかないことを既に知られています。3属性は女性の中では希少な方ですがそこまで隠す程の秘密ではありませんし……全属性は隠す程の秘密ですが」


お父様は組んでいた腕を解き、片手でこめかみを押さえた。


私は黙ってお父様を見つめた。伏せられた白銀の睫毛が開くまでしばらくかかった。そして――


「魔石を用意する。ディアナの『スキル無効の魔法』と『魔力隠蔽の魔法』をそれに付与してくれないか」


私は意外なことに虚を衝かれた。


「え、それはどういう……」


「それで時間は少しは稼げるはずだ」


「付与した後は私達はどう動けば良いのですか?」


「何もする必要はない。ただ今まで通り秘密を守るだけで良い。殿下ももう詮索してこなくなるだろう」


私は驚きで目を見開いた。俄には信じがたい。


「強制的に婚姻に持ち込めると言われたのに、魔石を用意しただけでそんなあっさりと?」


「ああ。時間を稼いでいる間に婿養子の話を進めても構わないか?」


一瞬言葉に詰まった。


でも躊躇っている場合じゃない。平穏に暮らすためには婿養子を取らないと。お父様も尽力してくれている。好きな人と結婚して幸せな家庭を作るのがちょっと夢だったけど、顔も知らない相手と結婚をするのは貴族令嬢にはよくあることよ。結婚してから恋愛感情が芽生えるかもしれないし、お父様とお母様みたいに信頼し合えるかもしれない。


私はお父様の夜明け色の瞳をまっすぐ見据えた。


「はい、よろしくお願いします」

次回は1/29(水)に投稿致します。

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