79.報告と相談(1)
ユアン殿下とのお茶会の報告と、まだできずにいた自分の結婚についての相談をお父様にするために、その日の夕食後、私はお父様の執務室を訪れた。
中に入ると、お兄様がお父様と向かい合って2人掛けのソファに座っていた。
「僕も同席させてもらうよ。ディアナと殿下との間にあったことは知っておきたい」
私は「わかりました」と頷いて、お兄様の隣に座った。目の前のお父様は長い脚と腕を組んで静かに座っている。
アーヴィングが馴染みの防音の魔道具を作動させた。
「まずは今日の殿下とのお茶会についてですが……」
色々話すことがあるけど何から話そう。でも一番重要なことからよね。
「おそらく殿下は私が何かを隠していることに気づいています」
お父様は静かに頷いた。想定していたと言うような目をしている。
「まさか殿下は魔力増幅の他にも何かスキルを……?」
お父様やお兄様なら何か知ってるかもと思い2人を交互に見る。
「いや、魔力増幅と身体強化だけだよ」
「それは確かなのですか?」
「戦闘に役立つスキルだから隠す必要がないって、そうだって殿下は言っていたよ。あとリリア嬢もその2つであることを知っているって」
ああ、前にリリアが言っていた「見破りのスキル」ってやつか。あの子殿下にも使っていたのね。
「リリア嬢のスキルのことは知っているんだ」
お兄様に聞かれ、リリアが王子妃教育から逃れるためにここに来た時のことを話した。
「ステータス改ざんしておいて何よりだよ」
ホントその通りよ。お父様の助言がなかったら終わっていたわ。
「殿下のスキルがその2つだけなのはわかりましたけど、それならどうして殿下は私に秘密があるなんて気づいたのかしら」
「殿下ではない誰かのスキルで知られて、殿下に告げ口したとか?」
うん、もうそれしか当てはまらない気がする。でも一体誰が? 殿下に告げ口してきた人はきっと殿下が信用している人だ。じゃないとあの殿下がカマをかけてきたにしても確信のないことを不用意に人に尋ねたりしない、はず。
私はお兄様と揃ってお父様に顔を向けた。
お父様は瞳を伏せている。夜明け色の瞳が、白銀の長い睫毛で隠されている。
やっぱり機密事項に触れることだから何も言えないのかしら。
「機密事項ですか?」
お兄様が代弁してくれた。
お父様が徐に頷き、そして口を開いた。
「王宮はどこで誰が聞いていてもおかしくない場所だ。王宮への出入りが多いノアは前にも言ったようにディアナのことは口にしないようにしなさい。王宮に限らずな。ディアナはそのピアスとネックレスを肌身離さず着けていれば何も心配はない。念の為『ミヅキ』にもスキル無効が付与された装飾品か何かを身に着けておくように。『ミヅキ』とうちとの繋がりを隠すため魔石はこちらで用意はできないが……ああ、『ミヅキ』の魔力は知られているため魔力隠蔽はなくて良い」
「はい、父上」
「……わかりました。そうします。魔石はブルーホーンディアのがまだ残っているのでそれでまた作りますね」
『ミヅキ』にはピアスと指輪が既にあるから次は……イヤーカフにするかな。腕輪はちょっと邪魔だし。
怪しいのは殿下じゃないということはわかったけど、何らかのスキルを使って私に秘密があることを知った人物がいることは確かだ。それも殿下に近しい人で殿下が信用する人……
機密事項って大体王家に関係することが多いわよね。
途端、体が強張るのを感じた。
国王陛下、王妃、ローラ王女……この中の誰かが殿下に私に秘密があることを教えた……
確かにこの3人は殿下の誕生パーティーの場にいたし、あり得る気がする。
そして一番怪しそうなのは、あの時私に嫌味を言ってきた王妃様……
リリアと殿下の婚姻の妨げになる私は王妃様にとって邪魔な存在。その邪魔な私に何か秘密がないか探っているとか……
はぁ……リリアの邪魔なんてしないから、私を探るのやめてほしいわ。王宮に行かなければ良いのだけど、殿下と交流を深めるとかなんとかでまた何か招待してくる可能性があるし……次、王妃様も同席したらどうしよ……
2話続けて投稿致します。




